医心方に見る桑の実
医心方とは、平安時代に宮中医官を務めた鍼博士・丹波康頼が撰した、日本に現存する最古の医学書です。
全30巻の壮大な医学書で、古代東洋においても「ヒポクラテスの誓い」に勝るとも劣らない医のモラルが説かれていたことがわかると『医心方』事始めに著者である槇佐知子さんが書いておられます。
その第30巻が食養篇と成っていて、桑の実は、その第二章 五菓の部に桑椹として記載されています。
日本で桑が栽培されるように成ったのは5世紀の後半からと言われていますが、ヤマグワ(ノグワ)やハマグワは自生していたのではないかと書かれています。
『中葯(薬)大辞典』では、クワ科のマグワ(別名シログワ)の実を桑椹としています。
中国のほぼ全域で産出されており、4〜6月に紅紫色に熟した時に採取し、日に乾したり、蒸してから乾したりします。
桑の樹皮は紙や布の原料に、木材は神楽器具に加工され、果実、葉、枝と根の白皮は薬用にされていると書かれています。
『本草』では、蘇敬の「味は甘に属し、性は寒、無毒である。これをたべるだけで消渇を主治する」という説を載せている、と書かれています。
『七巻経』では、桑椹については『漢武伝』に『西王母が武帝に進めた”神仙上薬に扶桑丹というものがある』と記されており、それがいわゆる椹(桑の実)のことであると言っているそうです。
孟せん(ごんべんに先)は「性は微寒である。これを食べればその滋養で五臓の機能をととのえ、聴力や視力をはっきりさせ、関節のぐあいをよくする効能を持ち、経絡や血液の循環をよくし、精神活動にも良い効果がある」といっている、とも書かれています。
血糖値のコントロールができるということで昨今脚光を浴び始めている桑の葉ですが、実は桑の実にも同じ効果があるデオキシノジリマイシンが含まれるほか、独特のドドメ色(赤紫色)からも明白なアントシアニンによる目の疲労回復効果や神経細胞の保護作用、アテローム性動脈硬化症の予防、抗酸化作用など、他にも医心方に記載されているこれらの食養生を裏付ける成分が発見されているということです。
薬学博士である井上重治先生のご著書「マルベリーの恵み〜ハーブとしての桑の歴史と有効性の評価」と読み比べると、先人の知恵といいますか、実体験に基づく古代からの医療法との相似に確かなものを感じています。
もう少し、資金力があれば井上先生がのこされた研究結果をもっと深めることができるのにと残念な思いがあります。
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