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『炭酸水と犬』を書いてくれた貴女へ

 Twitterを通して緩く出会ってくださった貴女へこうしてお手紙を書ける幸せを感じています。私の手は薬の副作用でぶるぶると震え、うまく字を綴ることができないので、手書きのファンレターをお送りすることができず、とてももどかしく思っていました。今こうしてnoteという媒体を通してですが、貴女にお手紙を書いてインターネットというポストに入れることとしました。

 貴女の名前は砂村かいり。貴女の職業は小説家。この職業がどんなにか苦難が多く甘くないものなのか、私には想像もつきません。デビューはほんの少し前。貴女はまだ駆け出しのプロ小説家です。Twitterで大きな話題となりたくさんの人が貴女の二冊の本、『炭酸水と犬』『アパートたまゆら』を読んで楽しんだことでしょう。私もまたその一人。書籍化発表の直前に小説投稿サイトで読み、「この人は絶対にプロになる」と確信した瞬間を今でも記憶しています。むしろ「なぜもっと早くこの小説の存在に気づいて読みに行かなかったのか」と深く後悔したくらいです。連載開始から盛り上がりながら一緒に走っていけなかったことを悔やみました。けれどもそれはタイミングというものなので、結果的に出会えたことを喜びたいと思います。
 『炭酸水と犬』だけでなく『アパートたまゆら』もその他の作品も、そして別名義の作品もなにもかも貪るように読みました。小説投稿サイトというものの存在に感謝したくらいです。またその使い勝手のよさを認識し、私も小説投稿サイトに登録してしまったくらいです。貴女の影響なのですよ。ありがとうございます。
 実は私、「ソルダム」という果物のことを知りませんでした。小説を読んでから初めて存在を知り、ネットで調べました。まことに小説の内容にぴったりのフルーツだなと感動してしまいました。

 貴女の素晴らしいところはさまざまなことについて非常に博識であることです。たくさんのことをご存知です。小説を読んでいればわかります。恐らく職業も多く体験していて、本もとてもたくさん読んで、知識を豊富に仕入れていらっしゃるのでしょう。インプットに貪欲ですべてのことを脳みその引き出しにしまいこんで、いつか小説の原料としようとなさっているのだと想像します。成功も失敗もすべては原料となりますものね。たとえ思い出したくもないことであっても、時間が経過すればなにもかもがスープの素となります。その博識さを見習って私ももっと学ばなければと思わされるばかりです。
 そしてなにより羨ましくすてきなことは、貴女の描写力です。思いもつかない描写が出てきたり、修飾語が出てきたり、比喩や暗喩が出てきたり。描写の技をどこで学んだのだろうと羨望の気持ちが湧いてきます。これがプロになる人の持ち合わせた才能と、そして努力の結晶なのでしょうか。きっと良書をたくさん読んでおられるのだろうなと想像しています。豊富な人生体験と豊富な読書量と日々のよしなしごと。すべてが貴女をかたちづくっているのでしょうね。

 けれども貴女のTwitterのつぶやきやブログの記事を読んでいると、人生は思ったようには進まない、艱難辛苦が多いことが垣間見えます。誰もが苦しみを抱えています。私も同様です。苦しみからなにが産み出されていくのか、私は実はとても楽しみにしています。人間は楽しく嬉しい事柄よりもむしろ苦しくつらい事柄を糧にして成長していくからです。だから貴女の苦しみはいつか必ず美しい作品へと結実し、大きな飛躍を遂げるに違いありません。私はそれを信じて疑いません。苦しみは、つらい。けれどもその苦しみをあえてつかみ取り、羽ばたいてほしいと思ってやみません。
 私はいつも貴女を見ています。貴女がそっと私を見ていてくださるように。貴女の具体的な力になれるような存在ではないかもしれないけれど、貴女の書くものを愛しています。読み続けることによって、応援し続けることによって、貴女の心を力づけることができればと願っています。

 『炭酸水と犬』も『アパートたまゆら』も、私にとって特別な小説です。たとえ実際にはお目にかかったことがなくても、ときおり声を通してお話しができる存在である貴女の書いたものは私の財産のひとつです。私の人生を変えた二冊でもあるし、その他の作品も同様です。
 私の人生を変えるかもしれない「とある作品」も書いてくださいましたね。どんなに私が嬉しかったことか。泣いて泣いて、本当に慰めになった作品だったのですよ。どうか多くの人の目に触れて、慰められますように。慰めになるものが書ける貴女を尊敬します。ありがとうございます。

 貴女はきっと恋愛小説にとどまらないもっと幅広いものを書ける小説家です。社会問題に切り込むような作品やドキュメンタリー、ルポルタージュなどにも力を発揮できるでしょう。むしろ硬派なもののほうが向いているかもしれない。貴女の語彙の豊富さやアンテナの広さを想像すると私はそんな風に思うのです。どうか今の状態にとどまらず、さらに面白く、さらに高みを目指した作品に取り組んでいってほしいと願っています。

 心から、深く、感謝しています。私と出会ってくださってありがとうございます。貴女が私を見つけてくださったこと、ちゃんと覚えています。私のエッセイを読んでフォローしてくださいましたね。鈍い私は貴女のすてきな作品になかなか気づけなくてもったいないことをしていました。でももう大丈夫。追いかけますよ、これからも。嫌だって言わないでね。
 本当はここで作品のレビューを書こうかとも考えたのですが、私はついネタバレしてしまうくらいレビューが下手くそなのです。だから思い切って正直なラブレター、そしてファンレターとして書いてみました。ストーカーのようなお手紙なってしまいましたが、貴女ならきっと笑って読んでくださると信じています。

 最後に、ひとつ大変なお礼を申し上げねばなりません。自己肯定感の低すぎる私にきちんと「それはダメ」と教えてくださったこと。あのことは一生忘れません。いつもいつも「私なんか」とつぶやいている私の認知を修正する一言を伝えてくださったこと。本当にありがとうございました。歪んだ認知はなかなか戻りませんが、あれからずいぶんと努力しているのです。またやっちゃっていたら、叱ってやってくださいね。貴女もいつも努力しているのだと思います。見習わなければいけませんね。ありがとう。

 これからも応援させてください。これからも読ませてください。これからも楽しませてください。そしてこれからも、ほんの少しだけ、仲よくしてくださいね。
 いつの日か貴女のサイン会でお目にかかれる日を楽しみにしています。

 それでは今日もご安全にお過ごしください。