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帰路

満員電車に揺られながらの帰路はあまり好きじゃない。不安なことばっかりが頭に浮かんできてしまう。


厳格な父と見栄っ張りな母に抵抗することもなく、それ相応の大学に入り、それ相応の会社に入り、それ相応の上司に従う毎日。このままで本当にいいのか?このまま一生を誰かに従いながら終えていくのか?そんな不安がいやでも出て来てしまう。いけない、考えてはいけない、そう思いながら見上げた窓の外から見える家々の明かりを見ながら、一人。真っ暗な家に帰る。

なんとなく自立した方がいいだろうと思い、アパートを借りて両親とは離れて暮らしているけれど、部屋が真っ暗なのがこんなにも辛いとは思わなかった。他の色々なことには慣れたけど、未だにこれだけは慣れない。1DKの部屋には孤独が充満していて、息苦しい。大学の頃につるんでた奴はみんな結婚してしまった。「あとはお前だけだな」友人の最後の結婚式でのありきたりなセリフを言われたのが3年前。そいつにも子供が生まれて昨日がちょうど1歳の誕生日だったらしい。LINEで幸せそうな投稿をしていた。


何もしない何もしてない毎日なはずなのに深夜に飲む発泡酒のせいで、お金は全く貯まっていかない。このままで本当にいいのか?このままで本当にこのままで本当にこのままで本当に…

「次はーーーーーお出口は右側です。」ハッとして我にかえる。乗り過ごしてしまった。しかし、幸いにも乗り過ごしたのは一駅だし、なんとなくで借りたアパートの立地は最悪でほぼ駅と駅のほぼ真ん中にあったので、「時間もそんなにかからないから少し歩こう。」そんなことを考えながら、何事もなかったかのように無人の改札を通り、アプリに内蔵されているマップを頼りに自宅へ向かう。秋なのに頰をすり抜ける風は冷たかった。

別にこの道を始めて使うわけではないのだけれど、こうやって乗り過ごした時くらいしか使わないし、極度の方向音痴なので使わないととてもじゃないがたどり着くことができない。何回か頑張って覚えようと思ったこともあったが、街灯も少なくて目印になるものも無いし、そもそもマップが毎回、違う道を提示してくるので、毎回なんとなくでしか覚えられないのである。今もこの間は右に曲がった気がする十字路をマップのとおりに左に曲がる。自分は結局スマホにすら従う側なのかと思い自虐的に笑いながら歩みを進めた。


しばらく歩いただろうか。ふと、遠くの方に目をやると「pizza hut」と書かれた看板の店が目に入った。ピザなんてどれだけ食べてないだろう。確か、大学の時に下宿してた奴の家に集まって食べたのが最後だと思う。懐かしいな、チョットだけ食べたいな、まぁ最近コンビニ弁当しか食べてないし、たまの贅沢で食べてしまおうか、こうやって大きな独り言を呟く。どこかで自分が今、ピザを食べても良い理由を探しているのだ。そして私はカバンの中を弄って財布を探しながら、何を食べようかと様々な妄想を膨らます。しかし、それが叶うことは無かった。600円しか入っていない財布を片手に私はまた肩を落としながら帰路につく。



あぁ

ビザが食べたい



#ピザが食べたい

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