『空想クラブ』の話

8月にKADOKAWAより『空想クラブ』という新刊が出る。先行公開として、カドブンノベル(これは電子雑誌)の8月号、9月号(7/10発売、8/10発売)に全文が分割掲載され、カドブン(これはウェブ媒体)でも毎日更新される。発売まで何回か、執筆背景の話など書いていきたい。

作品が生まれるというのは自分でも不思議なもので、書き上げて直して直して直し続けた原稿を前にすると、なんでこんなものができあがったんだろうとよく思いだせないことがある。企画を考えてプロットを練ってもその通りにはならず、書いている最中のアドリブや編集者からの指摘、キャラクターからの抗議の声などを聞いて手を動かしているうちに作品は形を変えていく。

『空想クラブ』を書きはじめた動機として、ふたつの核がある。まず、僕は自分から企画を考えて提出することが多いのだが、『空想クラブ』は編集者からの要請によって考えはじめたということ。2018年に『星空の16進数』という話を出したあと、次の長編をまたKADOKAWAで書かせてもらえるということになり、ひとつとっておきの企画を提出した。これはいい物語で今後書きたいと思っているのだが、諸般の事情により一旦お蔵入りとなり(別にきな臭い話ではなく、真っ当な理由)、ほかの企画を出すことになった。そこで編集者から「青春ミステリはどうか」と提案があった。

そのころは『電気じかけのクジラは歌う』の初稿ができていて、次に『銀色の国』を書くことは決まっていた。どちらも視点人物は30代の大人で(『銀色の国』にはティーンの視点も出てくるが)、社会と個人とのつながりを描いた現代性の強い作品なので、フィクショナルな青春小説を次に書くのはとてもよいと思った。

編集者いわく『少女は夜を綴らない』に出てきたボードゲーム研究会の雰囲気がよく、ああいう部活動みたいなものを舞台にしたミステリは僕の作風と合うのではないかという話であった(記憶と間違っていたらすみません)。一方、僕の自意識としては、『少女は夜を綴らない』はチャーミングで爽やかな青春小説として書いたつもりだったのだが、「暗くて怖い」というような評価を受けることも多く(まあそれも当然な気がするが……)、いつか芯から明るくて爽やかな青春ミステリを一度書いてみたいなと思っていたこともあった。これがひとつめの核。

そんなわけで提案を受けて企画を練りはじめるのだが、ここでもうひとつの核が入ってくる。これはネタバレにつながるのであまり書けないのだが、プライベートで九十九里浜に遊びに行ったときのことだ。久々に海を見て、広大な空を見上げたとき、とある強烈なインスピレーションを得た。このときに得た着想が『空想クラブ』のテーマ的な核となっている。これはお読みくだされば判ると思うので、ご興味のあるかたはぜひ読んでいただきたい……(あからさまな引っ張り)。

このふたつの核をもとにプロットを出して、あとは色々なものを巻き込んで原稿となり、直して整えてなんとか完成した。最初に出したものから色々と変化はしているのだが、ふたつの核はブレずに作品世界の中心に留まり続けている。当初のビジョンが強かった証左のようで、ちょっと嬉しい。

続く……かも?

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