逸木裕

ミステリ作家。IT、音楽、青春などをテーマにした作品が得意です。 著作一覧は→htt…

逸木裕

ミステリ作家。IT、音楽、青春などをテーマにした作品が得意です。 著作一覧は→http://yuitk.work/book

最近の記事

追悼・原尞さん

原尞さんが亡くなった。日本のハードボイルド小説の第一人者で、僕が十代のころ、ミステリを読みはじめた時期にスター作家として脂が乗っていたかたのひとりだ。 初めて手に取ったのは『そして夜は甦る』でも『私が殺した少女』でもなく、第三長編の『さらば長き眠り』だった。発売は1995年なので、僕は中学三年生のころだ。当時は「このミス」一位や直木賞を取っていることなど知らず、金曜の夜にやっていた桂文珍の「はなきんデータランド」という番組のベストセラーランキングに並んでいて、元高校球児が八

    • 画面配信をしながら小説執筆をしたら効率が上がった件

      6月下旬から00:00 Studioというサービスで作業画面を配信しながら小説を書いているのだが、執筆効率がかなり向上したので、その話。 最初に、僕のアカウントはこれなので、よろしければフォローしてほしい。Twitterと同じくyu_itkで取ったつもりがなぜかyukitoというIDになってしまっており、綾辻行人先生のようになってしまい汗顔の至りではある。 以下本題。 小説家には色々なタイプがいて、頭に浮かんだ文章をひたすらエディタに転写していくような人もいれば、悩みな

      • 手越くんと鮫島−−『空想クラブ』の話 その6

        コラムも6本目。肝心なことを書き忘れていたのだが、本作はカドブンで連載がなされていて、かなり終盤までウェブでお読みいただくことができる。小説読みは本というフォーマットに愛着があるものだが、最近はスマホで小説を読む人も多いはずなので、気になったかたはまずこのあたりから読んでいただけると嬉しい。 今日は軽めの話。作品の内容とはあまり関係のない、キャラクターの名付けについて。具体的には、『空想クラブ』に出てくる手越くんと鮫島の話だ。 といっても、お読みいただいたかたなら判るかも

        • ラスト16ページの「奇跡」の件−−『空想クラブ』の話 その5

          『空想クラブ』のオビには「ラスト16ページの『奇跡』をあなたは体験する」という文言がある。確かにこの作品はクライマックスにとある展開があり、作品の特徴になっている。 書き手としては、そこ以外にも良いシーン・好きな場面がたくさんあり、全体があってこその最後……という意識もあるにはあるのだが、もちろんオビに対して文句があるわけでは全然ない。この作品を一言で説明すると何かというと、それはラストであるのは確かだ。いまのところお読みくださったかたの感想も大体がそこに触れられており、編

        追悼・原尞さん

          本当の夜をさがして−−空想クラブの話 その4

          『空想クラブ』を形成する要素のひとつとして「光害」というものがある。「こうがい」ではなく「ひかりがい」と読む少し変わった単語で、人類社会が近代化するとともに夜がどんどん明るくなっている現象のことを指す。 ヒロインの真夜は、SQM(スカイ・クオリティ・メーター)という道具を使って、彼女が住んでいる街の夜の明るさを測定し続けている。光害調査というのは労力は大変なのだがそこまでお金がかからないので、このような活動をしている若い人というのも実際にいる。執筆段階では、中学生・高校生の

          本当の夜をさがして−−空想クラブの話 その4

          ヒロイン誕生−−『空想クラブ』の話 その3

          新刊『空想クラブ』がついに8/28に発売した。 この作品は自分でもよく書けたなーと思っていたのだが、いかんせん自己評価というのは当てにならず、世に出て読者の皆様のご感想をいただくまで水準がいまひとつ判らない。 その後、お読みになった人の感想を聞くと評判がよいので、やはり他人から見ても良い作品なのだな、もっと多くの人に読んでもらいたいなーと思うようになった。その一環として、宣伝用のコラムをがんがんと更新することにする。ネタバレなし、中身をお読みいただかなくても楽しめると思う

          ヒロイン誕生−−『空想クラブ』の話 その3

          最近(7月・8月)のお仕事(イベント編)

          小説家の仕事は基本的にコツコツと原稿を書いているだけなのですが、最近色々と表に出る機会があり、刊行も集中しているのでまとめます。 7/12(日)19:30〜 Live Wire「新世代ミステリ作家探訪」明後日の日曜日、オンラインイベントです。 書評家の若林踏さんと新刊『銀色の国』を中心に、私の作品についてや、どんな思いで小説を書いているかなど色々お話します。Zoomによるオンライン・トークイベントなので、家からご参加いただけます。週末の夜にお会いしましょう。 http:

          最近(7月・8月)のお仕事(イベント編)

          川沿いの少女――『空想クラブ』の話 その2

          前回の続き。 新作『空想クラブ』にはふたつの核があると書いたが、もうひとつ核となった着想があるのを思いだした。それは「川沿いに少女がいる」というイメージだ。 ぼんやりとした着想だが「川沿いに困っている女の子がいて、それを主人公である少年が助けるお話が書きたいな」と以前から思っていて(本当にぼんやりとしている)、『空想クラブ』のプロットに入れてみたところこれがハマった。『空想クラブ』はまさに、川沿いの女の子を少年が助けようとするお話だからだ。 2011年から9年間、ぼくは

          川沿いの少女――『空想クラブ』の話 その2

          『空想クラブ』の話

          8月にKADOKAWAより『空想クラブ』という新刊が出る。先行公開として、カドブンノベル(これは電子雑誌)の8月号、9月号(7/10発売、8/10発売)に全文が分割掲載され、カドブン(これはウェブ媒体)でも毎日更新される。発売まで何回か、執筆背景の話など書いていきたい。 作品が生まれるというのは自分でも不思議なもので、書き上げて直して直して直し続けた原稿を前にすると、なんでこんなものができあがったんだろうとよく思いだせないことがある。企画を考えてプロットを練ってもその通りに

          『空想クラブ』の話