刻のむこう 28

   21

 それから一時間と経たず、隆太郎は晴楼の指名を受けた男達五名と合流していた。二台のセダンに分乗してやってきた男達に、隆太郎は目礼する。そして電話口で晴楼にしたのと同じ説明をはじめた。
「忙しい中ありがとう。急遽、保護しなきゃならない子がいるんでその為に来てもらったんだ」
 隆太郎の言葉に、一人が声を挟んだ。
「詳しくは当主殿から聞いている。事態はあまり時間的余裕がなさそうだ。すぐに発とう」
「ありがとう。じゃ、行きますかっ」
 男の言葉に笑い返し、隆太郎はそれぞれのセダンのドライバーに一枚の地図を渡した。それはバイクを届けてくれた男の自宅で書き出したものだ。
「行き先はこの場所。多分、行けば何かしら感じるものがあると思うから。俺の乗せてもらう方の車が先導するから、ちゃんとついてきてね」
 告げ、隆太郎はすぐにセダンに足を向けた。歩み寄りリアのドアを開けると、そこに晴楼の姿があった。
「は………ッッ!」
 いつもの様に呼び掛け、隆太郎は慌てて言葉を飲み込んだ。
「当主殿! 何でここにッ?」
 言葉を選び直し、隆太郎は車の外へ晴楼を連れ出した。後へ回る。他の男達がそれぞれ車に乗り込むのを確認し、声を潜めながら焦ったように晴楼に言葉を投げる。
「なにしてんのッ? 駄目じゃん、晴さんがこんなとこまで来ちゃ!」
「私も連れて行け!」
 隆太郎の言葉に、晴楼は真っ直ぐに視線を返し言い切った。その目には居ても立ってもいられない衝動が映り込んでいる。
「連れて行けって。晴さんは屋敷で待っててくれなきゃ………」
 焦りを目に映す晴楼に、宥める口調で隆太郎が言葉を落とすがそれを遮り晴楼は強くかぶりを振った。
「私だけ待てというのかッッッ? 私だけあの場所で………。あの時のようにッッ?」
 言葉を投げつけながら、理屈ではない恐怖に押し潰されそうな目で隆太郎を睨み上げ、晴楼は隆太郎の袖を掴む。晴楼の言葉に隆太郎は短い沈黙を挟み小さく溜息を落とした。ふっと小さく笑みを漏らし、晴楼に向かって手を差し伸べた。
「そんな事言われたら、置いてけないじゃん。その代わり、俺と同じ車ね?」
 隆太郎の言葉に頷き返し、晴楼は差し出された手を取る。踵を返し、小走りに車へと向かうとリアシートに一緒に収まる。
「出発しよ!」
 隆太郎の言葉を機に、二台のセダンは揃って走り出した。

   22

 夜の比較的空いた道を、二台のセダンが目的地に向かって走り続ける。長くも短くも感じられる時間を、ただ黙って過ごしていた晴楼は、痛い程の苦しさに軽く胸を押さえた。
(この辺り、だな………)
 胸中に確認し、隆太郎に小さく視線を投げれば似たような色をその目に映し前方を厳しい表情で睨む隆太郎がいた。彼もまた晴楼と同じように感じているのだろう。いや、隆太郎の方が明瞭な映像として何かを視ていたのかもしれない。
 小さく息を吐き、晴楼は次第に速度を落としていくセダンに気持ちを切り替えた。
「この先でしたな? 巫殿」
 助手席に納まっていた男がシート越しに隆太郎を振り返る。それに無言のまま頷き返し隆太郎は僅かに背を浮かせた。
「次の角、右に入った所に空き地があるはず。そこに車停めて行こう」
 短く言葉を投げ、隆太郎は早々とシートベルトを外した。ゆっくりとセダンが停車する。後続のセダンが停車したのを確認し、申し合わせたようなタイミングで他の者が車外へ出る。それを確認し、漸く晴楼に視線を向け言葉を唇に乗せる。
「晴さんは中の様子が確認できるまで待っててね」
「わかった」
 頷き返し、晴楼もまたシートベルトを外した。晴楼が頷いたのを確認し隆太郎も男達の後を追う。その背を見送り、晴楼は僅かの苛立ちを覗かせた溜息を小さく落とした。

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