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読書記録:「ザ・ワールド・フォー・セール」


新型コロナウイルス禍やウクライナ戦争を経て、原油や金属、穀物の価格が急上昇しました。その中で莫大な利益を上げたと見られるコモディティー商社に焦点を当てた本がブルームバーグ通信の記者であるハビアー・ブラスとジャック・ファーキーが書いた「ザ・ワールド・フォー・セール」です。コモディティー商社の歴史や役割、今後の課題などが盛り込まれたかなり読み応えのある作品となっています。


別の時期に別の場所で売る

この本はコモディティー商社の役割は簡単で、ある時期に買った資源を別の時期に別の場所で売り、その過程で利益を得ることだと指摘しています。なぜこのような役割が存在するかというと、商品の需給は一致しないことが多いためだそうです。供給元と販売先の場所が異なり、そもそも生産者が販売網を世界中に持てるわけではないというのも商社が活躍できる背景だそうです。

また資源の国有化の波に乗り中東やアフリカ、ラテンアメリカの各国政府が自国で生産されるコモディティーを掌握するのに伴い、トレーダーたちはこのように新たに権利を主張し始めた多くの国とグローバルな金融システムのつなぎ役にもなりました。

新型コロナウイルスで石油需要が縮小したときにも大きな役割を果たしました。コモディティー商社は行き場を失った大量の石油を購入して保管したのです。そうでなければ多くの石油会社が破綻していたとこの本は指摘しています。米エネルギー情報局(EIA)によると、実際に2020年3月時点で、6000万バレル台だった原油の洋上在庫は7月には2億超バレルまでに膨らみました。商社が買い付けて洋上に保管したとみられます。

今後の課題

情報の民主化

最後の章では、コモディティー商社の今後の課題をいくつか挙げています。1つめは情報の民主化です。あらゆる市場参加者が同じ情報にアクセスしやすくなったために、市場の変化を誰よりも早く知って利用するという従来のビジネスモデルは維持しづらくなっています。

市場の分断化

消費者は製品の生産や流通過程を気にするようになったために、原料がどこから来たのかを正確に伝える必要が出てきました。これにより、商社はどこからでも仕入れて誰にでも売るというのができなくなります。

気候変動

コモディティー商社の利益の多くが、石油やガスなど化石燃料の取引から来ています。石油が汚染に責任があるなら、コモディティー商社は石油を市場に送り出す存在として位置付けられてしまいます。

感想

ページ数が多く最初は面食らいましたが、臨場感あるエピソードも多く割とすらすらと読み進めることができました。モノを買って絶妙なタイミングで売るだけで、こんなにもお金が動くのかというのにまず驚きました。生産のリスクを負うことなく莫大な利益を上げているのが、IPOなどで明らかになり生産国からの怒りを買うのも当然だなとも思います。一方、コロナ禍の石油購入などコモディティー商社だからこそ果たせる役割も再認識されました。今後は開示情報を増やしたり、トレーサビリティーの要請にうまく対応しながらも活躍を続けていくのでしょうか。

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