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利用規約のリーガルチェックで弁護士は何をしている?

オンラインサービスの利用規約を作成した後は、いきなり公開して運用を始めるのではなく、法的に不備がないかを検証する見直し作業が必要です。

利用規約は、一度運用を始めると、自由に変更することができなくなります。なぜなら、たとえ利用規約を変更しても、変更前にサービスの利用を開始したユーザーに適用できる範囲が制限されるからです。

そのため、利用規約は、スタートアップの段階での作り込みが大変重要になるのです。

作成した利用規約に不備がないかを検証する方法として、弁護士にリーガルチェックを依頼する方法があります。ただ、いきなり弁護士に依頼するのではなく、まずはセルフチェックで乗り切りたいと考える方も少なからずいらっしゃるかと思います。

そこで、このnoteでは、弁護士が利用規約のリーガルチェックでどんなことに着目しているのかを、ご紹介したいと思います。ぜひ、弁護士にリーガルチェックを依頼すべきかの判断や、セルフチェックの参考にお役立てください。

リーガルチェックで弁護士が意識するポイント

意味の曖昧な言葉はきちんと定義されているか?

複雑な利用規約の多くは、冒頭に「用語の意義」「定義」といった条項を設けています。

利用規約を作りこんでいれば、ユーザーからクレームを受けたとしても、その利用規約でどのように決めているかを根拠に画一的な対応をすることができ、紛争化のリスクを最小限にとどめることができます。

ただ、利用規約の中で曖昧な意味の言葉を用いていると、その言葉がどのような意味かをめぐってユーザーとの間で対立が生じ、紛争に発展する懸念があります。

例えば、シェアリングエコノミーサービスにおける次のような条項を考えてみます。

第◇条 ユーザーは、本サービスにおいて、・・・商品又はプロジェクト出品することができます。

第1に、「プロジェクト」という言葉は、人によって何を指すのかの認識が異なるものですので、どのような意味かを明確に定義しなければなりません。

第2に、「出品」という言葉も、「商品」との関係では一般的に使用されるものですが、「プロジェクトの出品」についてはサービス独自の概念ですので、どのような意味かを明確に定義しなければなりません。

特に、登録拒否(抹消)理由、返金の制限、禁止事項など、ユーザーの不利益につながる条項については、曖昧な言葉が含まれることで紛争につながるリスクが高いですので、詳細な検討が必要です。

登録拒否(抹消)理由や禁止事項がサービスの特性に応じて網羅されているか

利用規約の大きな目的の1つは、悪質なユーザーを確実にサービスから排除することです。このようなユーザーの存在は、サービスの悪評に直結して、事業に大きな影響を与えるおそれがあるからです。

リーガルチェックにおいては、想定される悪質なユーザーを洗い出したうえで、そのようなユーザーを排除できるように登録拒否(抹消)理由や禁止事項を網羅できているかを検証します。

このような検証作業においては、想定される悪質なユーザーの洗い出しが特に重要です。類似サービスの調査のほか、そのサービスの特性上想定しうる悪質行為を自分の想像力で洗い出すことも必要になります。

お金・モノ・サービスの流れがすべて表現されているか

利用規約の大きな目的の1つは、ユーザーと運営者、あるいは、ユーザーと(他の)ユーザーとの間の権利義務関係を明確にすることにあります。利用規約においては、このような関係性をもれなく規定することが重要です。

私が利用規約のリーガルチェックを行う際には、はじめに、サービスにおけるお金・モノ・サービスの流れを洗い出すようにしています。

  • お金の流れ どのタイミングで、だれからだれに、どのような手段でお金が支払われるか

  • モノの流れ どのタイミングで、だれからだれに、どのような手段で物品(無体のコンテンツも含みます)が渡されるか

  • サービスの流れ どのタイミングで、だれからだれに、どのような手段でサービス(仕事も含みます)が提供されるか

特に、ユーザー間での取引を仲介するオンラインサービス(デジタルプラットフォーム)においては、これらの流れが複雑になる場合が多いため、あらかじめ詳細に整理しておくことが重要になります。

運営者の責任の範囲が適切に制限されているか

利用規約には、運営者の責任を免除したり制限したりする条項を設けて、法的リスクを回避する目的もあります。

私のこれまでの経験では、リーガルチェックを担当した利用規約の多くが、運営者の責任の範囲が十分に制限されていないものよりも、むしろ、過剰に制限されているものでした。

運営者の責任の範囲は、制限すればするほどよいわけではありません。

第1に、責任の範囲が過剰に制限されていると、消費者契約法や民法の規定を根拠に、その制限の法的効力をユーザーに主張することができないためです。

第2に、責任の範囲が過剰に制限されていると、ユーザーから見て「責任逃れ」のようにとらえられて、心証が悪いためです。

これらの観点から、運営者の責任の範囲は、類似サービスも参考にしながら適切に設定することが重要です。

形式的な体裁は整っているか

利用規約のリーガルチェックにおいては、誤字・脱字・表記ゆれ・条項番号のズレなど、形式的な体裁に不備がないかを確認することも重要です。

このような不備があると、利用規約の効力に影響が生じるばかりではなく、利用規約を読んだユーザーに、「いい加減に作られた利用規約」という印象を与え、心証が悪いからです。

利用規約が作りこまれているかどうかは、運営者の法務対応がしっかりしているかどうかを見極める1つのメルクマールとなります。形式的な体裁にもきちんと気を配ることは、ユーザーからの信頼を得るために重要なことです。

セルフチェックが難しい場合は?

このnoteでご紹介した観点を踏まえていただき、セルフチェックを行うことが難しいと判断された場合には、弁護士のリーガルチェックを利用することをおすすめします。弁護士に依頼することで費用はかかりますが、今後ビジネスを円滑に運営していくためには必要な投資であると思います。

[私が所属する法律事務所で運営するサイト]
ITベンチャーなどビジネス向けの最新テーマを主に取り上げたサイト「Web Lawyers」はこちら

書籍のご紹介

最後に、オンラインサービスのスタートアップについて取り上げた拙著(2022年9月出版)をご紹介いたします。

書籍情報はこちら

「新しいECサイトやWEBサービスを立ち上げよう!」と思ったとき、リリースが間近に迫った段階で、「しまった!利用規約もプライバシーポリシーも作ってない!」「このサービス、法律にひっかかるの!?」といった法律にまつわる「壁」にぶつかってしまうケースが多くあります。

この書籍では、オンラインサービスのスタートアップで企画段階から必ず押さえておいていただきたいテーマを実務視点でピックアップし、詳しく解説しました。

利用規約のサンプル(3種類)、プライバシーポリシーのサンプルを全文掲載したほか、個人情報保護法、特定商取引法、資金決済法などオンラインサービスにかかわる様々な法律の中から「これだけは必ず押さえておきたい!法律知識」を厳選して解説しました。

特に、次のサービスに関するテーマを中心に取り上げています。

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