「プレバト!!」の皆藤愛子の句
「プレバト!!」の俳句を取り上げるのは2回目ですが、前回が藤本敏史さんで、今回は皆藤愛子さんです。
皆藤さんは、セントフォース所属のフリーアナウンサーで、「めざましテレビ」のお天気キャスターとしてお茶の間に親しまれていたイメージです(2005.4.1~2009.3)。また、早稲田大学第一文学部を修了した才媛でもあります。
そして皆藤さんと言えばその可愛らしい容姿ですかね。まあ写真集も2冊(「あいこ日和」・「あいこ便り」)出しているので、わたし個人の感想というより、そのようなパブリックイメージがあるという意味です。
その「可愛らしさ」ですが、以下に彼女の句を見ていきますが、外見だけではなく内面にも現れていることがその句から分かります。
綿菓子の甘い風吹く夏の夜
たんぽぽのわたと飛び乗る銀座線
たんぽぽ・・(季)春
木の芽晴あいこ3回照れ笑い
木の芽晴(季・コノメバレ)春
「甘い風」・「たんぽぽのわた」・「あいこ」。語意もそうですが、ひらがなの印象も相まって、やはり若い女性らしい可愛らしさが感じられます。
引き続き、彼女の句をいくつかの型に分類して紹介していきます。
次に爽やかな印象を受けるものとして
チャイム鳴り駆ける袖から夏の風
ソーダ水睫毛に跳ねる泡涼し
ソーダ水(季)夏
「チャイム鳴り駆ける」とは学生時代の記憶でしょうか。「ソーダ水」・「跳ねる」・「涼し」からは清潔感のある涼やかさが伝わってきます。
そして、実際の体感・経験に基づいて鋭敏な感受性を表現したものが
悴める手のひらを刺す乗車券
悴む(季)晩冬
シャンプーの泡伝う霜焼の耳
検診結果封切る刃先日の盛り
日の盛り(日盛りの子季語)、日盛り(季)晩夏
子季語・・季語の変化形
「悴める手」・「霜焼の耳」・「封切る刃先」と描写のフォーカスをぐっと絞ることで、その経験・感覚がありありと伝わってきます。
推測ですが、食べること・飲むことがお好きなようで、それにまつわるものが
食後酒に木犀の香甘み足す
木犀・・(季)晩秋
ほろ酔いの帰路すき焼きの仄かな香
すき焼き(季)冬
替え玉を伝える小声雪催
雪催(季・ユキモヨイ)三冬、今にも雪が降りだしそうな天気
秋渇きピアノに映る二重顎
秋渇き(季・アキガワキ)秋・食べても満たされない状態
いくつかあったので、ひとつのまとまりとして括ったのが〈蚊・昆虫〉についてです。
別れ蚊を払うひとりの台所
別れ蚊(季・ワカレカ)秋に出る蚊
終電を待つ二の腕に蚊の名残
ががんぼのゆくえ目で追う女子トイレ
ががんぼ・・蚊に似るがより大型の昆虫
季語の使い方は非常に真面目な印象で
夕立の粒木霊する高架下
夕立(季)夏
冬隣る振り込み画面の静電気
冬隣(季・フユドナリ)晩秋
右肩に枯野の冷気7号車
枯野(季)三冬
教科書掲載句
風光る天気原稿靡く音
靡(なび)く
風光る(季)三春
「右肩に~」は教科書にも掲載されたようで、優等生ぶりがうかがえます。
次に、見る句は、「物」・「自然」・「人」・「社会」へと広くその眼差しが注がれたものです。
〈物・自然を見つめる〉
赤錆の乾く傘立て旱梅雨
旱(ヒデリ)
春暁のカップ麺水面の油膜
春暁(季)三春、春の夜明け
ラムネ瓶浮かぶ未明の五行川
ラムネ(季)夏
五行川・・栃木から茨城を流れる河川
オリオンと重機の湯気と土煙
〈人や社会の営み〉
春暑しマスクポッケにA定食
春暑し(季)仲春~晩春
休業と手書き格子戸に春塵
春塵(季・シュンジン)三春
ダービー馬鼻差差し切る芝静か
BSイレブン競馬中継のMC
最後に個人的に好きな句を改めて取り上げたいと思います。
たんぽぽのわたと飛び乗る銀座線
軽やかだし、春の少し浮き足だった感じがよく出ています。
春暁のカップ麺水面の油膜
春の明け方、昨晩食べたものなのか、流しにカップ麺の容器が置いてあり、水面には油膜が浮いている。油膜を見つめるその姿は、昨晩の出来事であろうか、物思いにふけっている。
秋渇きピアノに映る二重顎
ピアノに写る、自分の決して美しいわけではない姿が詠まれている。自らに向けた視線の容赦のなさ。
別れ蚊を払うひとりの台所
季節外れの蚊の、「今じゃないんだよ」感がすごい。しかも彼女はそんな時も「ひとり」なのだ。
確かに可愛らしい一面も持っていますが、とてもそれどころではないですね。周りにも、自らにもしっかりと目を向け観察し、それを受け止めている。きちんと世界と対峙する内面の深さに驚かされます。
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