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「匠」の進化がもたらすもの

新NISAが始まり個人投資家の中ではS&P500インデックスファンドやオール・カントリー・ワールド・インデックスファンドが人気商品となっている。日本に比べると海外の経済成長への期待は高く、特にユニコーン(創業10年以内に株式時価総額10億ドル以上を目指す会社)が次々に生まれ、株式市場をけん引する会社が入れ替わる米国などでは株価上昇に対する期待も高まる。
例えば、AI分野に欠かせない半導体製造の最大手、米国のエヌビディア社の株価はこの1年で4倍近く上昇した。その一方で、様々な技術革新が起き、社会のニーズが変化したとしても、必ず必要とされる会社がある。モノづくり、つまり「匠」の技術を持つ会社だ。
鎌倉投信が運用する「結い 2101」の個性価値を見極める視点、「人」「共生」につづく3つ目が「匠」だ。その多くは日本に拠点をおきながらも世界中に商品を供給するグローバルニッチな会社が多いのが特徴だ。その特徴を探っていこう。

1.鎌倉投信流「匠」の着眼点

日本のモノづくりの代表的な会社といえば、トヨタ自動車や日立製作所などがすぐに頭に浮かぶでしょう。しかし、「結い 2101」の投資先は、どちらかというとそうした大手ではありません。この会社のこの技術がないとパソコンがつくれない、この会社のこの部品がないと携帯電話がつくれないといった、ニッチな分野で高い技術力や商品力を持つ会社に着目しています。こうした会社は、技術革新によって産業構造が変わったとしても必要不可欠な技術・部品を供給でき、価格競争力も高い傾向にあります。そこで「結い 2101」が、「匠」の投資先で重視している判断ポイントは、

①  商品・サービスの優位性・独自性
②  市場性・収益性
③  変化への対応力・革新性

です。

一例ですが、
①    独自の技術・商品を持ち他社がやらないニッチな市場を開拓している「いい会社」といえば、70年間「光」の可能性を信じ、最先端の光技術を持ち製品開発に取り組んでいる浜松ホトニクス(本社、静岡県浜松市 東証プライム上場)
②    国内のみならず海外でも広い市場を持つ会社といえば、SHOEI(主にバイクの高機能ヘルメットの製造・販売 本社、東京都江東区 東証プライム上場)やシマノ(自転車の変速ギアや釣り具の製造・販売 本社、大阪府堺市)
③    変化への対応力の高さでいえば、半導体等の高機能化学薬品「フォトレジスト」の製造において、あらゆる顧客ニーズに応え続けてきた東京応化工業(本社、神奈川県川崎市 東証プライム上昇)
などは代表的な会社です。

前回のnoteで書いた「共生」自然・地球環境との対話という観点の「匠」では、愛媛県から世界No1の産業用ボイラ・メーカーを目指す「三浦工業」もしかりでしょう。蒸気から熱をつくりだすボイラは、クリーニングや食品加工、滅菌洗浄など様々な産業分野で利用される熱供給機器の一種です。その中でも、同社は、熱効率を高めた小型貫流ボイラに強みをもち、その分野で国内シェア60%です。ボイラの熱効率といってもピンとこないかもしれません。例えば、ガスコンロの熱効率が概ね30%といわれる中で、同社は独自の技術開発によって98%にまで高めてきました。さらに、原水から排水処理にいたる様々な工程で発生するエネルギーロスや排水を資源として再利用する技術を開発・提供することによって、製造工程全体から排出されるCO2削減や水の浄化、エネルギー効率の向上に大きく貢献しているのです。10度の低温排水から最大75度の熱水に再利用できるというから驚きの技術です。

2.世界に通用する「匠」の磨き方

では、こうした「匠」の会社は、どのように世界で通用する商品を生み続けることができるのでしょうか。2022年、No Technology No Lifeをテーマに開催した受益者総会では、私たちの生活になくてはならない「匠」な技術力を持つ「いい会社」の経営者や社員さんに登壇いただき、会社経営、自社の技術や研究開発への想いなどについて話をうかがいました。

その中で、ジルコニウム化合物を中心とした無機化合物の製造・販売・研究開発をおこなう第一稀元素化学工業の國部洋社長、プラスチック射出形成品の取り出しロボットの製造・販売・研究開発をおこなうユーシン精機の小谷高代社長にこのような質問をしたことがあります。

(問)なぜグローバルニッチな地位を築けたのか

【価値ある商品は 価値ある人生 価値ある職場から生まれる】

長年、ニッチな素材であるジルコニウムに特化し、ジルコニウムだけをやり続けたことで、他の元素との組み合わせの知見が積み上がっている。簡単に真似ができることではない。「価値ある商品は、価値ある人生、価値ある職場から生まれる」という経営理念の下、「人」を大事にしてきたことも競争力につながっている。(國部氏)

【技術を目的にしてはならない】

技術を目的にしてはならない。技術はあくまで手段である。価値あるものを提供するための技術があって初めてお客様に喜んでもらうことができ、ひいては社会に喜んでもらうことができる。10年、15年、問題を起こすことなくお客様に使い続けてもらうための品質管理、アフターメンテナンスまでを含めた総合力で信頼を得ていることが大切だ。技術への自己満足ではダメで、技術を用いて「お客様の期待にいかに応えるか」という日々の努力こそが、世界オンリーワンの地位に至る唯一の道である。もともとユーシン精機という社名には、「信用のある会社でありたい」という創業者の強い想いが込められている。(小谷氏)

いずれも示唆に富む言葉です。

ちなみにユーシン精機の製品は、直接僕らの目に触れる機会はあまりありませんが、携帯電話やパソコン、自動車などに利用されているプラスチック製品やペットボトルなど僕たちの生活に欠かすことのできない必需品を製造する過程で、その技術が活かされています。この分野で世界トップのシェアを持つグローバルニッチな会社で、創業以来一度も赤字になったことはない無借金経営を続けています。その理由の一つが研究開発の思想だと感じています。

ユーシン精機は、お客様の要望に基づいていろんなロボットを製造・販売する研究開発型の会社ですが、そこで、創業当時から変わらずに受け継がれている研究開発の思想があります。それは、「お客様から課題を与えられたときに、少なくとも7つ以上の解決策を考えよ」という思想です。1つ、2つ、3つ、4つであれば同業他社もやるかもしれない。それを乗り越えて、5つ、6つ、7つと、考え、考え、考え抜いて最高のものを提案する。これがユーシン精機の約束の守り方のレベルなのです。

以前、小谷前会長と面談を終えて本社の外を歩いていると、前会長が少し息を切らせながら駆け寄ってきてこう話しました。
「言い忘れたことがありました。当社の社員は、本当に真面目なんです」
そのことをわざわざ伝えにきた小谷前会長こそ、嘘偽りのない真面目な経営者なのだということがよく伝わってきたものです。

技術は手段であって目的ではない。技術への自己満足ではダメで、技術を用いてお客様の期待にいかに応えるかという日々の努力こそが、世界オンリーワンの地位に至る唯一の道であることを両社長の共通メッセージとして受け取りました。この点は、鎌倉投信を含めあらゆる会社に通じると感じました。

3.技術の進化がもたらすもの

このような技術の進化は、私たちになにをもたらすでしょうか。なかなか未来を予測することはできませんが、経済や社会がこれからどのような方向に向かうのかを予見することはある程度可能ではないでしょうか。たとえば、世界中で新型コロナウィルスが猛威を振るいはじめた2020年5月、マイクロソフトのCEOサティア・ナデラ氏は、次のようなことを述べています。

「世界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速している。コロナ終息後もコロナ前の世界には戻らない。世界の人々の思考が変わり、行動も変わってきた。2ヶ月で2年間分のデジタル変革が起きた。この状況を越えた後、世界中で大きくDXが進む」

感染症の拡大やスピード自体は誰も予測はできませんでしたが、時代を流れるこうしたデジタルシフトは、予見可能な未来といえるでしょう。DXを含めた「技術革新」と「異なるものの融合がもたらす新たな価値創造」は、僕自身が、実際に仕事をしながら身近に感じています。これから数十年のうちに経済、社会を大きく変革する不可逆的な潮流であることは間違いないでしょう。その大きな流れが2つあると感じています。

①    技術革新がもたらす産業・社会構造のトランジション
②    過小評価されてきた社会資本のバリューアップ

これらは同時に日本の可能性でもあり、投資の新たな機会を創造します。それぞれについて見ていきたいと思います。

4.技術革新がもたらす産業・社会構造のトランジション

技術革新といっても、環境、エネルギー、バイオ、ナノテクノロジーなど、分野は多岐にわたります。僕は大きく3つの観点から、イノベーションの影響力の大きさに注目しています。
1つは、さまざまな分野で起こる技術革新が社会に浸透するまでのスピードが加速するという点です。
次に、これらの技術は応用範囲が非常に広く、多様な組み合わせが考えられるという点です。一見すると全く関係がないモノやサービス同士が融合して、そこから思いもよらない応用分野が生まれてくることも期待されます。たとえば農業スタートアップは、いまやIT企業といってもいいかもしれません。

こうした技術革新による潮流は逆戻りすることはありませんし、特定の企業や産業に留まらず、幅広い産業分野に対して強い影響力を持つことは、今起きている技術革新の今までにない特徴といえるでしょう。

その延長線にあるのが、技術から生み出される「提供価値の変化」でしょう。たとえば、年明けもそうでしたが、アップルが自動運転車を生産するという話は、幾度となく出ては消えます。仮に実現するとなると、自動車は「移動手段そのものに価値がある」という話ではなくなります。消費者からすれば、空間や移動時間のエンターテイメント性、ときには災害時の非常電源かもしれません。製造メーカーからすれば、利用者から得られる多種多様なデータにこそ価値があることになるでしょう。

一見異なる事象を、いままでの延長線上で二項対立的にとらえるのではなく、共通項を発見し、矛盾を統合して高い次元に進めるところからイノベーションは生まれます。僕は、こうした社会変革を生み出す努力をしている会社への投資が、「いい未来をつくる投資」につながると考えています。

こうした動きはこれから10年~20年で加速し、日本の産業構造、社会構造は大きく変わる可能性が高いと感じています。いままで述べてきたさまざまな社会課題も技術革新によって解決する分野もひろがり、新たなビジネスも生まれてくるでしょう。
一方で、こうした流れに乗って成長できる会社とそうでない会社とが明確に分かれます。投資する側としてもその見極めが重要になるのは間違いありません。

5.過小評価されてきた社会資本のバリューアップ

経済のグローバル化によるさまざまなひずみと地球環境という制約条件下で、資本主義の形は「社会をいかによくするか」という社会価値創造型の資本主義に、少しずつですが動きはじめています。

大量生産、大量消費を前提とした資本主義経済の仕組みのなかでは、どちらかというと過小評価されてきた社会資本や環境資本が再評価され、価値化される方向へと向かうと僕は予想しています。たとえば、福祉という領域のなかにとどまってきた障碍者や、人口減少に直面する地域などから新たな経済循環が生まれたり、社会課題になっている介護や少子化などの社会課題から価値を生み出したりするということはそれにあたります。これはいってみれば過小評価されてきた社会資本のバリューアップともいえるのではないでしょうか。こうしたことも技術の進化によって可能になっているのです。

このような動きは、資本主義経済の根底にある「いかにお金を増やすか」という世界のなかで分断されてきた、人と社会、人と自然や地球環境との関係性の再構築にも映ります。それができるのも自らの存在価値を問い、いかに社会をよくするかという視点を持つ会社です。またそれを実現するのも「匠」の使命といえるでしょう。

匠の本質は、モノをつくることではありません。「いい社会」「いい未来」に変える力になることによって「匠」の意味が生まれるのです。鎌倉投信は、これからもそうした会社を応援したいと思います。

いつもnoteを読んでいただきありがとうございます。もう少し鎌倉投信について徒然につづってみたいと思います。

※noteの中で、「結い 2101」の投資先であるなしにかかわらず個別企業の事例を紹介していますが、「いい会社」の着眼点を分かりやすく示すことを目的とするもので、個別の株式などへの投資を推奨するものではありませんので留意してくださいね。



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