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ロボットに心は持てるか?

ドラえもんは22世紀から来た、ネコ型ロボット。
ロボットなのに、人間と同じような「心」を持っているみたいですよね。
時には、怒りを爆発させるし、涙も流す、大笑いする。
何より、面白いのは恐怖の感情を持ってること。
ネズミを見ると、パニックになる姿は、とてもロボットには見えませんね。

では、実際にドラえもんみたいにロボットに「心」を持たせることは可能なんでしょうか?

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脳とは何か?

「ロボットに心を持たせる」と言いましたが、
そもそも「心」と言うのは、何なんでしょうね?

心は、脳が生み出す感情です。
なので、脳のメカニズムを知れば、心の正体が見えてくるかもしれません

脳と言うの、ザックリ言うと情報伝達システムで、
体から送られた感覚的な情報を処理していく機能ですね。

僕たちの大脳には160億ものニューロン(神経細胞)が巨大なネットワークを作っていて、並列的な情報処理を行っています
ニューロンはヒトデのような形をした細胞で、先の樹状突起で情報のやり取りをしていますが、
そこには数千カ所のシナプス(ニューロン同士の接合部)があるので、
情報のやり取りは100兆もの場所で行われているんですね。

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そのうえ、ニューロンには興奮性ニューロンや抑制性ニューロンなどの役割があって、その種類は1000種類も!
脳はこのような巨大なスケールで情報処理を行ってるけど、
さらにそこでは多種多様なニューロンがグループを作ってそのグループ同士でも、情報交換が行われる多層構造になっています

難しい説明で混乱されると思いますが、それだけ複雑な構造だというわけですね。
僕は、この構造をSNSだとイメージしています。

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世界では、様々なSNSがありますよね。
ツイッターやフェイスブック、インスタグラムにライン、日本ではあなmり馴染みがないけどスナップショット、ウィーチャットといったものも人気です。
ここでは毎日世界中の人々が情報のやり取りをしています
ある人はツイッターで送った内容を、フェイスブックでも共有してるかもしれません。
またその情報が拡散されて、日本からインドへ発信されたり、オーストラリアに転送されたり。
こういう複雑な情報のやり取りが常に行われていますね。
脳内も、このような構造になっていて、常に何億何兆もの情報のやり取りが行われています

そもそも脳というのは何のためにあるのでしょうか?
簡単に言うと、シミュレーションを行うためです。
あなたの脳はいつも複雑な情報をやり取りしていますが、多くはシミュレーションに費やされています。
例えば
「あの時、こうしてたらどうなってただろうか?」
「あの人はどうしていつも不機嫌なんだ?」
「今夜の夕飯のおかずは何がいいかな?」
「もし、事故に遭って家族はどうなるのか?」など。
僕たちが考えるほとんどが「~だったら」「~してれば」といった
「予想」や「予測」なんですよね。

全ての動物は「食料を得ること」「自分の命を守ること」「交尾すること」を重視して進化しました。
捕食者の場合は、獲物が次にどんな動きをするのか予想しないと獲物を確保できません
食べられる側も、命を守るために捕食者の動きを予測しないといけません。
そして、交尾をするためには相手の気持ちを予測しなければなりません。
オスの場合は、メスを手に入れるためのケンカがあるので、こちらも正しい未来予測ができた方が有利ですね。
特に人間は、高度な社会的な動物で、相手の心を察して、より正確な未来を予測するよう進化しました。
なので、常に「こうだったら~」「ああしていれば~」と考えているんですね。

1953年、フランシス・クリックはジェームズ・ワトソンと共に、DNAの二重らせんを発見し、1962年、その功績を称えられノーベル医学賞を受賞しました。
彼はその後、脳科学に転向し、1994年に脳科学の研究成果を「驚異の仮説」という本にまとめました。
それによると、
ニューロンの仕組みはほぼ完全に解明されていて
それは電気信号と化学反応による情報伝達の仕組み、つまり配線ということです。
これは単なる物理現象なのでエントロピー増大の法則やエネルギー保存の法則など、物理法則に従います

脳というのが、未来予測のために存在していて、構造が物理法則によってできているのなら、人工的に作ることができそうです。
ただ、人工的に脳を作ったとして、本当にそこに意識は宿るんでしょうか?

クオリア

脳がなぜ未来予想をするのかと言えば、自分と自分の遺伝子を守るためです。
でも、人工的な脳は死を理解できません
死だけじゃなく、痛みや苦しみ、快楽もわかりません。
つまり、未来を予測できる人工脳を作ったとしても、その機械はなぜ未来を予測しなければ分からないままです。

もし、ドラえもんの脳がここまでだったら、がっかりですよね?
のび太君を幸せにするために未来から来たのに、、
幸せの意味がわからないので、ただインプットされた通りの言葉を発しているだけになってしまうので。

もし、ドラえもんの脳に意識を持たせるとしたら「クオリア」を持たせる必要があります。
クオリアと言うのは、脳が感じる「質感」のようなものですね。
朝、カーテンを開けたとき朝日がサァーっと入ってきてすがすがしい気持ちになるのは、
脳がすがすがしさという「質」を感じているからです。

痛みを感じるのもクオリアのせい
ロボットは痛みを感じませんが、ダメージを受けると壊れるという予測はできるでしょう。
なので、ダメージを避けるため、痛そうなものを認識して近寄らないようになります
でも、人間は痛そうなものを見ると、背筋が凍ったり、あまりにもグロテスクだったら吐き気を催します
ロボットのように「痛そう→壊れるかも→避ける」という単純なインプットだったら、「吐く」ことはありません。
漏れ出るうめき声。ドロドロ流れるまっかな血
脳はこの声の質や血の色から、強烈な印象を察知して、それを強い「不快」という感覚と結びつけます。
だから、自律神経を乱して、吐き気を促すんですね。

ゾンビになった人

このように、クオリア視覚や嗅覚などから受け取った情報に意味を見出し、感情へ変えていきます
僕たちが親しい人に対して、安心や愛情を感じられるのもクオリアのおかげです。

交通事故によって脳を損傷し、クオリアを失ってしまったアーサーと言う青年。
リハビリによって正常に戻ったんですが、クオリアを失った彼はこんなことを言いだしました。
「僕の両親は偽物だ」

この症状はカプグラ症候群というもので、精神病患者にも生じますが、三分の一が脳の外傷性障害によるものです。
脳では認識に関する領域情動(感情)に関する領域に分かれてます。
正常な場合、側頭葉にある認識領域から辺縁系へ情報が送られて、特定の顔に対する情動的な反応を促します
しかし、この二つを結ぶ経路が切断されると
家族や友人の顔は認識できるんですが、その顔に対して安心や暖かさなどを感じられなくなってしまうんです。

なので、アーサーは両親の顔を見てもそっくりな他人だと判断して、偽物だと言ったんですね。

カプグラ症候群よりももっとひどいケースがあります。
それは、自分のことを死人=ゾンビだと思い込んでしまうケースで、コタール症候群と呼ばれます。

「自分もう死んでいる。自分の体から腐敗したにおいがする」
コタール症候群になると、患者はこう言い張ります。
そこで医師が、
「死人には血は出ないよ」
と言ったうえで、患者の腕に針を刺して血が流れるところを見せます。
これで患者は納得すると思いきや、
「死んでも血が流れることがある」
と言い張り、どんな証拠を出しても「自分は死んでる」と言う主張は変わりませんでした

このコタール症候群も、脳への外傷性障害によって認識と情動を遮断されたからだと考えられます。
つまり、クオリアを失うと、まれに「生きている」という実感まで失ってしまうんですね。

なぜクオリアが生じるか

脳の構造の調査や再現も進んでいるけど、クオリアがどういった経緯で生じるのかは、まだ分かっていません
でも、仮説なら存在してます

さっきも書きましたが、脳の構造はとっても複雑です。
しかし、脳のネットワークは典型的な自己組織化する複雑系で、意識はこの複雑性から創造しているという説です。

「自己組織化する複雑系」と言うのは、ブロッコリーのようのもので、
「ブロッコリー全体」と「ブロッコリーひと房」を見比べると、両方そっくりな構造になってます。
脳のネットワークも、同じように全体の情報網と一部の情報網の構造は同じようにできています

同じような形が連なりループしているような構造ですが、
大脳だけでも160億のニューロンがあって、100兆もの場所で情報のやり取りをしています。
あらゆる情報がこの複雑な構造を駆け巡る過程で、
クオリアなどの意識が築かれていく
、と言うことですね。

イタリアの脳科学者、マルチェッロ・マッスィミーニとジュリオ・トノーニは、
意識が成立するには、データ量だけじゃなく、それがどのように統合されているのかが重要だと考えています。

小脳には、大脳を上回る800億ものニューロンが集まってるけど、意識には関係していません。
小脳を摘出しても、運動機能に障害が生じるけど、意識は正常なままなので。
これは、小脳のニューロンは入力された刺激に素早く反応するために、
独立したモジュール(ひとつのまとまり)になっていて統合されてないからです。
それに対して大脳では緊密にネットワークでつながれている(統合されてる)ので、わずかな刺激でも様々なところで、多様な反応が起こります

コンピューターが高度になっていっても、意識を持たないのは、
プログラムが保存された順番で処理され(逐次処理と言う)され、全体が統合されていないから
それに対して動物がわずかなデータ量でも意識を持っているのは、ネットワークが統合されているからです。
そのネットワークの複雑さによって意識の高度さが変わっていくんですね。

意識を持たせる意味

この仮説によると、ロボットに意識を持たせるには、めちゃくちゃ複雑なネットワークを持たせる必要があるのかもしれません。
でも、そもそも僕たちはなぜロボットに意識を持たせたいと思うんでしょうね?

たぶん意識を持ったロボットは、意識のないロボットより性能が劣ります
なぜなら、感情は合理的な処理を邪魔するものだからですね。
ハイリスクハイリターンなギャンブルは、損をする可能性がものすごく高いです。
合理的なロボットだと、絶対にそんな賭けはしません
でも、人間がそれに挑戦したくなるのは、感情を持ってるからですね。
小さなギャンブルで勝った時の興奮や、もしかしたら、という感情が高まるので、ハイリスクでも賭けに出てしまう。
もし、ロボットが感情を持ったら、人間と同じようにハイリスクなギャンブルに挑むかもしれません

そうなると、もう何のためのロボットか分かりませんよね
ロボットの本来の目的は、感情に流されずに利益獲得を実行することなので。

そうは言っても、合理的だけのロボットじゃつまらない
ドラえもんのような感情をもったロボットと友達になりたい。
そう思ってしまうのは、僕たちの脳が思った以上に複雑な構造をしているからでしょうね

参考
「読まなくていい本」の読書案内  橘玲

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