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誰にも知られたくないのに 誰かにわかってほしいんだ

僕の今年のライブハウス初めは僕の大好きなバンド、「ハンブレッダーズ」のワンマンツアー「ギター!ギター!ギター!」の広島公演となった。(ネタバレあり)


そもそもハンブレの説明をしておくと、「ネバーエンディング思春期」をモットーとし、学生時代を教室の隅の方で過ごして、音楽が友達だったような層にガッツリと刺さるような音楽を作っている。僕がこのバンドを知ったのは高校1年生の時。同じ部活の先輩におすすめされて聞くようになった。当時はまだメジャーデビューもしておらず、知名度もそこまで高くなかった。それでも素人ながらにこのバンドには唯一無二の魅力があると思っていたし、何かきっかけがあれば人気は出るだろうなと思っていた。


その予言は的中し、2020年の2月にメジャーデビューしてからはアニメを中心にタイアップが付くことも増え、右肩上がりに人気を伸ばしていった。3年前に僕が見に行ったライブでは福岡のキャパ300のライブハウスだったのに、今ではzeep Tokyo でワンマンをして完売させることができるほどに集客力も付いた。その僕が見に行った福岡のライブを最後に当時のリードギターが事実上の脱退をし、現在はサポートギターを加えながらスリーピースとして活動をしている。


もちろん、自分がずっと前から応援していたバンドが人気になることは喜ばしいことではあるが、やはりどこか複雑な気持ちになることもある。ここは完全に個人の所感なのだが、自由に自分達の望むような楽曲制作ができていたインディーズ時代とは違い、メジャーデビューしてからは事務所の売り出し方やタイアップとの関連など、制作にかけられる費用や機材は増える一方でその自由度は限定されていく。現にハンブレのメジャーデビューアルバム「ユースレスマシン」を聴いた際にも、僕は今までとは違う違和感を覚えた。それはひとえにリードギターがいなくなり、ギターの音色に変化が生じただけでなくて、明らかに楽曲の肌触りというか、言葉で言い表すことのできない感覚に違和感を感じてしまった(バイアスがかかっているかもしれないけど)。


そこから先はしっかり新曲もチェックしていたし、CDも買っていたけれど、急にハンブレが自分から遠く離れてしまったような感覚だった。今まで自分の隣を並走しながら近い価値観で歌っていたのに、突然先に走り出されて自分の見えない、知らない所で歌っているようだった。僕がもともと保守的な性格なのもあって、自分の想定していなかった変化には拒絶反応を示してしまう。(よくない)そうしたことから、新曲が発表されても過度に期待しないようにしていた。

そんな中昨年11月にリリースされたのが2ndアルバム「ギター」だった。タイトル通り、イントロでは只管にギターのリフを炸裂させ、そこから繊細な歌詞と我の強いギターの音が共存する「ハンブレらしい」曲が多く収録されている。歌詞の内容も音楽への愛を歌ったものばかり。なんとなく僕が今まで好きだったハンブレが戻ってきたような気がして、この曲たちがライブでどう表現されるのか、かなり自分の中のハードルを上げて参戦することにした。



2月13日、会場は広島クラブクアトロ。3年前は福岡の小さなライブハウスを埋めるので精一杯だったのが、今では中国地方でトップクラスに大きいライブハウスでチケットを完売させるほどのバンドになったことに感銘を受ける。


定刻の6時になると、SEがかかり、ベースのでらしは元気よく、ムツムロ(Vo. Gt.)、キジマ(Dr.)、サポートギターのうき はユルくステージに現れる。イントロをアレンジする形で演奏された1曲目は、このアルバムのリード曲である「再生」。「うるさい歌が終わるまでは向かう所敵無しだぜ」というフレーズからは、こんなご時世でもライブを続け、せめてその時間だけは音楽に浸っていようとのメッセージが届けられる。

「再生」を演奏し終えたあと、いつも通りムツムロは「スクールカーストの最底辺から青春を歌いに来ました」と挨拶するのだが、今日の客層を見ていても年代、性別、見た目の派手さなどが大きく違う人々が集まっていることが分かる。

これまでのハンブレッダーズはスクールカーストの下部の人々に刺さるような音楽を作っていたように思えるが、今ではカーストなど関係なく、音楽が好きであればきっと共感できる音楽を作っている。今日の客層からもハンブレッダーズが徐々に大衆に広まったバンドになっていることが感じられた。


続けて、「ギター」、「ユースレスマシン」、「アイソレーション」とハンブレ自身の音楽観が表現された楽曲が並べられる。「錆びついたギターでぶっ壊す もう全部全部全部」(ギター)、「たった一枚のディスクで真夜中をフライト」(ユースレスマシン)、「目を閉じ 耳を塞ぎ 溜め息を吐きながら 好きな歌を歌う」(アイソレーション)と、愚直なまでに周囲のことは気にせず、自分の好きな音楽、自分の信じる音楽にのめり込む感情が表現される。それはこのアルバムが最も伝えたかったメッセージであり、やはりこれから始まるハンブレッダーズが演奏する2時間弱だけは、広島クラブクアトロだけは無敵になれるのだ。そんな予感を想起させるライブの幕開けだった。


その後は「広島のチケットが余ればバンドをやめるつもりだった」とのジョークも飛ばしながらのMCを挟み、アルバム曲を中心にライブが展開される。随所にライブ盤のアレンジや軽いセッションを挟みながら曲を展開していくという光景は、3年前のハンブレからは見えなかったものである。ムツムロの歌唱からも不安定さが消えており、でらしの奏でるベースラインは複雑さを増しながらもコーラスの精度が飛躍的に上昇しており、キジマのドラムは非常に力強いものになっている。明らかに個々の演奏技術が向上しており、それが足し算どころか掛け算以上の値の大きな解を生み出している。

もちろん今の名前の売れ方には良い曲を作ったことやそれらがタイアップ等で広まったこともあるだろうが、その最たる理由はハンブレッダーズ自身が高い演奏技術を持ってしっかりとライブハウスを沸かせてきたことによるものだということを自身の手によって証明している。


ライブも中盤に差し掛かり、ハンブレ屈指のバラード曲、「名前」、「天国」がプレイされる。バラード曲では一般的に歌詞が重視されるものだが、そのバラードこそがハンブレッダーズのソングライター、ムツムロアキラの真骨頂である。その後にプレイされる「プロポーズ」もそうだが、ハンブレッダーズのラブソングに出てくる女性はどこか親し気な空気を纏い、背伸びはせずに等身大の幸せを描いたものが多いように個人的には感じている。

ムツムロが特定の誰かをモデルにして曲を作っているかどうかはムツムロのみぞ知る所であるためここには触れないでおくが、その取っつきやすさやリアリティーがハンブレッダーズが支持される要因であるとも感じる。

いよいよライブも終盤に差し掛かり、ライブでのキラーチューンを連続投下し、フロアは熱狂する。「ワールドイズマイン」では「ド派手なエレキギター」のあとに一度曲を止め、ドラムのフィルに合わせて客の拍手を増減させるというユーモアたっぷりのアレンジも見せた。さらにそこから曲間ゼロでサビのフレーズをイントロに持ってくるアレンジを施してプレイされたのは「弱者の為の騒音を」。ここに来て初めてインディーズ時代の楽曲が披露され、尚更ハンブレッダーズが急激な速度で成長していることを感じる。

そして、「俺は歌もギターもそこまで上手ではないけど、ハンブレッダーズの曲に限って言えば俺より上手く歌えるボーカリストもいないし、上手く弾けるギタリストもいない」とのMCを挟んでからの「BGMになるなよ」からはメジャーデビューして2年になろうとするバンドとは思えないほどの貫禄が滲み出ていた。

そして本編最後はアルバムの最後から二番目に位置する、「君は絶対」で幕を閉じる。直前のMCでは「しんどいことがあればイヤホンを差してほしい、そうすれば少しだけ楽にすることができる」と話し、サビで「君は絶対 ひとりになれない」と繰り返してそれぞれの楽器を掻き鳴らす様はまさにロックヒーローだった。

ハンブレッダーズに限った話ではないが、心が辛い時にイヤホンを差して音楽を聴くことで心休まるときもある。自分が辛い時に選ぶ音楽の中に間違いなくハンブレッダーズは入ってくるし、そういった意味では僕とハンブレッダーズの距離は近いままだったのである。

ここで、さっき僕の好きなハンブレが「戻ってきた」という表現をしたが、語弊があったので訂正しておきたい。似た内容の繰り返しになってしまうが、厳密にいうと、「僕がハンブレを遠くにいってしまったと錯覚していた」のだ。「戻ってきた」だと、それは僕が3年前に見たライブを伝説のように扱い、今後それ以上のものは生まれないとしていたような表現になるが、それは断じて違う。

この3年間、ハンブレッダーズというバンドを続けるかどうかかなり悩んだ時期があったという。ファンはその一部分を垣間見ることしかできないが、それでもその心情が伝わってくるということは本人達の間では僕達の想像に及ばないような深い葛藤があったのだと推測される。


悩みに悩みぬいてバンドを続ける選択をした彼らが、アンコール1曲目に選んだのはサビで「続けてみることにしたよ」と歌う「銀河高速」。演奏する彼らの表情は晴れやかだった。バンドを続けるか悩み抜いて、それでも続けるという選択をした。その佇まいからはどこか腹を括ったような、そんな覚悟も読み取れる。

その後は物販紹介のMCを挟み、アルバムでも最後を締めた「ライブハウスで会おうぜ」。ライブの終わりを告げると共に、再びライブハウスでの再開を約束して、今日のライブは幕を下ろした。


かに思えたのだが、更にあと1曲演奏されたのは、まさかの1stシングルのカップリング曲である「フェイバリットソング」。各メンバーがふざけ倒しながら(ムツムロはマイクを反転させ、観客に背を向けて歌い、でらしは途中からベースを弾くことを放棄してハンドマイクでコーラスを行い、そのマイクも投げ捨てたetc.)の演奏だったため、そのビジュアルのカオスさに多少気を取られてしまったが、個人的にハンブレッダーズの中でもトップクラスの名曲だと思っているし、タイトルコールでは思わず拳を突き上げてしまった。この曲のサビの歌詞を引用するが、

誰にも知られたくないのに
誰かにわかってほしいんだ
僕だけのフェイバリットソング
だけど世界中の誰もが
あの歌を歌ってしまったら
僕はきっと聴かなくなってしまうだろう

というさほど有名でないアーティストを応援した経験のある人の誰もが経験したことのある感情がこれでもかと表現されている。この感情は僕がハンブレッダーズに抱いている感情と全く同じだ。ハンブレッダーズの良さが多くの人に知られてほしいと思う傍らで、どんどん大きくなっていくバンドに、ハンブレッダーズが大衆に広まっていくという現実に目を背けていたのかもしれない。

もしこれからさらにハンブレッダーズが有名になって、毎年のようにホールツアーやドームでのライブをする存在になったとしたら、果たして僕は今のようにハンブレッダーズの音楽を聴くのだろうか。

それはその時になってみないと分からないけど、少なくとも今はムツムロが「辛い時にイヤホンを差してくれれば少しだけ楽にしてあげられる」と約束してくれたように、これからも僕は自分だけが知っているという優越感と有名になっていく寂しさの狭間で揺れ動きながらハンブレッダーズの音楽に寄り添い続けるのだろう。どれだけバンドの規模が大きくなっても、ハンブレッダーズはこれからもイヤホン越しに傍にいると、そう確信した一日だった。


セットリスト

1 再生

2 ギター

3 ユースレスマシン

4 アイソレーション

5 COLORS

6 スローモーション

7 STILL DREAMING

8 ガチャガチャ

9 名前

10 天国

11 プロポーズ

12 ワールドイズマイン

13 弱者のための騒音を

14 BGMになるなよ

15 君は絶対

ENCORE

16 銀河高速

17 ライブハウスで会おうぜ

18 フェイバリットソング