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ほんの一部スイカ #毎週ショートショートnote

夏になると、恋人のほんの一部がスイカになる。

つまり、左手の薬指にスイカ模様のネイルを施すのが、恋人の夏の儀式なのだけれど。それを見るたび、あぁ、今年も夏が来たなあと思う。

「今年は不作だなあ」と6年目の恋人は薬指を見ながら言った。ネイルがうまくいかなかったのだろうか。確かに、例年よりスイカの色が薄い。

「たぶん来年はもう、スイカになれないだろうな」

物憂げな言い方をする恋人の指をとって見る。恋人は独り言を続けている。

「こうやって年々、スイカになれなくなっていってしまうのかなあ。スイカになれないなら、トマトでもレモンでもいいけれど。あ、でもインゲンとか枝豆とかだったら嫌だなあ。何かのつまみみたいだし」

物憂げな恋人の前に、ケースを差し出す。それを開けると、恋人は目を輝かせた。

〈お互いの心が熟れたときに、実がなります〉

6年前に買った、エンゲージリングにスイカがなっている。薬指を差し出した恋人は、うっとりとそれを見ていた。

410字


たまには不思議じゃない設定でいきたいんですが、やっぱり不思議なものが入ってしまいました〜

今週もありがとうございました。

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