細谷雄一|国際政治学者
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侵略者の侵略に迎合することで生まれるのは平和ではなく、次のより大きなより悲惨な戦争である
大変に注目されている、『中央公論』2024年4月号での鼎談、「ウクライナな戦争が変えた日本の言論地図」。戦争に巻き込まれたことなども一因となり(認知戦、心理戦、宣伝戦など、現代の世界では認知空間やサイバー空間も戦場化しているため)、SNSなどの言論空間がさらに荒れています。非難の応酬、嫌悪感の表出の前に、まずは問題意識のみでも共有頂ければ幸いです。
なお、これまで何度も繰り返し書いてきたことです
Positivismは唯一の「適切」で「まっとう」な政治学の方法論か?
これまで国際政治学の世界では、さまざまな国で、さまざまな時代に、その方法論をめぐって長らく多様な論争がなされてきました。
その中でも、「第一大論争(the First Great Debate)」と呼ばれるものが、E.H.カーが『危機の二十年』で論じたような、1930年代の「ユートピア主義(Utopianism)」と「現実主義(Realism)」との対立、そして「第二大論争(the Second
五百旗頭真先生との想い出
昨日、3月6日に五百旗頭真先生がご逝去されたとの報道が流れました。大変に驚き、また、寂しい気持ちです。
私自身は、五百旗頭先生の門下生ではなく、また直接指導を受けたわけでもありませんでした。他方で、大学院生時代に、親しい君塚直隆さんの日本国際政治学会研究大会、1999年5月の木更津かずさアカデミアパークでの研究大会の、欧州国際政治史の分科会でのご報告の機会に、そこにいらっしゃった五百旗頭先生にお
2024年の年頭のご挨拶
新年、明けましておめでとうございます。2024年となりました。今年が、昨年よりも、良い一年となるよう願っております。
2023年は、世界では二つの戦争が同時に進行するという、奇妙で不幸な空気に包まれていました。とりわけ、国際政治学者として、どのようにしたら平和が実現するのか、そしてどのようにしたら戦争を回避できるのか、ということをこれま歴史的な視座から考えてきたことからも、独特な無力感を抱いてお
2023年度の入ゼミ選考について
今年も、多くの方に、私が勤める慶應義塾大学法学部政治学科のゼミ(研究会)に、課題を提出して頂き誠に有り難うございました。昨日、2023年度の私のゼミ16期となる入ゼミ選考試験が終わりましたので、ご報告を頂きます。
今年も定員を超える人数の方々に、課題をご提出頂きました。最近は、有り難いことに私の慶應でのゼミに多くの優秀な方が集まっているというご評価を頂きまして、そのような噂を聞いて、多くの方が私
年の瀬に激動の2022年を振り返って
コロナ禍でオミクロン株が広がる中で、さらに2月にはウクライナでの戦争が勃発したこの1年間。
1年前の私は、イギリスのケンブリッジ大学で在外研究中。この1年間で、アイルランド、ギリシャ、アメリカ(ワシントンDC)、ポーランド、スペイン、チェコ、アメリカ(ロサンゼルス)、ブリュッセル、そしてアラブ首長国連合と、コロナで様々な制約や、戦争および原油価格高騰、労働者不足などからの、航空会社と空港の混乱を
なぜ私はTwitterで多湖淳教授の見解を批判したのか
多湖先生がTwitterをしておられないことを存じ上げずに、ご本人がおられないところで批判的な記述をしたことからも、こちらでその意図をお伝えできればと考えました。
『法学セミナー』の「たたかいと法」の特集号で、「国家間戦争と法」と題して、ご専門の戦争研究について国際政治学の知見から分析をなさっておられることは、大変に有意義なことであり、専門家がこのようなかたちで社会に発信する模範のような優れたご
ケンブリッジの最後の日
いよいよケンブリッジ、最終日。何だか寂しいです。ちょうど昨年10月初頭に来たので、約11ヶ月。普段は東京で慌ただしい生活をしていたので、ケンブリッジの田舎で、特に義務もなく、単身で生活するというのも、四半世紀前の大学院生時代を思い出します。
おそらくは私の研究者人生で、定年退職するまでで、これだけゆっくりと時間を使えるのは今回が最後ではないかということで、悲壮で切実な思いで、停滞していた外交史研
ヨーロッパで時代を変えた事件
先週に滞在したプラハでは、二日連続で外務省を訪問しました。その中でも、二日目の訪問は私にとって貴重な機会となりました。
こちらの美しい中庭は、歴史あるチェコ外務省の庁舎の中にあるものです。こちらの上階には、外務大臣が宿泊する部屋があり、ベッドやバスルームがあります。ここはぜひとも、長い時間、一度訪れてみたいと思っていたところでした。
私の博士論文を基にした『戦後国際秩序とイギリス外交』をお読み
「『侵略国』を悪者にするのは簡単である。誤解を怖れずに言うと侵略国を「悪」とすることで、私は安心していないだろうか?」
はたして国際社会に正義はあるのか?これは国際政治学における古典的な問いです。
英国の国際政治学者へドリー・ブルは、各国により正義が異なることを強調する立場を「プルラリスト(pluralist)」、そして国際社会でも一定程度共有すべき価値を強調する立場を「ソリダリスト(solidarist)」と呼びました。
20世紀の国際社会は、1928年の不戦条約や、1945年の国連憲章、そして国際人道法など
「先生、ツイッターやりすぎじゃないですか?」
私のゼミ生たちが伝統的に有する美徳の一つが、他の人が言いにくい厳しい言葉を、率直に私に言ってくれる学生がいること。学部生も院生も。それで、バーミンガムで夜にゼミ生たちと集まってお酒を飲みながらおしゃべりしているときに、ふとこんなことを言われました。予期していたとおりですが。
「先生、ちょっとツイッターやり過ぎじゃないかって、ゼミ生みんな心配してますよ。せっかくイギリスに一年いるのだから、専門の外
ウクライナ戦争における「宥和政策」の効用をめぐる橋下徹氏へのリプライ
註:こちらは、2022年3月6日に、Twitterで橋下徹弁護士から、ウクライナ戦争での平和の到達の仕方について、私への疑問を頂きましたので、それに対する返答をまとめたものです。https://twitter.com/hashimoto_lo/status/1500461182892662787
また一番上の写真は、ウクライナのキエフで4年前に講演した際のものです。
橋下先生、真摯でご丁寧なご
NATOの東方不拡大の「約束」はなかった ー最新の外交史研究の成果から
メアリー・サロッティ教授によるケンブリッジでのオンラインでの講演がありました。サロッティ教授はいまもっとも評価が高い米国人の外交史家の一人で、ドイツ統一や冷戦終結についての優れた研究があります。そしてこの講演の中で、「NATO東方不拡大の約束はない」と明言。
あまりにもタイムリーで充実した内容で、これからCentre for GeopoliticsのYouTubeチャンネルで動画がアップされます
優雅な邸宅での、優雅な会議
オクスフォードの郊外に、ディッチレー・パークという広大な敷地を擁するマナーハウスがあります。もともと、18世紀初頭に第二代リッチフィールド伯爵が建てたカントリー・ハウスでしたが、その後、幾人かの手に渡ってから、第二次世界大戦中にはウィンストン・チャーチル首相が、週末の静養のために利用していた邸宅です。チャーチルは、そもそも、ここから近いウッドストックにあるブレナム宮殿で生まれ、そこが生家だったので
もっとみるヘミングフォード・グレイのマナーハウス
ケンブリッジから車で30分ぐらい田園の道をドライブすると、ヘミングフォード・グレイという小さな村に到着します。
このイギリスの片田舎にある、辺鄙な小さな村。日本ではかなり知られた有名な場所。そうです。『イギリスはおいしい』で有名な、あの作家の林望先生がケンブリッジ大学客員教授時代に住んでいたルーシー・ボストン邸です。
あの1991年に刊行された優れたエッセイ、『イギリスはおいしい』を通じて、ボ