裏切り者

私は家族のなかの裏切り者だ。
私の両親は私が物心ついた頃から仲良く話していたことはなく、ご飯も洗濯も別で、父親が帰ると母親が逃げるように2階に上がり、顔も合わさず暮らしていた。中学生にあがると別居をすることになったが、親権をどちらにするか揉めた。どちらも子どもがいてほしかったし、どちらも私の親ではなく自分の第二の人生に期待していた。

もう10代ではないから自分の家族について嘆くつもりもないし、慰めてもらいたいわけでもない。でも、親権があいまいな私はいつも「どちらか」を選ぶ必要がある。お正月は東京の母家族と静岡の父家族がそれぞれ集まり、それが同じ日にある場合は一人で行き来する。幸い遠い距離ではないけれど、それでも「どちらに先に顔を出すか」を決める必要がある。父を選べば「親不孝」、母を選べば「裏切り者」と言われてきた。今はそんなことを言われなくなったけれど、一度言われた言葉はいつまでも残る。どちらにいても、「あっちの子」と思われている気がする。

結婚式をする時はどちらを選んで招待すればいいのだろう。(一方が来ればもう一方は確実に来ないしきっと自分を選ばなかった私に失望する。)そんな悩みが以前からあったが、そもそもそんな華やかなイベントに縁などないだろうと思うことでどうでもよくなった。

父方の祖父が末期がんで、延命治療をしていない。先週緊急入院をして、病院のベッドの上にいる。
一刻も早く静岡に帰って顔が見たい気持ちになっていたところ、母から帰ってきてほしいと頼まれた。
母方の家族が喧嘩して、東京に暮らしている93歳の祖母が叔母家族のもとを抜け出し静岡まで来たそうだ。一人で家にいるのは危険がいっぱいで、母の仕事中そばにいて見守ることになった。

父方の祖父は容態が急変して、これから親戚皆が集まって最期を看取りにいくという。せっかく静岡まで来たけれど、会うことはできない。私はまた「どちらか」を選び「どちらか」に失望されて「裏切り者」として生きていくのだ。

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