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2020年映画ベスト10と総括/相次ぐ大作公開延期も光る良作の数々

今年も残すところあとわずか。2020年は多くの出来事がありました。

まずは新型コロナウィルスの感染拡大。当時は予想だにもしませんでしたが、今でもその不安に苛まれています。コロナショックによる緊急事態宣言、そこからの映画館休館と、映画業界は大打撃を受けました。

一方で、明るいニュースもありました。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の歴史的大ヒットと19年ぶりとなる日本興行収入の首位交代。『千と千尋の神隠し』が長年キープし続けてきた1位の座をジャンプ漫画のアニメ映画が記録を塗り替えました。かくいう私もアニメを一気見して、劇場鑑賞したほどです。

日本映画界を救ったと思えるほどの歴史的快挙があった一方、大作洋画が軒並み公開延期。ディズニーが『ムーラン』や『ソウルフルワールド』を配信のみで販売するなど、映画のあり方そのものが変わりつつあります。

じゃあ今年の映画は全然ダメだったかというとそうではありません。2020年も邦画・外国映画も含め傑作ともいえる素晴らしい作品とたくさん出会うことができました。今回は、2020年公開の新作映画のベスト10(多分に主観が入っています)をこちらで紹介してまいります。自粛生活も余儀なくされている昨今、是非とも今後の映画ライフの参考にしていただければと考えております。

⑩異端の鳥

<あらすじ>ナチスのホロコーストから逃れるために田舎に疎開した少年が差別に抗いながら強く生き抜く姿と、ごく普通の人々が異物である少年を徹底的に攻撃する姿を描き、第76回ベネチア国際映画祭でユニセフ賞を受賞した作品。ポーランドの作家イェジー・コシンスキが1965年に発表した同名小説を原作に、チェコ出身のバーツラフ・マルホウル監督が11年の歳月をかけて映像化した。東欧のどこか。ホロコーストを逃れて疎開した少年は、預かり先である1人暮らしの叔母が病死して行き場を失い、たった1人で旅に出ることに。行く先々で彼を異物とみなす人間たちからひどい仕打ちを受けながらも、なんとか生き延びようと必死でもがき続けるが……。新人俳優ペトル・コラールが主演を務め、ステラン・スカルスガルド、ハーベイ・カイテルらベテラン俳優陣が脇を固める。2019年・第32回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門では「ペインテッド・バード」のタイトルで上映。(映画.comより)

とてつもない映画を観てしまった…そんな衝撃を受けたことからのランクインです。上映時間は169分、本作が評価されたベネチア国際映画祭でもあまりの残酷な描写の連続に途中退席者が続出したとのこと。

1人の少年がロードムービー的に流れ流れて旅をしていくのですが、次から次に少年に襲いかかる試練の数々が残酷、かつグロテスクな演出も続くため、確かに胸糞は悪いです。純真無垢な心優しき少年が酷い仕打ちを体験していくことで、生き抜くためには残酷にならざるをえないことを学んでいく模様がとても無慈悲でした。

ただし、ラストまで観た結果、とても清々しい気持ちを体験することができ、映画祭の拍手喝采も納得の傑作でした。この作品をきっかけに差別を嫌い、人に優しくすることが学べるのではないかと思います。グロ描写は強いですが、是非とも多くの方に観ていただきたいウクライナ産の素晴らしい作品です。

⑨ブルータル・ジャスティス

<あらすじ>「トマホーク ガンマンvs食人族」「デンジャラス・プリズン 牢獄の処刑人」などでカルト的人気を集める気鋭の監督S・クレイグ・ザラーが手がけたバイオレンスアクション。ベテラン刑事のブレットと相棒のトニーは、強引な逮捕が原因で6週間の無給の停職処分を受けてしまう。どうしても大金を必要としていたブレットは、犯罪者たちを監視し、彼らが取引した金を強奪するという計画を練る。ブレットはトニーを誘って計画を実行に移し、ボーゲルマンという男の監視を開始する。そしてある朝、動き始めたボーゲルマンとその仲間を尾行するが……。ブレット役をメル・ギブソンが演じ、トニー役は「デンジャラス・プリズン 牢獄の処刑人」でもザラー監督とタッグを組んだビンス・ボーンが務めた。そのほか「戦場のピアニスト」「タクシー運転手 約束は海を越えて」のトーマス・クレッチマンが出演し、極悪非道の強盗犯を演じている。(映画.comより)

初期『マッド・マックス』シリーズの主役として有名なメル・ギブソン主演作。彼の主演作で今年日本公開作品は他に『博士と狂人』もありますが、近年はあまり話題作への出演が少ないことから久しぶりに良作へのお出ましといった感覚です。

とにかく本作は”間”が絶妙です。人によっては無駄なシーンが多い、上映時間が長い(159分)、と文句タラタラなわけですが、一部絶大な支持を得ており、SNSの2020年映画ベスト10でもランクインさせる人を多く見かけました。

ド派手な銀行強盗のアクションシーンは特に見せ場の一つですが、メル・ギブソンとヴィンス・ヴォーンの刑事コンビと犯人グループが対峙する銃撃シーンの心理戦がたまらなく見応えがあります。決して派手なアクションシーンではないし、セリフも極力排除されており、無音の状態が長く続きます。ただ、そこから感じさせる絶妙な緊張感が手に汗握る展開となり、一気に前のめりになること請け合い。前述の刑事コンビの車中会話シーンもシュールで笑えます。

⑧シカゴ7裁判

<あらすじ>「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー脚色賞を受賞し、「マネーボール」や自身の監督作「モリーズ・ゲーム」でも同賞にノミネートされたアーロン・ソーキンがメガホンをとったNetflixオリジナル映画で、ベトナム戦争の抗議運動から逮捕・起訴された7人の男の裁判の行方を描いた実録ドラマ。キャストには、「ファンタスティック・ビースト」シリーズのエディ・レッドメインをはじめ、ジョセフ・ゴードン=レビット、サシャ・バロン・コーエン、マイケル・キートン、マーク・ライランスら豪華俳優陣が集結した。1968年、シカゴで開かれた民主党全国大会の会場近くに、ベトナム戦争に反対する市民や活動家たちが抗議デモのために集まった。当初は平和的に実施されるはずだったデモは徐々に激化し、警察との間で激しい衝突が起こる。デモの首謀者とされたアビー・ホフマン、トム・ヘイデンら7人の男(シカゴ・セブン)は、暴動をあおった罪で起訴され、裁判にかけられる。その裁判は陪審員の買収や盗聴などが相次ぎ、後に歴史に悪名を残す裁判となるが、男たちは信念を曲げずに立ち向かっていく。Netflixで2020年10月16日から配信。一部の映画館で10月9日から劇場公開。(映画.comより)

以前、noteにて記事を執筆した本作。私の年間8位にランクインです。記事は以下をご参照ください。

詳しくは記事を参考にしていただければと思いますが、とにかく本作はラストシーンのカタルシスがハンパないです。人によっては、立ち上がりたくもなり、拍手したくもなり、腕を掲げたくもなる。それほど熱い気持ちが込み上げます。

今年5月にミネソタ州ミネアポリスで起こった白人警官による黒人男性拘束・殺害事件(ジョージ・フロイド事件)により活発化した”ブラック・ライブス・マター(BLM)運動”。人種差別の問題が21世紀の今もなお、普通に巻き起こっていることが問題視されたことから、本作はより一層デモや差別に関して真剣に考えるきっかけともなりえます。

⑦1917 命をかけた伝令

<あらすじ>「007 スペクター」「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」などで知られる名匠サム・メンデスが、第1次世界大戦を舞台に描く戦争ドラマ。若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクの2人が、兄を含めた最前線にいる仲間1600人の命を救うべく、重要な命令を一刻も早く伝達するため、さまざまな危険が待ち受ける敵陣に身を投じて駆け抜けていく姿を、全編ワンカット撮影で描いた。1917年4月、フランスの西部戦線では防衛線を挟んでドイツ軍と連合国軍のにらみ合いが続き、消耗戦を繰り返していた。そんな中、若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクは、撤退したドイツ軍を追撃中のマッケンジー大佐の部隊に重要なメッセージを届ける任務を与えられる。戦場を駆け抜ける2人の英国兵をジョージ・マッケイ、ディーン・チャールズ=チャップマンという若手俳優が演じ、その周囲をベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロングらイギリスを代表する実力派が固めた。撮影は、「007 スペクター」でもメンデス監督とタッグを組んだ名手ロジャー・ディーキンス。第92回アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む10部門でノミネートされ撮影賞、録音賞、視覚効果賞を受賞した。(映画.comより)

驚くべき映像体験、まるでRPGの世界観を追体験、いや実際に体験しているような感覚を味わえます。映画館で味わってこそ楽しめる作品とも言えますが、とにかく大きなテレビ、没頭できる視聴環境で鑑賞することをオススメします。

SNSでも議論になりましたが、本作は全編ワンカットという触れ込みではありますが、実際にはワンカット風だということ。正直、ワンカット風であっても、これだけの没入できる撮影を実現したこと自体が凄いのです。知らない方にはこの機会に是非とも覚えていただきたいのですが、撮影監督のロジャー・ディーキンスだからこそ為せた技といえるでしょう。『ショーシャンクの空に』の撮影を手掛けた方と言えば多くの方に理解していただけるかもしれません。2017年には『ブレードランナー2049』で、14度目のノミネートにしてアカデミー撮影賞を初受賞した実績を持つトップ撮影監督の1人です。

本記事執筆(2020年12月30日)時点で、すでにAmazonプライム会員は見放題なので、是非ともご鑑賞ください。

⑥マザーレス・ブルックリン

<あらすじ>エドワード・ノートンが「僕たちのアナ・バナナ」以来となる約19年ぶりの監督業に挑んだ作品で、1950年代のニューヨークを舞台に私立探偵が殺人事件の真相を追うアメリカンノワール。ノートンが監督のほか脚本、製作、主演も務めた。障害を抱えながらも驚異的な記憶力を持つ私立探偵のライオネル・エスログの人生の恩人であり、唯一の友人でもあるボスのフランク・ミナが殺害された。事件の真相を探るべく、エスログがハーレムのジャズクラブ、ブルックリンのスラム街と大都会の闇に迫っていく。わずかな手掛かり、天性の勘、そして行動力を頼りに事件を追うエスログがたどり着いたのは、腐敗した街でもっとも危険と称される黒幕の男だった。共演にはブルース・ウィリス、ググ・バサ=ロー、アレック・ボールドウィン、ウィレム・デフォーらが顔をそろえる。(映画.comより)

エドワード・ノートンの圧倒的な表現力・演技力に魅了されたことからランクインした本作。あらすじにもある通り、私立探偵が殺人事件の真相を追うノワール作品なんですが、ノートン演じるライオネルはトゥレット症候群という障害を抱えているという難しい役柄なんです。

これがとにかく凄い!調べてみるとトゥレット症候群は人によって症状も異なり一貫性がないとのこと。監督・製作・主演を一挙に務めたこともあり、役作りには並々ならぬこだわりを持って臨んだことと思われます。

『ブルータル・ジャスティス』とも共通するのですが、本作は犯人と直接対峙するシーン以外は基本的にかなりスローテンポなんです。だから人によっては退屈を覚える可能性は拭えないのですが、ノートンをはじめとした役者の演技とジャズ調の音楽が集中力を引き立ててくれるので、体感時間は決して長くはありません。

こちらはNetflixで見放題です。是非とも年末年始のお供にお楽しみください。

⑤黒い司法

<あらすじ>冤罪の死刑囚たちのために奮闘する弁護士ブライアン・スティーブンソンの実話を、「クリード チャンプを継ぐ男」「ブラックパンサー」のマイケル・B・ジョーダン主演で映画化したヒューマンドラマ。黒人への差別が根強い1980年代の米アラバマ州。犯してもいない罪で死刑宣告された黒人の被告人ウォルターを助けるため、新人弁護士のブライアンが立ち上がるが、仕組まれた証言や白人の陪審員たち、証人や弁護士たちへの脅迫など、数々の困難に直面する。監督は「ショート・ターム」「ガラスの城の約束」のデスティン・ダニエル・クレットン。主人公の弁護士ブライアンをジョーダンが演じるほか、ブライアンが救おうとする被告人ウォルター役をオスカー俳優のジェイミー・フォックス、ブライアンとともに法律事務所で働くエバ役を、クレットン監督とは3度目のタッグとなるブリー・ラーソンが担当した。(映画.comより)

ロッキーシリーズの正統なる続編『クリード』シリーズの主演として大ブレイクを果たしたマイケル・B・ジョーダンが弁護士役を演じる本作。調べたらすぐわかるんですが、邦題のサブタイトルが明らかなネタバレなのでここでは明記しません(というか貼り付けたYouTube見ればわかりますが)。

物語の舞台になっているアラバマ州は、かつて白人女性の性的暴行容疑で逮捕された黒人青年を白人弁護士が弁護する『アラバマ物語』でも舞台になった場所。同作は1962年と60年近く前の作品であるにもかかわらず、似たようなテーマを扱うことは約60年経った今でも黒人差別が蔓延っていることに対する皮肉とも思えます。

緊迫感のある法廷劇は見応えがありますが、弁護士ブライアン・スティーブンソンの視点で一緒に裁判の進行を見守るため、終わった瞬間の感動はひと言では言い表せないほど。劇中ではクライマックスで涙が止まりませんでした。

こちらはNetflixで見放題です。最近は配信が始まるのも早いですね。

④アンダードッグ(前編/後編)

<あらすじ>「百円の恋」の武正晴監督が、森山未來、北村匠海、勝地涼をキャストに迎えたボクシング映画の前編。プロボクサーの末永晃はかつて掴みかけたチャンピオンの夢を諦めきれず、現在も“咬ませ犬”としてリングに上がり、ボクシングにしがみつく日々を送っていた。一方、児童養護施設出身で秘密の過去を持つ大村龍太は、ボクシングの才能を認められ将来を期待されている。大物俳優の2世タレントで芸人としても鳴かず飛ばずの宮木瞬は、テレビ番組の企画でボクシングの試合に挑むことに。それぞれの生き様を抱える3人の男たちは、人生の再起をかけて拳を交えるが……。「百円の恋」の足立紳が原作・脚本を担当。3人の男たちを中心に描いた「劇場版」は前後編の2部構成で同日公開。また、3人と彼らを取り巻く人々の群像劇として全8話のシリーズで描く「配信版」もABEMAプレミアムで配信される。(映画.comより)

ボクシング映画って胸熱くなりますよね。この作品は”持たざる者”の物語。スポーツや格闘技を題材にした作品は、”勝利”することの重要性を説く作品が多いですが、本作はそうではありません。森山未來演じる本作の主人公・末永晃はかつて世界チャンピオン目前のトップランカーでしたが、それ以来勝ちから見放された負け犬ボクサー。前編131分、後編145分の長さに腰が引けますが、間違いなく心を揺さぶられる傑作です。

特に私は前編がお気に入り。末永の対戦相手として、前編では勝地涼演じる宮木瞬、後編では北村匠海演じる大村龍太が宛てがわれるのですが、前編の宮木にあまりにも感情移入してしまいました。

宮木は大物俳優の二世タレントで、寒い下ネタギャグを売りにした名前負けのお笑い芸人です。かつて人気企画だったTOKIOのガチンコファイトクラブのような番組企画で、宮木がプロボクサーを目指すわけですが、本気で勝ちに行きたい宮木とそれを茶化す周りとの空気感を、勝地涼が見事演じていました。クライマックスの末永との対戦シーンは涙腺崩壊必至。前後編一気に鑑賞することをオススメします。

③きっと、またあえる

<あらすじ>「ダンガル きっと、つよくなる」のニテーシュ・ティワーリー監督が、自身の大学時代のエピソードなども盛り込みながら、1990年代インドの工科大学の学生寮を舞台に、主人公と仲間たちの友情を描いた一作。息子が受験に失敗し、病院に担ぎ込まれたアニ。そこへいまは親世代となった悪友たちが集まり、アニの息子を励ますため学生時代の奮闘記を語り始める。90年代、インドでもトップクラスのボンベイ工科大学に入学したアニだったが、学生寮は負け犬ばかりが集まるといわれるボロボロの4号寮に振り分けられる。アニと4号寮の仲間たちは、寮対抗の競技会で「負け犬寮」の汚名を返上すべく、知恵とやる気と団結力でさまざまな競技を勝ち抜いていくのだが……。主人公アニ役に「PK」のスシャント・シン・ラージプート、ヒロインとなるマヤ役に「サーホー」のシュラッダー・カプール。(映画.comより)

歌って踊って楽しいインド映画に傑作がまた加わりました。上映時間は143分の長尺ですが、150分越えが当たり前のインド映画の中では割と手がつけやすい方かもしれません。感動作でもありますが、本作はとにかく楽しく前向きになれることがいい。

インドの受験戦争は社会問題化しており、なんと100万人も受験して難関大学に合格するのはわずか1万人。受験に落ちれば”失敗の烙印”を押されたのと同様で、受験失敗をきっかけに自殺する人が後を絶たないといいます。

本作も主人公の息子がまさに受験生で、不合格の通知に対するショックから自殺未遂を図ります。気づかぬうちに息子にプレッシャーをかけていたのではと自責の念に駆られる主人公は、かつて大学時代に苦楽を共にした仲間を集めるのです。

個性豊かな仲間たちと学生寮対抗のゼネラル・チャンピオンシップ優勝を目指して一致団結する昔話をきっかけに、一度の受験に失敗したぐらいで死ぬことの方がもったいない、人生はそこで終わりじゃない、どんなに苦しくても大切なものを見失ってはいけないというメッセージを受け取り、気分良く劇場を後にしました。

このようなメッセージ性を含む作品に出演しながら、主演のスシャント・シン・ラージプートは今年2020年6月にムンバイの自宅で自殺…「統合失調症」「双極性障害」「痛みを感じない死に方」の情報をGoogleで検索していたとの情報もあり、かなりのショックを受けました。改めて、ご冥福をお祈りいたします。

②ステップ

<あらすじ>妻に先立たれて男手ひとつで娘を育てるシングルファーザーと、母親を亡くし父と2人で人生を歩む娘の10年間の足跡を描いた重松清の同名小説を、山田孝之主演で映画化。結婚3年目、30歳という若さで妻の朋子に先立たれた健一。妻の父母から1人娘の美紀を引き取ろうかと声をかけてもらったが、健一は妻と時間をともにした妻の気配が漂うこの家で、娘と天国にいる妻との新しい生活を始めることを決める。娘の美紀の保育園から小学校卒業までの10年間、さまざまな壁にぶつかりながらも、亡き妻を思いながら、健一はゆっくりと歩みを進めていく。山田が自身初のシングルファーザー役を演じるほか、國村隼、余貴美子、広末涼子、伊藤沙莉、川栄李奈らが顔をそろえる。監督は「虹色デイズ」「大人ドロップ」の飯塚健。(映画.comより)

家族の物語、親子の物語、兄弟の絆、などなど、そのような作品にめっぽう弱い私ですが、本作に対する思い入れは尋常ではありません。劇場で3回鑑賞、その後重松清の原作小説まで読むぐらいハマりました。

山田孝之がシングルファーザーの困難を丁寧に演じ、娘の美紀と共に成長をしていく物語ですが、とにかく感情移入したのは國村隼演じる継父との関係性。驚くほど善人ばかり出てくる映画ですが、そんな恵まれた環境においても子育ての苦労を感じさせつつ、だけども達成感と楽しみを味わえます。そんななかで、妻の父親である村松明の存在は欠かせません。

血は繋がっていなくとも、本当の親子のように振舞う。「俺の自慢の息子だ」と本当の子供同然に可愛がり、息子として信頼を置く、その強固な関係性に感情を揺さぶられないはずがありません。

①ザ・ピーナッツバター・ファルコン

<あらすじ>ツキに見放された漁師と施設から脱走したダウン症の青年、施設の看護師の3人による青年の夢をかなえるための冒険の旅を描いたヒューマンドラマ。養護施設で暮らすダウン症のザックは、子どもの頃からの夢だったプロレスラーの養成学校に入るため施設を脱走する。兄を亡くして孤独な日々を送る漁師のタイラーは、他人の獲物を盗んでいたことがバレたことから、ボートでの逃亡を図る。そんなタイラーと偶然に出会ったザック、そしてザックを捜すためにやってきた施設の看護師エレノアも加わり、3人はザックのためにある目的地へと向かう。タイラー役をシャイア・ラブーフ、エレノア役をダコタ・ジョンソン、ザック役を作品製作のきっかけとなったザック・ゴッツァーゲンが演じ、ジョン・ホークス、トーマス・ヘイデン・チャーチらが脇を固める。監督は本作が長編初監督作となるタイラー・ニルソン&マイケル・シュワルツ。(映画.comより)

感動だけではない、男と男の友情を描き、家族としてのあり方として新たなアプローチを見せてくれた本作が私の年間1位です。昨年2019年のロードムービーナンバー1は『グリーンブック』、そして今年2020年は本作『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』です。

プロレスラーになることを夢見るダウン症の少年。施設では自由がきかず、制限ばかりかけられることに鬱屈とした日々を過ごしているザックでしたが、ある日養護施設を脱走。そこで出会う青年タイラーと一緒に旅をしながら友情を育んでいきます。

タイラーの役は『トランスフォーマー』シリーズでお馴染みのシャイア・ラブーフ。彼は同作以降、あまり話題にはならず、酒気帯び運転での逮捕や恋愛遍歴ばかりが取り沙汰される残念なキャリアを送っていました。

そこで本作が彼の新たなキャリアのスタートとなったのではないでしょうか。円熟味の増した演技は、『トランスフォーマー』時代の憎たらしさは鳴りを潜め、見事なぐらいベテランらしい表現力が備わっていました。今年は自身で脚本を手掛けた『ハニーボーイ』では半自伝的作品ということもあり、作品にかける想いが透けて見えるかのようでした。まるで萎んだボールが空気いっぱいの跳ねる強いボールになったかのような変わりように、私自身彼の演技が好きになりました。

タイラー、ザックともに家族を亡くした過去があり、彼らが友人として、そして家族として絆を深め合っていく物語はとても感動的。私にとって今後も大切にしたい作品となりました。

◆2020年ジャンル別ランキングまとめ

【邦画】

❶ステップ
❷アンダードッグ前編
❸his
④アルプススタンドのはしの方
⑤朝が来る
⑥妖怪人間ベラ
⑦ソワレ
⑧宇宙でいちばんあかるい屋根
⑨初恋
⑩フード・ラック 食運

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【アニメ】

❶魔女見習いをさがして
❷ジョゼと虎と魚たち
❸音楽
④劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン
⑤ミッシング・リンク
⑥2分の1の魔法
⑦劇場版「鬼滅の刃」無限列車編
⑧劇場版ポケットモンスターココ
⑨映画えんとつ町のプペル
⑩Away
⑩映画ドラえもん のび太の新恐竜

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【外国映画(日米英除く)】

❶きっと、またあえる(インド)
❷異端の鳥(ウクライナ・チェコ)
❸コリーニ事件(ドイツ)
④マティアス&マキシム(カナダ)
⑤ライド・ライク・ア・ガール(オーストラリア)
⑥スペシャルズ !(フランス)
⑦燃ゆる女の肖像(フランス)
⑧パラサイト 半地下の家族(韓国)
⑨誰もが愛しいチャンピオン(スペイン)
⑩ANNA/アナ(フランス)
⑩レ・ミゼラブル(フランス)
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上記の通り、できるだけ多くの作品にスポットを当てたく、部門別でランキングを作りました。こちらも是非ご参考にしてください。

2020年は『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』や『ブラックウィドウ』、『キングスマン:ファースト・エージェント』、『ワイルド・スピード ジェット・ブレイク』、『トップガン マーヴェリック』などの大作映画が次々に延期しました。2021年の公開予定もありますが、これまでの延期に次ぐ再延期も考えると予断を許しません。ただし、そんななかクリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』はグランドシネマサンシャインでのIMAXオープニング成績が世界1位を記録するなど、彼が公開を決定してくれたからこその名誉ある記録が生まれました。

また、コロナショックの影響により、配信オンリーの映画作品もたくさん輩出され、そのなかにも傑作・良作が出てきています。こちらも配信作品のベストという形で、時間があるときに更新しようと考えております。

2021年も素敵な映画に出会えますように。ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!良いお年をお迎えください!

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