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『スタートアップの経済学』はしがき・目次・各章のテーマ

有斐閣書籍編集第2部

8月1日に発売し、「即重版」が決定するなど、ご好評をいただいている『スタートアップの経済学』の「はしがき(抜粋)」「詳細目次」「各章のテーマと問い」を掲載いたします。
ご購入検討の参考にしていただければ幸いです。

はしがき(抜粋)

 本書『スタートアップの経済学』を執筆することに決めたのは,スタートアップに関するアカデミックな知見を広く知ってもらいたいと思ったからです。筆者がかつて委員を務めていた政府関係のいくつかの委員会では,このテーマに関心を持っている方は多くいらっしゃいました。ところが,研究者の間では常識と思えるようなアカデミックな知見さえもあまり知られていないことを知り,驚愕と失望の念を覚えたことをよく記憶しています。アカデミックな研究の進展により,スタートアップ企業に関する課題や解決策について多くの知見が示されている一方で,それが日本ではあまり知られていないことに大きなショックを受けました。
 よく考えてみると,これは無理もないことかもしれないと思うようになりました。経済学においては,労働経済学,産業組織論といった伝統的な研究分野では,定評のある日本語テキストがたくさん出版されています。また,これらの科目は,多くの大学の経済学部において授業として開講されています。他方で,これまで海外のテキストの翻訳版がいくつかは出版されているものの,スタートアップ企業に関連する経済学に関連した日本語テキストはほとんどありません。さらに,一部の専門職大学院や経営学部(商学部)を除き,スタートアップ企業に関連する授業が設置されている大学は少数といえるでしょう。日本において,この分野の研究者でもないかぎり,このテーマに関連するアカデミックな知見を知る機会がほとんどないというわけです。
 他方で,アメリカ,ヨーロッパをはじめ,海外においては,スタートアップ企業を中心としたアントレプレナーシップについて,テキストがいくつか出版されており,数多くの大学で学部や大学院の授業として開講されています。また,このテーマについては,アカデミックな雑誌もいくつか存在し,ヨーロッパを中心に世界の多くの研究者が日々しのぎを削って研究に励んでいます。しかし,残念ながら,日本においては,この分野の研究者が非常に少なく,アカデミックな研究があまり進んでいないというのが現状です。本書をきっかけに,一人でも多くの方にこのテーマに関心を持ってもらえれば,筆者としてこれ以上の喜びはありません。
 スタートアップ企業に対しては,日本のみならず世界各国で経済活性化の担い手として大いに期待が寄せられています。急成長を遂げるスタートアップ企業の登場は,経済の発展に大いなる活力を与えてくれるに違いありません。しかしながら,本書でも深く議論するように,スタートアップ企業の誕生や成長を実現するのは容易なことではありません。この世に生を受けた新しい企業のほとんどが大きな成長を遂げることなく,消滅していく運命にあります。スタートアップ企業の中で,経済や社会にインパクトを与えるほどに高成長を遂げるのはほんの一握りです。スタートアップ企業については,アントレプレナーのサクセス・ストーリーにあるような光の部分がクローズアップされがちですが,一般にはあまり知られていない影の部分も多く存在します。
 スタートアップ企業に関する課題は,アントレプレナー個人のものだけでなく,(資本)市場,制度,組織,政策を含めて広範囲に及びます。本書では,これらの課題の背景やいくつかの解決策について取り上げています。また,本書のタイトルは『スタートアップの経済学』となっていますが,スタートアップ企業の研究は経済学分野にとどまらず,経営学,心理学,社会学といった分野を横断する学際的なアプローチが必須となっています。本書では,当分野の幅広い守備範囲を完全に網羅することは不可能でしたが,最新のアカデミックな知見を含め重要なトピックは幅広く扱うよう心がけました。
 本書が想定する読者は,主に,初めてスタートアップ企業について学習する大学生(大学院生),あるいは,このテーマに関心のあるビジネスパーソン,政策担当者を含めた一般の方々です。もちろん,アントレプレナーやベンチャー・キャピタリストをはじめとした投資家の方々にも参考になることがあるでしょう。
 本書は,いわゆる創業のためのハウツー本ではありません。しかし,実務に関心のある読者の方にとっても,本書を通してアントレプレナーやスタートアップ企業について客観的に考えてみる良い機会が得られるかもしれません。したがって,本書の扱うさまざまなトピックにおいて,厳密な理論的説明は避けるようにして,直感的に理解してもらえるように多くの図(表)を用いた説明を試みています。また,一般の方にも関心を持っていただけるよう,理論的な説明だけでなく,現実のデータを用いた研究結果を数多く紹介するように心がけました。本書をきっかけに,さらに学習を進めたい方は,各章で取り上げている文献に直接あたるか巻末付録の学習ガイドを参考にしていただきたいと思います。

詳細目次

第1章 スタートアップ――新しい企業について学ぶ意義は何か
1 スタートアップの経済学という学問
  スタートアップ企業とは
  創業機会とアントレプレナーの出現
2 スタートアップ企業について学習する意義
  スタートアップ企業の経済的なインパクト
  スタートアップ企業の脆さ
3 本書のねらいと構成
  本書のねらい
  本書の構成

第2章 スタートアップの経済効果――「企業の誕生」はいかなる恩恵をもたらすのか
1 スタートアップ企業の経済における役割
2 競争に対する影響
  アントレプレナーによる「創造的破壊の嵐」
  正の外部効果
  排除効果と回転ドア効果の証拠
3 イノベーションの担い手
  スタートアップ企業によるイノベーションの特徴
  「知識のスピルオーバー」とアントレプレナーのタイプ
  経済成長の原動力としてのアントレプレナー
4 雇用創出の源泉
  スタートアップ企業による雇用創出
  経済全体への雇用効果
コラム2─1 「潜在的」な参入の脅威は競争への意識を変えるのか
コラム2─2 「品質の高いイノベーション」の担い手は誰か

第3章 スタートアップの個人要因――誰が「アントレプレナー」になるのか
1 アントレプレナーの特徴
  アントレプレナーと経営者
  リスクに対する態度
2 アントレプレナーという職業選択
  経済的な創業動機
  非経済的な創業動機
3 アントレプレナーによる創業機会の発見と活用
  アントレプレナーの人的資本
  アントレプレナーの社会的資本
  機会費用
4 アントレプレナーの心理的特性
  自己効力感
  ローカス・オブ・コントロール
  自信過剰
コラム3─1 現実のアントレプレナーはどのような個人属性を持っているのか
コラム3─2 アントレプレナーは「よろず屋」なのか

第4章 スタートアップの環境要因――アントレプレナーを輩出する背景は何か
1 企業が誕生しやすい国の特性
  国の制度的要因
  マクロ経済要因
2 企業が誕生しやすい地域の特性
  集積効果
  都市化を通した需要効果
  スタートアップ・エコシステム
  大学との近接性
  その他の地域要因
3 企業が誕生しやすい産業の特性
  期待される収益性
  参入障壁の存在
  産業のライフサイクル
  産業間の差異に関するエビデンス
コラム4─1 スタートアップ企業はなぜ移転するのか
コラム4─2 ユニコーン企業を生み出す世界のスタートアップ・エコシステム

第5章 創業時に直面する課題――必要な資金を誰からどのように調達するのか
1 アントレプレナーが創業時に苦労する背景
  アントレプレナーと「情報の非対称性」
  情報の非対称性がもたらす資金制約
2 資金調達の方法
  アントレプレナーが直面する資金制約
  アントレプレナーの資金調達手段
  ベンチャー・キャピタルからの資金調達
3 資金調達の成否を決めるもの
  アントレプレナーの人的資本
  アントレプレナーの性別
4 新しい資金調達の方法
  クラウドファンディングによる資金調達の「民主化」
  クラウドファンディング実施企業のその後
コラム5─1 VC投資家のタイプの違い

第6章 組織と戦略のデザイン――誰とチームを組み,いかなる策をとるのか
1 創業時の組織デザイン
  創業チームの重要性
  創業チームの特性
2 スタートアップ企業における人材面の課題
  創業チームメンバーに対する富の分配
  従業員の採用
  創業者CEOから後継者への交代
  CEO交代の要因と結果
3 スタートアップ企業の戦略デザイン
  差別化とニッチ戦略
  パートナーシップの戦略
  パートナーシップの要因
  パートナーシップ形成における課題
コラム6─1 「フラット型の階層」の神話は続いているのか
コラム6─2 大企業とのパートナーシップにおける課題は何か

第7章 イノベーション戦略――なぜ「果実」を得るのが容易でないのか
1 スタートアップ企業によるイノベーションの特徴
  イノベーションのプロセス
  スタートアップ企業のイノベーション志向
  2つの「シュンペーター仮説」
2 イノベーション活動における課題
  「知識生産」における課題
  特許取得の動機と課題
  イノベーション活動のための資金調達
  知的財産権取得の効果
  イノベーションを促進する環境
3 オープン・イノベーション
  オープン・イノベーションとは
  オープン・イノベーションにおける課題
コラム7─1 能力の高いアントレプレナーは研究開発資金の調達で苦労しないのか
コラム7─2 イノベーションの測定指標

第8章 企業の生存――退出は常にバッド・ニュースなのか
1 企業のライフサイクルと「退出」の重要性
  企業の退出が持つ意味
  ゾンビ企業と経済の不健全性
2 生存と退出のメカニズム
  最適規模の達成
  ポジショニング・ビューとリソース・ベースド・ビュー
  アントレプレナーによる学習
  ギャンブラーの破産理論
3 多様化する企業の退出経路
  倒産と自主廃業
  M&Aによる退出
4 企業の生存と退出の要因
  スタートアップ企業を取り巻く環境
  企業規模と企業年齢
  アントレプレナーの人的資本
  イノベーション
コラム8─1 将来のライバルの芽を摘む「キラー・アクイジション」はなぜ問題なのか
コラム8─2 事業の「やめやすさ」は「始めやすさ」と関係があるのか

第9章 企業の成長――高成長のための特効薬はあるのか
1 企業の成長プロセス
  高成長の頻度とプロセス
  スタートアップ企業の成長経路
2 企業成長の理論――ペンローズの成長理論とダイナミック・ケイパビリティ
  経済学のアプローチ
  企業成長のステージ・モデル
3 スタートアップ企業の成長要因
  企業規模
  企業年齢
  アントレプレナーの人的資本
  ベンチャー・キャピタル
  イノベーション
  企業成長の研究上の課題
コラム9─1 若いアントレプレナーこそが高成長企業の担い手なのか
コラム9─2 企業成長はどのように測定できるのか
コラム9─3 急激な成長は本当に良いことなのか

第10章 スタートアップの公的支援――創業に対する「介入」はなぜ必要なのか
1 公的支援の正当化
  新規性の不利益と経済活性化
  市場の失敗
2 公的支援の手段
  アントレプレナーシップ政策と中小企業政策
  公的支援における課題
  「出口」に向けた政策
  公的支援の施策のまとめ
3 日本における公的支援
  日本におけるアントレプレナーシップ政策
  日本における中小企業政策
4 公的支援の効果
  参入に関する規制緩和
  アントレプレナーシップ教育
  政府による資金援助
  「ソフトな支援」の効果
コラム10─1 大学発スタートアップを創出するには何をすべきか
コラム10─2 危機に際して政府は何ができるのか

付 録 「スタートアップの経済学」のための学習ガイド
1 最新トレンドのキャッチアップ
  「スタートアップ企業」のトレンド
  「スタートアップ企業研究」のトレンド
  世界の研究最前線のキャッチアップ
2 さらなる学習のためのテキスト紹介
  日本語文献ガイド
  英語文献ガイド
3 スタートアップ企業の「実証研究」の実践
  産業・地域レベルのデータ
  スタートアップ企業のデータ

各章のテーマと問い

第1章 スタートアップ

第2章 スタートアップの経済効果

第3章 スタートアップの個人要因

第4章 スタートアップの環境要因

第5章 創業時に直面する課題

第6章 組織と戦略のデザイン

第7章 イノベーション戦略

第8章 企業の生存

第9章 企業の成長

第10章 スタートアップの公的支援

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有斐閣書籍編集第2部
老舗の学術出版社で「法律書以外」の分野を担当する書籍編集部です。