アウトドア(体験)ツアーにおけるフロー理論(ラフティングにおけるフローの概念)
この記事が「フロー理論 アウトドア」で検索すると一番上に来ているので、加筆訂正することにしました。アウトドアガイドやインストラクターはもちろん、街歩きガイドやアドベンチャーツアーのスルーガイド、アドベンチャーガイドの方々も、ツアーの楽しさの本質の一部がフローで成り立っていることを知っていただくと、今後のツアーにも大いに生きてくることと思います。
フロー理論に関連した講座、セミナー、アドバイスなど、最近高評価をいただいております。特に所属ガイド全員に対するフロー理論の講習によって、ツアーの価値が格段に向上するなど、「今までふわっとしていたことが、言語化されすっきり理解できるようになった。みなで「楽しさ」を言語化し、共有して、議論できるようになった」など、感想をたくさんいただいております。
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フロー理論とは ~おさらい~
シカゴ大学の心理学部教授、故チクセントミハイさんが提唱した概念で、元々「フロー体験」と呼ばれています。ものすごく簡単に言えば、「ある特定の物事に意識が集中した結果、時間感覚が歪む」という事象で、人間の日常生活のあらゆる部分に見え隠れするのはもちろん、人間の幸福とは「フロー状態にあることだ」という人すらいます。
たとえば、スポーツ、室内体験(陶芸、アート、創作、料理)、友達とおしゃべりを楽しむこと、居酒屋で飲んだくれて上機嫌になること。どうですかね?時間があっという間に感じたことないですか?特に居酒屋とか、「あ、もうこんな時間だ」って思うこと、人生に何度かないでしょうか?
こういう状況に陥った人はほぼフロー状態にあると言えると思っています。つまり人間活動の様々な部分の満足度、楽しさ、充実感、達成感などは、フロー状態に人間が陥ったときに、体験している、と言い換えることができるのではないでしょうか?
あらゆるスポーツを行って、「すっきりする、達成感を得る、楽しかった、リフレッシュできた」という感情が発生するのは、ほぼフロー状態にあったことが要因だと思っています。もちろん、重要なのであえて言及しておきますが、フロー理論だけで全て成り立っているわけではなく、様々な要素が組み合わさってその感情が生まれるのはもちろんですが、その中核にはフロー理論があると思っています。(例えば、彼女とスポーツを楽しんで「楽しい」と思うのは、フロー状態にあったこと+彼女と思い出を作れたことである、など、複数の要因と結びつくと考えています。※とはいえ、「彼女と楽しい思い出を作れたこと」ということも、意識レベルで考えれば、気を使ったり、気を使われたり、常に意識する時間を過ごしたことであると置き換えれば、意識を占有していたことになるので、結局フロー状態であった、と言い換えられる気もします。)
チクセントミハイのフロー理論
フロー理論を示す図はいくつかあり、2チャネル、3チャネル、8チャネルと進化してきていますが、現在は下記の図をもとに説明されることがもっともオーソドックスです。
横軸を本人のスキルレベル、縦軸をアクティビティの挑戦レベルと規定したとき、本人のスキルレベルと挑戦レベルがちょうどよいバランスになったときに、人間は時間感覚を忘れてフローにはいる、とされています。
例えば、スキーで急斜面を滑るとき、初心者のスキルレベルは著しく低いので、横軸でいえば、左側になりますが、挑戦レベルは高いので、縦軸は上側になり、本人の心理状態は「不安」という領域になります。これはわりと理解されやすいのではないのでしょうか。
この考え方は初期の段階のフロー理論の説明なのですが、フィジカルツアーにおいては、今でも有効に説明できる内容だと思います。
ラフティングが楽しい のではない。
大事なのは、フロー状態はフロー状態単体で存在しているということで、「ラフティングが楽しい」とか「テニスが楽しい」など、「特定の物事だから楽しい」という構造では無い、ということです。これはまたどこかで詳しく話しますね。
ツアーの高付加価値化とか、高品質なツアーを探すとか、巷ではいろんな言葉が飛び交いますが、顧客目線で考えたときに、もし顧客が「楽しさやリフレッシュ」を第一に求めていた場合、フロー状態に顧客を入れられるツアーが「高付加価値なツアーであり、高品質なツアー」となります。
アウトドアガイド/インストラクターのスキルの本質
アウトドアガイドの仕事には様々あると思います。例えば、アウトドアガイドのうち山岳ガイドさんは、主にお客様が行きたい場所(急峻な岩場、高峰など)に安全に案内することが価値の中核という場合もあると思います。ラフティングやカヤックのガイドは、お客様にリフレッシュしてもらう、楽しんでもらうことが価値の中核の場合が多いと思います。(他にもシュノーケリングガイド、ダイビングガイド、パラグライダーの商業フライトなど様々あります)
どちらのガイドにせよ、最終的に求められる能力は、「顧客をフローにいれる技術」だとほぼ核心をしています。リフレッシュ系のツアーは言うまでもないですが、山岳ガイドも、「顧客が急峻な岩場を乗り越えるときにフロー状態に入るのをサポート」しているから、と考えています。
【著者個人の仮説】フロー状態という言葉を用いず、意識の占有がおきたという概念で考える ~アドベンチャーツーリズムやアドベンチャートラベル/外国人向けの街歩きガイドやインタープリテーション系ツアーに対する応用~
このフロー理論の核心部は、本人のスキルレベルや挑戦レベルといった表面的な話ではなく、その状況に陥った時に、脳内の意識がどうなるかに思い至る、というところだと思っています。フロー理論を語るとき、常に、スキルと難易度のマトリクスがでてきますが、このマトリクスがそもそもどういうことかを突き詰めて考えると、最終的に人間の意識をどうコントロールし、あるいはコントロールされているか、ということに行き着きます。この考え方が、この理論をインドアツアーやアドベンチャーツアー、街歩きツアー(ストーリー系ツアー)など、スポーツ以外にも応用が効く考え方にし、最終的に観光全体がフローで成り立っていると考える下地を作ってくれた考え方になります。
フロー理論とアクティビティの高付加価値化、楽しさや満足度の言語化についてはこちらのマガジンをご覧ください
たとえば、上述の急斜面のスキーでいえば、様々なインプット情報を下に、アウトプットとして体の各部を動かすわけですが、技術レベルが低いと、多すぎるインプットに対して、状況を制御するために必要なアウトプットがうまくできず、人間の処理能力を超える状況になります。こういう状況の時、人間は自分で自分の事を決めることができないので、不安や怖さを覚えます。
一方で、自分のスキルと合った斜面を下っているとき(あるいは少し難易度の高い斜面を下っているとき)、人間は自分の脳の処理能力をちょうど良い塩梅で利用し、時間感覚を司る部分への意識も適度に薄れ、心地よくフロー状態にはいるのだと思っています。
そう考えると、フロー状態は人間の意識や処理能力がどういう状況であるかを示す一つの固有名詞と考えることができます。つまり人間の意識のコントロールこそがフロー状態の本質なわけです。
例えば、皆さんが、自分が興味のあるもの、料理や趣味、様々なものに取り組む時、没頭しすぎて、時間感覚がなくなることはありませんか?そして、その趣味が必ずしもスポーツではないことも、もちろんあるでしょう。つまりスポーツだけに適用されるのがフロー理論ではないと思っています。
日本に来た外国人はそもそも日本に興味を持ち、程度の差こそあれ、ある程度知識もあります。そういった方たちの脳内の意識を100%奪取するためには何をすればよいのか、と考えることが、このフロー理論をATや街歩きツアーに横展開させる重要なキーポイントになります。
例えば、欧米人の富裕層に、ある日本の文化ストーリーを聞いてもらって、脳内の処理速度を100%つかってフロー状態に入ってもらうためには、ストーリーや話すことに興味を持ってもらい、そして、理解してもらう必要があります。日本語がわからないのに、日本語でも話しても、情報が頭に入らないので、理解できるわけがなく、イコール、脳も処理を始めず、時間感覚もズレません。理解して脳で考えてもらうためには、そもそもその背景知識を知って貰う必要があり、また理解できる言語で話す必要があります。前後の脈絡がつながっているというのも、過去の記憶を思い出して脳の処理能力を使ってもらう一つの事象です。脳の処理能力を100%使ってもらえるようにお膳立て、最終的にフロー状態に入れる。というのが、旅行代理店やランドオペレーター、スルーガイドや現場ガイドの仕事なのではないだろうかと思っています。
インタープリテーションにおけるTOREですら、フローに入るための準備ではないだろうか
インタープリテーション業界で重要視されているTORE理論。良いツアーとはTテーマがあり、Oテーマにそってオーガナイズドされていて、R顧客の興味と関連性があり、E楽しい、ものであるというものです。
さきほど書いたように、フィジカルではないツアーで顧客がフロー状態に入るためには、脳で考えさせることが重要なわけです。考えてもらうためには、わかりやすく、また自分が興味を持っている内容である必要があります。つまり、TORなのです。自分の興味(R)をもっているテーマ(T)にそって構成された(O)ツアーは、E楽しい、つまりフロー状態にはいるわけです。
参考
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