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リスクを追え

私が県内最大級の鮮魚店「おのざき」を事業承継する中で意識していることの一つが、「半歩先」の経営だ。加速度的に変化する世の中において、現状維持は衰退につながる。だからこそ、事業継続の前提に立つと、少しでも日々前進しなければならないのである。かといって、アクセル全開で大きな一歩を進もうと急激な変化をもたらすようなことがあると、今度は社内外の人たちがついてこられなくなる。あらゆる価値観や世代の人たちが手を取り合ってみんなで前に進む。これを私は半歩先の経営と表現している。

最近、マイナンバーカードの誤登録問題が度々ニュースで取り上げられている。マイナンバーカード全体の発行数からすれば、誤登録のあったマイナンバーカードはわずか0・1%にも満たない。ここで避けたいのは、こうした極めて少ない誤登録が発生したことを受け、マイナンバーカードの浸透が遅れ、行政や医療のDX(デジタルトランスフォーメーション)で海外に遅れを取ることだ。新しい取り組みに多少のリスクはつきものだ。当たり前だが、リスクを取らないとリターンは得られない。過度なゼロリスク思考を捨て、社会全体で少しでもいいから前に進もう。

おのざきの社内でも似たようなことは日々起きる。6月にJRいわき駅前の商業施設ラトブ1階にオープンさせた「寿司おのざき」では、お客さま自身のスマホで簡単にメニューを注文できるモバイルオーダーを導入した。すると、「スマホを持っていない人をむげにするのか」とお客さまからお叱りの声をいただいた。そうした声を受け止め、社内でもモバイルオーダーをやめるべきだとの意見が出た。そこで、モバイルオーダーを残しながらも、スマホを持っていない、あるいはスマホに不慣れなお客さまに配慮し、紙でも注文できる仕組みを用意した。

モバイルオーダーを導入した結果、注文時に「すみません」と店員に声をかけるのをちゅうちょしてしまう、といった層のお客さを新しく取り込むことができたこともあり、売り上げは大きく伸びた。また、スタッフ側のオーダーテイクの負担が減るため、人件費を削減でき、その分良質なネタをリーズナブルな価格で提供することができている。私が大切にしているのは「半歩先」。紙でもスマホでもメニューを注文できるようにし、あらゆる方々が利用できる寿司屋にした。もし、スマホに不慣れな方だけの声を聞いてモバイルオーダーを導入しなかったら、現状維持どころか、お店は衰退していくだけかもしれない。

時には厳しい決断や独断が必要になることもあるが、決して独裁はしない。社内外の声に真摯に耳を傾ける姿勢を大切にする。一方で周りの意見を聞きすぎて物事を一向に前に進められない、というのも避けようと思う。なぜなら、経営理念の下、より多くのお客さまの役に立つことで利益を生み、社員に還元し、税金を納めて地域に恩返しをしていくのが私の役目だからだ。立ち止まってはいられない。一歩ではなくて半歩でもいいから前に進まないといけないのだ。(いわき市平、海産物専門「おのざき」4代目)

※この記事は、福島民報「民報サロン」(2023年8月20日)に寄稿したものです。

▼2023/6/8(木)『寿司おのざき』OPEN

ふくしまが誇るブランド魚「常磐ものと」とふくしまの地酒(日本酒が中心)が気軽に楽しめる街の寿司屋がコンセプト。


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