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第5話~ファミレス~

ジャジーな独特の世界観に魅了され、村上春樹を読み漁ったのは20歳の頃。月夜に合唱するカエルの歌声に耳を澄ませながら「アフターダーク」を読み返してみた。窓際の心地よい夜風がページを次へと煽る、そんな愛おしい夜だった。

舞台は深夜0時過ぎのデニーズ。小説の中では、思春期の少女とバンドマンの青年のひょんな出会いがディープな展開に動き出す。思惟の海に溺れそうな、趣深い1冊だった。

本の世界観に浸っていると、ニュース速報。―“すかいらーく、深夜営業を廃止へ”  24hのファミレスも儚いレガシーとなり、この小説も郷愁をはらんでいくのだろう。

家業の魚屋に入社してから、多くのことを変革してきた。何十年も貫いたやり方を24歳の若僧にバサバサ切り込まれるのだから、反感を買うのは当然だ。負担をかけてしまい、100人の従業員の皆さんには大変申し訳ないと思っている。それでも僕はやる。いつの日にか、従業員みんなで、あの頃は激しかったね、なんて又兵衛でも傾けながら思い出に酔いしれたら。その時僕の部屋では松田聖子が「SWEETMEMORIES」を歌っていた。

(いわき民報掲載)

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