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『ペトリコール』


雨が降ると思い出す。
濡れてうねった前髪も、裾が濡れて重くなる足も、濡れて溶けちゃうような嘘も。全部思い出すよ。



僕は雨が好きだ。

君はいつか観た退屈な洋画のシーンを真似て『雨が好きなの。』って傘も刺さないで外に出た。
『この雨の匂いなんて言うか知ってる?』
君は質問した。
『ペトリコールって言うんだよ!』
リアクションする間もなく君は僕の手を引いてはしゃぎ回る。
僕は少し前に出る君を追うことに精一杯で水溜りにも気付けないで足が濡れてしまう。酷く不快。
でも君といたからそんな雨も好きだった。


1人の雨は退屈で少し淋しいや。止む気配がない。
明けない夜がたまにあるみたいに止まない雨もあるのかな?
君がいない雨の日は世界がモノクロみたい。例えるなら、鈍色の空、濡れたアスファルト、自販機の下に隠れる鼠?少し違うか、


僕はミルクティーを買うために外に出た。
雨の匂いがする。なんて言うんだけっけな、あのアレ、横文字の、まあいいや。雨なんて早く止んでくれよ。雨の匂いより雨上がりの匂い「ゲオスミン」の方が好きなんだよ。

僕は雨が嫌いだからさ。



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