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「航海の時代〜新航路開拓〜」開発記録

この記事について

 この記事は「Board Game Design Advent Calendar 2021」(https://adventar.org/calendars/6659)の19日目の記事として製作されました。今年はこのゲームマーケット秋にサークルの新作として頒布しました、中量級紙ペン「航海の時代〜新航路開拓〜」の開発記録という形で記事にしようと思い書いております。こんな記録がなんの為になるかはわかりませんが、ゲームが出来るまでの変遷をお楽しみ頂ければと思います。「航海の時代〜新航路開拓〜」に関してはこちらのページで確認してください。

サークルA.I.Lab.遊について

改めて、A.I.Lab.遊というサークルの紹介からさせて頂きます。私達は元々デジタルゲームを作るサークルとして私が大学時代に今のメンバーと始めたサークルです。
現在は主に4名でゲーム制作を行っており、2015年春のゲームマーケット大阪で「航海の時代」を出したのがゲームマーケットデビューになります。その後ゲームマーケットでは「きの×たけ」「航海の時代 王家の書簡」「狩猟の時代」「ピタッとピクチャ」「狩猟の時代 〜大河の恵み〜」「行商の時代」「ナワバリ」「ニュースの時間です(共作)」「行商の時代〜商会連盟〜」「ニュースの時間ですP(共作)」「クイズ:ボブサーチ」「航海の時代〜新航路開拓〜」の13作品(拡張を含む)を作っています。振り返ると7年で13ゲームとなかなかのペースで作って来ています。

制作のきっかけ

「航海の時代〜新航路開拓〜」の開発のきっかけはゲームマーケット2021春後、開発仲間のゲーム会でOKAZU brandさんの「横濱紳商伝 ロール&ライト」を遊んだのがキッカケです。すぐに自分でも購入しサークルメンバーとも遊びました。
 それまで「紙ペンゲーム」といえば同じOKAZU brandさんの「メトロックス」や「Qwixx」「ガンツ・シェーン・クレバー」など、カードやダイスにより数字を決めて埋めていくゲームかフダコマゲームズさんの「アルヴィウム」や「カートグラファー」の様に図形を埋める形のものはやっていましたが、そういったイメージでした。「トロワダイス」のように中量級?っぽい紙ペンゲームもやってましたが、所謂、ユーロゲームのようなリソースをこねこねしたり、拡大再生産したりするゲームが「紙ペン」で出来るんだー。というのが発見でした。横濱紳商伝という重量級のゲームをうまく紙ペンゲームに落とし込んだ凄いゲームだと思いました。
折しも、サークル内では昨年からずっと開発を進めて来た「完全非対称マルチゲーム」が暗礁にのりあげてしまっていた状態で、ゲームマーケット秋向けのゲームどうしようかな・・・って状態でした。
 そこで直ぐに自分のサークルの代表作である「航海の時代」を紙ペンゲームにしたらどんなゲームになるだろう・・・と考え、作り始めたのが「航海の時代〜新航路開拓〜」の開発を始めたキッカケです。

開発取り掛かり(一番最初の構想)

「航海の時代」がどんなゲームか知らない方はこちらを御覧ください。
いろんな港町が周回的に配置されており、その港町をロンデル的に周回を行い収入を得てその資源で投資を行う拡大再生産+エリアマジョリティのゲームです。この「航海の時代」は「王家の書簡」という拡張も出していますし、アークライト様から『遥かなる喜望峰』というタイトルで商業出版もされています。こういった拡張を含めて考えるなかで前々から、どんどん未知の海域を冒険する要素は入れられないかと考えていました。
ですので、紙ペン「航海の時代」では是非、冒険航海の要素を入れたい!という思いが強くありました。
私がゲームを考える時にまずメモを作るんですが、そのメモがこんな形で残っています。

航海の時代テーマ
新大陸発見
拡大再生産
マジョリティ
株
リソース管理

紙ペンなので同時処理
ただし、中間点でのマジョリティ報告あり。
その段階で株価変動と配当金あり

大体この程度からスタートです。
次にゲームの流れを考えて、ターン内での処理を記載します。

【ターンの流れ】
▶冒険パート
▶交易パート
▶投資パート
▶決算パート(4回に1回)
   
 全16ターン行います。
 
【冒険パート】
<新エリア開拓> 
親プレイヤーから順番にどのエリアにつながる航路を開拓するかを決める。参加しなくても良い。
先に選択したプレイヤーがリーダー
新規エリア開拓のコストを仕払う
参加者全員が6Dを振るか保有しているダイスを出す。
探索エリアの合計が6になれば開拓成功。航路の先が既に発見されているエリアの場合は3で成功となります。
※失敗した場合、ダイスをそのまま保有し、次の機会に使う事が可能です。(ダイスMAX3個)
成功した場合で未開エリアの場合、カードを表にして初期ボーナスを受け取る。
一人の場合と複数人の場合で違いあり。
参加した開拓航路を利用可能航路にします。

【交易パート】
開拓した交易航路を使用して交易を行います。1ターンで行える交易は基本的に1回のみです。
交易航路の交易は必ず順番に処理を行って下さい。
取得した資源、消費した資源を紙に書き込みます。
作った交易路にマークを入れて下さい。

【投資パート】
投資パートは3つ投資ができます。
▶航路開拓 既に発見されている航路を使って交易路を開拓します。
最大5エリアまでの交易路を作る事が可能です。
歩数に応じてコストが掛かります。
航路表に作成します。
次回から使う事ができます。
航路の最大数には制限があります。

▶エリアへの投資
発見されているエリアへの投資を行います。
エリアカードにかかれているコストを仕払を行い。エリア影響力を上げます。
航路を開拓していないエリアにも投資することが可能です。
交易時に報酬が増えるエリアがあります。
特殊能力がつくエリアがあります。
最大3回まで

▶株式投資
縦・横の株式投資を行えます。
決算に関係あります。
最大4回まで
株式投資を行った場合投資マーカーを該当の箇所にチップを置きます。
 
 
【決算パート】	※4ターンに1回決算パートを行います。
エリア投資数によるマジョリティ得点 
           縦エリア・横エリアの順番に投資数を報告します。具体的な島名までは不要です。
           投資順位による点数を獲得します。
株式投資分の配当分配
           該当エリアに投資された株購入カウンターを分けます。
           一位の人が総取り、同点の端数切捨てで分けます。[要検討]

かなり具体的に書いてます。(今見返すと?の内容とかありますが・・・)
そしてマップ案として下図を書いてます。(その他6種類ぐらい記載あり)

モックのMAPメモ

細かいところは置いておいて、だいたいこんな感じでモリモリに盛り込んでいる感じです。これを元に最初のバージョンを作成しました。

最初のバージョン

上記のメモを元に最初のバージョン(プロトタイプ)のモックを作りました。最初の回しは基本的に身内のゲーム会で行う事が殆どですが、今回はタイミング的にフダコマゲームズさんの家でのゲーム会に持ち込んだのが最初でした。
作ったモックが以下になります。

個人シート(1stバージョン)
港カード1stバージョン(一部抜粋)

最終形をプレイされていない方も多いと思いますが全く違う形です。
初期の構想では、まず25枚のカードで最初から世界を作ってしまいます。
中心に母港となる①のカードを配置し、その周りに②〜⑤の既に発見されている港カードを配置します。このマップを作り、残りの港はランダムで裏向きに配置して世界を作っておくという方式でした。
【冒険パート】
冒険パートでは、冒険に参加するプレイヤーはコストを払い、親から順番にどの未知のエリアを開拓するかを選択し、全員6Dを振り同じエリアに参加した人の出目の合計が6になったら新規港の発見が出来たという事で裏向きのカードを表にし、港発見した人は発見ボーナスを獲得(1人か複数かで異なる)し、個人シートに港の番号を書き込むというルールでした。6に満たない場合は、ダイスストックエリアにその数値を記入し経験値として次回以降の冒険で数値に足せるという形です。
【交易パート】
交易パートは、個人シート右上にある交易路(航路設計された航路)の中でどれかを使うという形でした。初期からある①→③を使うなら、①の港の効果と③の港の効果を得られるイメージで、お金1と果実2個を貰えるという事になります。航路には使える回数が決まっていて各航路3回まででした。
【投資パート】
投資は3種類あって、航路開拓すなわち交易路に対する投資。港に対する投資。そして縦・横エリアの株を購入。交易路への投資は「交易パート」で使っている交易路を新たに発見した港を含めて新しくつなぎ収入を強化する事が出来るルールでした(※このルールは結構最後まで残ります)
港への投資は港カード強化する投資で港カードの効果を単純に強化する行動となり(例えば、③の港に投資すると、1回の寄港で果実を3個もらえるようになる)また、港への投資はそのエリアの株式の価値を上げる事になり、縦横の決算時に得られる点数を上げる事を想定していました。
株の購入は、決算毎に港の投資数に応じてマジョリティで点数を獲得するという物でした。この段階では港毎には点数がなくこのマジョリティ争いで点数が決まる方法を採用してみました。

最初のプレイ
最初のプレイ、全16ターンの設計でしたが4ラウンドで打ち切りました。
最初はまあそんな形になることも多いです。
まず。ゲームのテンポが悪いです。ダイスを使った冒険も運の要素が強かったり、全然進まない感が強くこれはない、となりました。また、フダコマさんから紙ペンゲームの良さとして、マップが全員同じじゃなくて変わった方が良いのでは?という意見も貰いました。これは私が設定した世界観とは異なりましたが、紙ペンという良さをより出せそうと判断し以降採用していく事になりました。

第2形態

1回目のプレイでの反省を生かして、直ぐに次のテストバージョンを作成しました。大きく変更させたのは、カードを並べてマップを作ってからプレイするのを廃止し、山札としました。株によるエリアマジョリティもやめ、エリア毎のビンゴボーナスをつくってみました。

マップ変更

ただ、これだと、マップの港カードをそれぞれの為に場に出し続けないと数字だけではわからない。そもそもかなるプレイしずらいという事で
直ぐに変更。そして出来たのが2ndバージョンとなるこのバージョンであります。

個人シート(2ndバージョン)

マップ上に自分の選択した港の能力を書き込むようにしました。この様に記録することでそれぞれが自分だけのマップを作成する事が可能になりました。(初期状態でAの母港とB/C/D/Eの既知の港をAの周りに配置)交易航路は各3回から、初期に設定されている航路は利用回数を2回だけに絞り、その航路を使い切った場合、5行目以降が使えるようにロックが解除されていくという仕様。ラウンドは全12ラウンドに減らしました。また、港マップを作っていく上でバリエーションを出すために資源の種類を増やした方がよいかと考えて、砂糖という第4の資源を導入しました。
自分で回して問題なさそうだったので、アイラボ身内のテストで初回プレイに臨みました。
●身内テストプレイ
身内テストプレイ会は大体4人のメンバーで新規ゲームのテストを行います。それぞれ好みも、もちろん違うこともあり色々意見が出ます。全体の感触は悪くないかったのですが、この段階でプレイ時間が約1時間。私的にはありかなーという感覚だったのですが、もっと簡略化した方がいいのでは?という意見がかなりありました。もう一つメモが大変だーという問題が出ました。発見した港の能力を自分の用紙に書き込むのでそれはそうですが、これはきれいに書ける人とそうでない人の差が如実にあるのが分かりました。

●名古屋テストプレイ会
身内のテストで概ね行けそうかなというのもあり、月一で行われている名古屋テストプレイ会に初めて持ち込みました。個人シートを見やすく変更して最初のプレイです。A.I.Lab.遊の作品は昔は身内だけのテストしか殆どしていなかったのですが、名古屋テストプレイ会が出来てからは外部の有識者のご意見が頂けれる機会が増え本当にありがたいです。

個人シート(2ndバージョン見やすく変更)

名古屋テストプレイ会でのプレイを経て、概ね高評価だったこともありゲームマーケット秋はこれで行こうと決定しました。ただ、バランス調整ははっきりとまだまだだったので、そこの積み上げかなーと思っていました。また、時間的にもちょっと長すぎる問題。加えて航路設計が難しいか若しくは最強の航路を作成しそれだけを繰り返せばいいのでは?という課題が残りました。

第3形態

このタイミングではメンバーから別案も色々出てきてこちらも合わせてプレイを行いました。その中の一つが後ほど追記のある派生版「紙ペン航海の時代」になります。これも面白いことです。この別案提案の中でゲームをより簡易的にするアイデアとして、航路設計を廃止して、今の場所という概念をいれ、毎ラウンドどの様に進むかという計画を立てて収入を得るという方法です。私的には航路設計をしてそれを使うのが最初のアイデアでこの部分はいいと思っていたのですが、こちらの方が明らかにゲームの簡略化が出来るというのはありました。それを試すべく次のバージョンをつくりました。

個人シート(3rdバージョン初期)

最終バージョンで採用させている形になりました。まだ迷いはありましたが、この形の方がより直感的であるという思いもありました。もう一つ投資で能力が増強されるやり方も考える必要がありました。これはよりゲームが難しくなります。第3形態はとにかくなるべく簡略化させようと港への投資のあり方も変更しました。

個人シート(3rdバージョン後期)

投資効果が最終バージョンの様に毎ラウンド貰える追加収入という形になりました。これは、収入の選択という副次的なジレンマも生むことになりました。ゲームの難易度を下げる調整を行って好みを分かれるのですが、時間的には30〜45分に収まるゲームになって来ました。また、この段階では港発見時などにあった他にプレイヤーとのインタラクションも完全に廃止し、ソロプレイでも複数人でのプレイでも全く変わらなくなりました。これが良かったのかは好みにもよりますが、ソロでプレイ出来るゲームはサークル初なのもありそういった意味でもサークル初挑戦になりました。ソロで出来るというのは調整がやりやすいというメリットがあります。なにせ自分だけでプレイできるのですから!
※ついでに資源数を4種類から3種類に減らしました。これは驚くほどプレイ感に変化がなかったです。調整の幅が減るかもと思いましたが、問題はありませんでした。

シールの導入

ゲームは完成にかなり近づいて来ましたが、大きな問題ありました。
手書きで港の情報を書き込むのが煩雑かつ丁寧に書ける人ならばいいけど人によってはなんだかわからなくなってしまうという問題です。

個人シートテストプレイ

上記の例はかなりきれいな例ですが、もっとグチャグチャになってしまったりしている場合もありました。この問題の解決は唐突に出てきました。うちの奥さんがシールでやったらどうだ!というアイデアを出してきました。価格的な不安がありましたが、ざっくり調べると一人辺り15円以内に収まりそう・・・ちょっと贅沢かもと思いながらも即採用。テスト版を作って見ることにしました。ちょうど個人で26mm平方のサイズのステッカー・シールを印刷できる紙がありそれを注文し印刷してみました。

さーっとつくて見たのがこのような形です。凄く良さそう。
実際に使ってプレイしてみると分かりやすくしかも、プレイ後の形も理想的になりました。

紙ペンゲーム

シールを使うことにした事で逆の問題も出ました。結局「紙ペン」ゲームである必要あるの?って問題です。シールっじゃなくてタイルにしても良かったのでは?という話です。確かにシールを人数分のタイルにして個人ボードに配置する形でこのゲームを作っても出来るとは思えました。(計算コストはおそらくそんなに変わらないのではという判断でした)ただ、今回紙ペンゲームをつくってみたり色々な紙ペンゲームをやってみるなかでその良さはゲームの記録がしっかりと残る事にあるのではないかと思いました。もちろん写真でも記録は残せますが、ゲームが終わった後自分の世界と人の世界を見比べて感想戦を行うのも楽しいものじゃないかなぁと思いました。そして、その記録は箱の中に残り、次ゲームやる時にも利用でき、思い出となります。確かに紙やシールを消耗するとデメリットはありますが、それを埋める体験がつくれるのではと思い今回は紙ペンゲームのまま仕上げる決断をしました。シールを貼るって体験自体が楽しいってのもあると思いましたし!

派生版「紙ペン航海の時代」

今回、紙ペン「航海の時代」を作る上でもっと簡単な所謂図形を組み合わせる系のゲームにするというアイデアも出ました、そのゲームは結局採用しませんでしたが、巡り巡ってゲームストア・バネスト様で秋におまけゲームとして頒布した「ばねこはじめてのゲームマーケットの巻」に引き継がれております。

おわりに

今回は、A.I.Lab.遊の「航海の時代〜新航路開拓〜」が出来るまでの変遷をざっくりと紹介しました。急いで書いた部分もあり意味不明の内容とかもあるかもしれません。また、省略した部分もかなりあります。長々と書きましたが、誰の為になるか分かりませんが開発の記録として2021年のアドベントカレンダーとして書きました。ここまで読んで頂きありがとうございます。今度はもっと本格的にデザイナーズノートみたいにまとめられれば格好いいんですがー。

●開発の足跡
紙ペンゲームということもありテストプレイも含めて記録が大量に残っています。これらの変遷はすべていい思い出です。

テストプレイの記録を貯めたファイル

A.I.Lab.遊として初めての挑戦を色々しましたが、この工程が楽しいのでゲーム制作はやめられません。

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