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退職合意書の競合転職禁止が個々の労働者に与える影響 「転職弱者」ほど深刻な影響

私はnote、リンクトインおよびMyNewsJapanで、米系外資IT・セールスフォースの退職合意書を公開しました。

この退職合意書、ちょっと考えたら労働者側に一方的に不公平で憲法に定められた自由を抑圧する、とわかるものです。にもかかわらず、外資系で実績をあげたビジネスリーダーを名乗るXアカウントからは、「外資では普通」「特に厳しい内容ではない」という意見が出ていました。

意識的にせよ無意識にせよ、「自分たちはJTCと違う」「我々こそグローバルスタンダードを知っている」かのように振る舞う自称グローバルビジネスパーソンですが、彼らの人権意識は一体、何なんでしょうか。

問題となる条項はいくつもありますが、今回は「競合転職禁止」を例にとります。

アメリカで独禁当局の連邦取引委員会(FTC)が、競業避止義務、つまり従業員が退職後に同業他社で働いたり起業したりすることを妨げる契約条件や条項を違法とする新ルールを決めたニュースが入ってきました(4月24日日経電子版)。経済界は反発とあり、予断を許さない状況ですが、アメリカ系企業の退職合意書の見直しにつながりそうな動きで、日本法人にも影響しそうです。

MyNewsJapanの記事では、Xさん(ベテランのハイクラス技術者)のように「サインせず、普通に退職届を出して辞めることもできるんですよ」というメッセージまで出せました。
「合意退職では、通常退職では得られない割増退職金やガーデンリーブが得られる」という意見も聞きます。確かにそれは得られなくなりますが、転職先や起業に制約がかからなくなるメリットが上回るのであれば、サインしないで辞めることもありだということです。

この退職合意書が、個々の労働者に与える影響を考えてみます。
会社の機密を扱うことが多い地位の人は、弁護士に相談しながら法的なリスクコントロールし、サインしない選択をして転職する可能性もあります。(Xさんがそうでした)
一方で、低い地位の人は会社の機密とは遠い存在であり、競合転職禁止は合理性はないとみられます。

転職市場で価値が高いとされる経験のある人であれば「転職先が決まってから辞める」ことがしやすいでしょう。(Xさんは転職活動の見通しが立ったので辞めた)
しかし、転職に困難を抱えやすい属性や、スキルや経験のない人の場合、突然会社を放り出されたら転職活動に時間がかかり、ますます不利な立場に追い込まれます。割増退職金やガーデンリーブでしのぐことを考えてやむなくサインしたり、そうなるとサインしたことで転職先を制限されたり、不慣れな異業種で条件を落としての再就職になる、という負のスパイラルが想像できます。彼らは弁護士に相談することにも慣れていなかったり、労組にもつながれないことさえあります。

セールスフォースの取材では、障害者雇用で働いていた人が不本意なリストラや雇い止めに遭ってポジションを失い(うち1人は裁判で和解)、転職先が見つからなかったり、再就職ができたとしても1年以上かかってしまったりするケースを見ました。またその補償も、ごくわずかな金額で口止めされ、泣き寝入りの実態があります。私自身、別の外資で不本意なロックアウト退職勧奨(雇い止め)に遭い、家族や福祉の援助を受けながら先の見えない生活をしてきた実体験から、フリージャーナリストとしてこうした問題に立ち上がりました。

セールスフォースの退職合意書は、アメリカの基準が日本に持ち込まれた形ですが、「転職弱者」の存在を想定しないことが、こうした退職合意書を可能にしてしまうのかと危惧しています。

セールスフォースの退職合意書全文
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