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<書評>「ホーキング、未来を語る」

20200530ホーキングクルミの中の宇宙

“Stephen Hawking The Universe in a Nutshell”の邦訳 直訳では「スティーブン・ホーキング、クルミの中の宇宙」だが、邦訳は「ホーキング、未来を語る」になっている。 佐藤勝彦訳 2001年 角川書店

題名は、シェイクスピアの「ハムレット」第2幕から、「私はクルミの殻の中に閉じ込められた小さな存在にすぎないのかもしれない。しかし、私は自分自身を無限に広がった宇宙の王者と思い込むこともできるのだ。」を引用したもので、ホーキングの宇宙観に一致している。

また本書の最後には、「嵐(テンペスト)」から、ミランダの台詞「Brave new world」を、ホーキングが提唱する我々が生存している宇宙モデルであるブレーン(Brane)に言い換えた「Brane new world」として、「まあ、なんてブレーン新世界は素晴らしいところでしょう!だってこんなにすてきな人が住んでいるのですから、この世界は。」と結ばれている。

このブレーンの説明は、以下の画像でよくわかる。別の宇宙からの光は我々の宇宙には届かないので、別宇宙の存在は確認できないが、一方我々の宇宙の重力バランスは、別の宇宙からの重力波が影響していないと計算が合わないことから、別の宇宙(ブレーン)が我々の宇宙(ブレーン)に隣り合っているという推論が成り立つそうだ。

ホーキングブレーン同士の重力波の影響

本書では、私も読んだ大ベストセラーの「ホーキング、宇宙を語るA Brief History of Time」1988年から続く、ホーキングが大好きな「人間原理」が引き続き表明されている。本書の(注)によれば、人間原理とは「私たちが今見ている宇宙の姿が、そのようであるのはなぜなのか?もし少しでも異なるならば、私たちはここで存在しなくなってしまう。つまり宇宙を認識する人間が存在しない宇宙は認識されず、認識されるのは今のような人間の誕生する宇宙のみであるという考え。」と説明されている。ざっと読んだ印象では、この人間原理は、エマニュエル・カント「純粋理性批判」の概念と似ているように思える。

人間原理というからには、人間の進化もテーマになっているのだが、最も面白いと感じたのは、ヒトの脳の遺伝子組み換えとサイボーグによる進化の話で、これが実現すれば、銀河系を巡る宇宙旅行も可能になるだろう。なんといっても、ヒトが飲食する必要はなく、老化もしない不老不死になるから、光速で何百万年かかる旅行もできるだろう。

ホーキング人の遺伝子組換え

難しいことは止めよう。本書で秀逸なのは、もちろんホーキングの数式を使わない言葉巧みな宇宙物理学の解説だが、それよりも優れていると思うのは、どこかキッチュでレトロな感じを漂わすイラストの数々だ。前述のヒトの進化に加え、宇宙船の絵が良い。こんな宇宙船に乗って、自分の脳と身体をサイボーグにして銀河系を巡ってみたいものだ。

ホーキング星間旅行の宇宙船


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