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県民の誇り「常磐もの」

「築地市場の水産関係者の99%がおいしいと認めた」。電通が2015(平成27)年に行った水産関係者調査で、福島県沖で水揚げされる高品質の魚「常磐もの」についてそんな結果が出ました。ブランド魚として魚のプロたちから圧倒的な評価を受けたのです。

10年ほど食品業界に身を置く私からみても、食に関するアンケート調査で99%の人が「おいしい」と回答するのは、よっぽどのことです。おいしいか、おいしくないかの感じ方は人によって大きく異なるからです。私の好物のシュウマイや角煮も、他の誰かにとってはまずい食べ物かもしれません。プロの99%がおいしいと評価するのはもはや奇跡であり、相当おいしいということなのです。県民の皆さん、誇りに思いましょう。

2011年の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生後、本県沖での漁が全面的に禁止されました。その間、われわれ魚屋は他県の魚を仕入れて売るほかありませんでした。他県産の魚を食べてみて、私たちは気づいたのです。「やっぱり、ふくしまの魚ってうめぇんだな」と。

魚屋の門をたたいてから3年間、私は常磐ものの魚を使ってさまざまな料理や食べ方を試しました。そして確信しました。常磐ものは、手をかけて調味料をたくさん使うよりも、極力シンプルに素材そのもののうまみを引き出す調理方法が一番おいしいと。親潮と黒潮がぶつかる栄養豊富な潮目の海で水揚げされる常磐ものは、素材自体が格別にうまい。だからこそ、蒸し、煮付け、塩焼き、刺身など簡単な調理で十分なのです。近年、調理する人が減っていることもあり、各社で惣菜やアレンジレシピ開発の動きが活発化してますが、内心、「常磐ものはシンプルな調理法が一番おいしいのだけどね…」と思うときもあります。

今の時季、新鮮な初ガツオが初夏の訪れを告げ、鮮やかなオレンジ色の身がぎっしりと詰まったいわき発祥の「ウニの貝焼」が出回りはじめます。6月に入ると、プリプリのホッキ貝が初水揚げされ、お盆を迎えると、カツオの火山(藁焼きのこと)の香ばしい煙が立ちます。秋になれば、住宅街にサンマの香りが漂い、みりん干しやポーポー焼きと、これでもかとサンマを味わい尽くすことができます。冬になれば、アンコウ鍋や甘じょっぱいカレイの煮付けが味わえます。いわきを語るのに「魚」は切っても切り離せません。紛れもなく常磐ものは「街の個性」なのです。

多くの鮮魚店が姿を消し、漁師は減り、水産業の弱体化が進んでいます。この流れは、間違いなく街の個性の喪失につながります。街の個性喪失が進行すれば、人々は隣の芝が青く見えてしまい、より魅力的な街へと流れていってしまうでしょう。福島県最大級の老舗鮮魚店である私たちだからこそ、魚を通じて街をもっともっと面白くするような取り組みを積極的に展開し、街の個性を守り、さらには持続的に発展させていきたいと強く思っています。

さぁ、皆さん、初夏の風物詩、初カツオがおいしい季節になりました。私は断然、にんにくマヨネーズ派です。

(いわき市平、海産物専門「おのざき」4代目)

※この記事は、福島民報「民報サロン」(2023年5月29日)に寄稿したものです。

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