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僕と君の365日を作者が語ってみた


2019.03.05

人生が変わる音がした。

時間は有限で、この先など何一つ分からない。ただ歩き出した足音だけが耳に届いて、形を成して僕の想いを掻き消した。昇華させるのが美しいのなら、それもまた一興だと思った。


僕が小説家になった日の事だった。


僕と君の365日


どうも初めましての人は初めましてこんにちは

小説家してます優衣羽です。

発売から一年以上が経って、ふと、あとがきの事を思い出しました。作品のあとがきを書かないのはご愛嬌だったのですが、最近

「どうしてあとがき書かないんですか」

「読みたいのに。あえてですか」

などという言葉をいただきまして。いや本当に、有難い限りなのですがこの件に関してはマジで何一つ考えてなかったです。ていうか書くものだったんですね。特段言われなかったので、そのままにしていました。でもよく考えたら多くの作家さん、自分の作品の最後にあとがき書いてるよね。

という事で、あとがきのない作品をここで語ってみようと思います。これで許して下さい。あとがきより大ボリュームでお送りするのでよろしく。

で、ここからはちゃんと綺麗な文章を書くのでここまでは許しておいてください。



僕と君の365日という作品



後悔を描いた。ちっぽけな後悔が、降り積もる沢山の悲しみの中でどうしても飲み込めなかった。そして、その後悔を誰かにしてもらいたくないと願った。


後悔のない人生なんてつまらない。


いつかどこかで聞き覚えのある言葉だ。誰が言ったのかも思い出せない一文を、僕は何故かずっと憶えている。きっとこの言葉を知った頃の僕は、自身の人生で後悔という言葉に苛まれる事がなかった。

それなりの人生を送って来た。こんな事言いたくないけれど、常人よりは傷ついてきて、おかしいと卑下される事が多かったと思う。うん、まあおかしいのは否定しない。

生き方が下手くそだった。今も変わらずに。けれど子供の僕は、自分の行き方が下手くそな理由を誰かのせいにした。周囲のせいにして、大人のせいにして、自分さえ変われば変えられる事ばかりだったのに、何一つ変えられる事なんてないと何もしていないのに嘆いた。きっとずっとこのままで。いつか誰かが助けてくれるかもしれないと願い、日々を生きて重荷を背負い続けた。

けれど、誰かが救ってくれるなんて考えは間違いだ。人間は自分の足で立たなくてはならない生き物だ。ずっと助けてと願って許しを請うた。けれどこの手を掴んでくれる人は一人もいなくて、僕は随分と若い頃から一人で立つ事を決めた。人に期待をせず、一人で立って震える足を叩いて、矢が降り注いでも笑って歩き出すようになった。


そんな僕が何をどうして小説を書くに至ったのか。後悔を抱いたのか。


それは語るほどでもないちっぽけな理由で、けれど僕にとってはその出来事がこれまでの人生の終止符であり、この先の人生を変える出来事だった。


端的に言うと、人を傷つけた。言ってはいけない言葉を、言ってはならぬタイミングで言った。言い切った後、しまったと思ってももう遅かった。その瞬間に全てが変わってしまった。

謝るタイミングを全て逃して、想いを伝える瞬間を自ら壊した。僕はこれまでの人生を振り返った。自らが犯した過ちを認めて、変えられない現実を知った。


過去は戻らない。変わるのは未来だけだ。


そんな後悔を誰かに味わって欲しくなかった。きっと生きている限り後悔のない人間などいないのだ。それでも、誰かが同じように傷ついて、変わらぬ現実と無情にも向き合わなくてはいけない日が来ない事を願った。


そして書き始めた最初の作品だった。



自分が死ぬ瞬間を理解していたのなら、人はどうするだろうか考えた。

愛する人と決別するだろうか、

その手を離すか、

逆に執着するか、

受け入れるか、

逃げ出すか、

恐怖するか、

向き合うか。

きっとどれも正解で不正解だ。正しい答えなんて僕にも分からない。僕は二人にこの結末を選ばせたけど、それが正しいとは思わない。きっと一生正しいとは言わないだろう。


けれど、終わりがあるからこそ人は足掻くのだ。その終わりが美しくなかったら、僕らは何のために足掻いたのか分からないから、最期はいつだって綺麗なままでいたい。結果論の世界では過程を見てくれる人間などいない。だから最期を勝手に値踏みして、価値を出すだろう。


惰性で続く物語が美しくないように、長々と語られる終わりのない人生にはきっとそれほど魅力がないのだと僕は思う。


世界は色で満ちあふれている。
街を歩く人々や変わる季節、
感情だって鮮やかな色がついている。

君の唇から紡がれた言葉は、
当たり前を繰り返していたこの世界に、
愛という輝きをもたらした。

三百六十五日。
君と過ごした世界は、
美しい想いであふれ返っていた。
僕と君の365日/優衣羽



僕らは当たり前を当たり前と錯覚するまで、どれほどの時間を得ただろうか。もしかしたら当たり前の日常を、当然だと受け入れるまでそう時間はかからなかったかもしれない。

けれど、今こんな状況で。当たり前の日常は簡単に崩れ去る事を知った同士は多いだろう。会いたい人には会えず、行きたい場所には行けず、いつかでいいやと思った事はもう二度と出来なくなる。

僕はそれを学んだからこそ物語を書いた。フィクションの中で想いを昇華させ、いつかこれを読んだ誰かが当たり前の日常は簡単に崩れ去るから、そうなる前に後悔せず歩き出して欲しいと切望した。


君には大切な人がいるだろうか。

この命を差し出しても、隣にいたい人は?

幸せを願うため、離れざるを得ない人は?

落ちている時に、肩を借りたい人は?

その手を掴んで、共に歩みたい人は?

絶え間なく降り注ぐ愛を与えたい人は?


友人でも家族でも、恋人でも赤の他人でも、誰でもいい。君にとって大切な人たちが幸せであるために、そして何より君自身が幸せであるために、後悔のないように歩き出して欲しい。


いつかでいいやは二度と訪れないから。


365日間、色が抜け落ちていく世界でも鮮やかに色づいていた恋心が、誰かにとっての救いでありますように。


ポプラ文庫ピュアフル「僕と君の365日」/優衣羽

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