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はる まつ ぼくら

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「ふわあ、よく寝たなあ」
冬のあいだ、ずっと冬眠していたクマくんが
大きなのびをしてベッドから起き上がる

だけど、あれあれ、何かが変だ
自分のはいた息がまっ白い
それにベッドの中は暖かいけれど
部屋は冷蔵庫の中みたいに寒い

早く起きすぎたかと思ったけれど
どうやら、そうじゃない
いつもなら来るはずの春が今年はなぜか来ていない

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クマくんはまだ夢を見ているのかと目をこすり
もう一度窓の外を見る
だけど、やっぱり外はいちめん雪景色だ
いつもだったら花や草木の明るい色であふれているのに

「冬がまだ終わってない…」
クマくんの息でガラスが白くくもる
「これじゃあ外に出られないよ
 町のみんなも大丈夫かなあ」

だけど、ずっとこうしてばかりいられない
「そうだ、食べ物は木ノ実ならいっぱいあるし、遊び道具もある
 こんな年もあるさ、のんびり春を待つとしよう」
クマくんは自分を励ますと、ごはんのしたくをはじめた

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それから一週間、雪はいっこうに降りやまない
クマくんはいろんな遊びをしてみたけれど
すぐに飽きてしまった

今日はぬいぐるみをお客さん役にお茶会をした

「さあさあ、お茶が入ったよ」
とクマくん
「あら、クマくん、ありがとう」
とぬいぐるみ
「今日もいい天気だね」
とクマくん
「あとでピクニックに行きましょうよ」
とぬいぐるみ

「はあ…」
クマくんはむなしくなってため息をついた
「いつもの春なら当たり前に友達とできたのに
 ぬいぐるみ相手だとちっとも楽しくない…」

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どんなに平気だと自分を言い聞かせても
一人でずっといると
不安が雨雲みたいにぷくぷくとふくらんでくる

「このままずっと冬だったらどうしよう…?
 一生ひとりぼっちだったらどうしよう…?」

クマくんの瞳にいつしか涙がたまりだす
それがこぼれ落ちようとした、そのときだ

「あ…!」
ふいに窓の外を見たクマくんが声をあげた

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「わあ! すごいや!!」
赤や青や緑に黄色にピンク
どこの家の窓にも
たくさんの色があふれている

きっと最初に誰かが自分の無事を伝えるため
紙に色をぬったり、絵をかいたり、いろんな形に切ったり貼ったり
明るくかざったのだろう
それをまた誰かが返事のためにまねして
そうして家から家へ伝わったに違いない

それは、同じく春を待ちわびる人々の
「ひとりじゃないよ」
というメッセージにクマくんには思えた

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「よおし!ぼくもさっそくかざろうっと!!」

クマくんはさっきの涙もすっかりひっこんで
元気いっぱい窓をかざりはじめた

しんぼう強く春を待つみんなをはげましたくて
クマくんは色とりどりの紙かざりと一緒に
大きな文字を書いた

 終わらない冬はない
 春になったらまた会おう

クマくんが空を見上げると
白い空のずっと向こうで
太陽がニッコリ笑った気がした

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あとがき

新型コロナウィルスの感染拡大により、世界中に大きな社会不安が巻き起こっています。つい先日、日本でも緊急事態宣言が発令されたところです。不要不急以外の外出自粛が、今後の爆発的な感染拡大を防ぐ上で重要とされています。
とはいえ、ネットやテレビを見ても不安を掻き立てられる情報ばかり、先行きの見えない中でじっと耐え忍ぶにはつらい日々です。

せめて物語の中でだけでも。そんな思いから、現状を踏まえつつも小さな希望を感じさせるものを届けられたらと、友人であるイラストレーターの青山ゆういち氏に相談して絵本の制作を行いました。
何分、急ごしらえなので作りの甘い部分もあるやもしれませんが、こちらはすべて著作権フリーとなっております。ダウンロードして、個人はもちろんネット配信での読み聞かせなどでもご利用ください。
クマくんは明けない冬を前に絶望しかけるけれど、誰かの小さな行動が希望となって、元気を取り戻し、それに明るく応えます。離れていても気持ちは伝えられる、そしてそれは誰かの生きる希望にだってなる。短いお話ではありますが、そんな思いを込めたつもりです。

今現在、最前線で戦ってくださっている方々、特に医療従事者の方々へ感謝を忘れずに。
たとえ離れて暮らしていても、元気でいればまた会える。
その日が来るのを、楽しみにしています。

                    2020年4月某日  八木沢里志

この絵本はすべて著作権フリーとなっております。ダウンロードして、個人はもちろんプリントアウトやネット配信での読み聞かせなどでもご利用ください。

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