プロフェッショナルの仕事(2)

栗山英樹監督 その悔しさを生涯忘れないで
(2018年3月9日 北海道新聞朝刊掲載分) 

共に甲子園デビュー
「本当に頑張ったのは(松本)剛ですね」。これは2017年に頑張った選手を聞かれた時の栗山英樹監督のコメントです。悔しいシーズンのなかでファンにインパクトを残す活躍を見せてくれた松本剛選手。侍ジャパンにも選出され、4日のオーストラリア戦(京セラドーム)では2安打3打点。今後の飛躍が大いに期待できます。そんな松本選手と栗山監督はプロ入り前からつながりがありました。
スポーツキャスター時代の栗山監督が、TV番組「熱闘甲子園」を担当した年の夏に、帝京高校1年だった松本選手が甲子園デビューを果たしているのです。さらに主将として迎えた3年の夏、2回戦で先制ホームランを放ったものの、9回に逆転満塁本塁打を打たれチームは敗退しました。

すべて僕の責任です
その逆転本塁打の直前にショートを守っていた松本選手は、痛恨のタイムリーエラーをしているのですが、試合後の「今日はすべて僕の責任です」とのコメントに悔しさと仲間への思いが凝縮されています。このエピソードは栗山監督が、自身の著書「2011年、特別な夏 はるかなる甲子園」(日刊スポーツ出版社)で紹介しており、松本選手へのメッセージで、こう記述しています。

あのエラーがあったからこそ、今がある
「甲子園はなんて厳しいんだろう、そう思いました。でもそれを乗り越えて、さらに成長してくれると思うからこそ、その試練を与えられたと思うんです」「その悔しさ、早く忘れてなんて言いません。生涯忘れないでいてほしいと思います。それを常に持ち続けて、最高の内野手になって下さい。そして10年後、あのエラーがあったからこそ、今があるんです。そんな言葉を待っています」
高校時代の手痛い敗戦を乗り越えて頑張る選手がいる。私たちファンにとっても元気をもらえるエピソードですね。

一番悔しい1年
11年のドラフト会議で松本選手は2位指名を受け、栗山監督は監督に就任。いわば2人は同期入団で、そこに運命のようなものを感じます。ファイターズが日本一に輝いた16年のシーズン。松本選手は12試合しか出場できませんでした。「野球人生のなかで一番悔しい1年」と振り返っていますが、高校時代より悔しかった思いをバネに臨んだ昨シーズンでした。今季、松本選手にとってもチームにとっても充実した1年になることを願っています。そして、東京五輪、WBCでも躍動する松本選手を見られるのを楽しみにしています。頑張れ、松本選手!

追記
松本選手のように、栗山監督と野球だけでなく、人生においても深い縁のある選手は、私たちが知らないところでもたくさんいるように思います。以前ある雑誌で、ソフトバンクの甲斐拓也捕手が栗山監督に「僕も本が読みたいので、おススメがあれば教えて下さい」と依頼したエピソードが紹介されていました。後日、甲斐捕手のもとに、稲盛和夫氏の本をはじめ、段ボールいっぱいの本が送られてきたそうです。栗山監督からしたら、ライバルチームの選手であろうと、その選手が人間的に成長するためには、できることは何でもするということかと思います。WBCの采配ばかりが注目されていますが、普段からこうした行動が自然にできる人間だからこそ、栗山監督は周りからの信頼度も高いのだと思います。

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