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ハンス・フォン・ゼークト

皆さまこんばんは、弓削彼方です。
今回は偉大なる軍人を一人紹介することで、軍事学の講座とさせて頂こうと思います。
その人物は「ハンス・フォン・ゼークト」と言う名のドイツの軍人です。
この記事では、ゼークト閣下と呼ばせて頂きます。

こちらは配信で詳しく解説しましたので、ぜひアーカイブをご覧頂きたいと思います。



■ゼークト閣下の経歴

それでは、ゼークト閣下の経歴を簡単にご紹介いたします。

ゼークト閣下は1866年にプロイセンで生まれました。
父親も軍人で、本人も軍人の道を進みました。
その後参謀本部に入り、第一次世界大戦では参謀として活躍し、大戦の後半には同盟国に出向して参謀長や参謀総長も務めました。

ドイツが大戦に敗北した後は、10万人に制限された軍であの手この手を尽くし、将来の再び拡大するであろう軍の中心となるべく将校を育て、次の時代に繋ぎました。

その後、短い期間ではありますがドイツの国会議員を務めたり、中国の軍事顧問などを務め、第二次世界大戦が始まる前には亡くなられました。
以上がゼークト閣下の大まかな人生の道のりです。

■10万人軍隊の育成

ゼークト閣下の偉大な功績は多々ありますが、今回は一つだけ、第一次世界大戦敗北後のドイツ軍を立て直し、それを次世代に引き継いだ部分に関してお話しようと思います。

ドイツは第一次世界大戦敗北後、ヴェルサイユ条約の中で軍備に関して大幅な制限を受けました。
特に大きかった部分は次の通りです。
・兵力は10万人以下
・参謀本部の廃止
・下士官や将校の人数制限
・事実上の戦車、航空機、化学兵器などの保有の禁止
・通常の銃火器や砲の厳しい保有制限

このような厳しい条件の中で、ゼークト閣下は将来のために主に三つの策を進め、この10万人軍隊を未来に託す軍隊の濃厚エキスに仕立て上げました。

1.参謀本部の偽装
参謀本部については参考記事をご覧頂くとして、ドイツにとって参謀本部とは軍の頭脳とも言える重要な部門でした。
これを封じられると、ドイツ軍の作戦の立案や軍の意志の統一に支障が出てしまいます。
そこで参謀本部を解散し、名前を「兵務局」と変えて再出発させました。
単純な手段ではありますが、そこまでしてでも参謀本部を途絶えさせてはいけないと言う閣下の強い意志を感じします。

■参謀本部についての参考記事

2.禁止兵器の開発
ドイツ国内で戦車などの禁止兵器を保有や製造をすれば、一発でばれてしまいます。
だからと言って次の時代に必要になるであろう、様々な新兵器の開発もせず、その兵器を運用するノウハウも無いのでは、次の戦争に勝つことはできません。
そこで閣下は、ドイツとソ連の間に結ばれたラパッロ条約に秘密協定を忍ばせ、ドイツ軍がソ連の将校を教育する代わりに、ソ連国内で禁止兵器の開発と訓練を行えるようにしました。
これでドイツ軍は新兵器の開発とその訓練を行い、次の戦争に備える事ができたのです。

3.二階級上の教育
ゼークト閣下が行った濃縮エキス化の最たるものがこれでした。
本来の階級より二階級上の教育を施すことにより、未来の将校を大幅に確保したのです。
大雑把に説明すると、10万人軍隊の兵士には下士官としての教育を行いました。
同じように下士官には尉官の、尉官には佐官の、佐官には将官の教育を行い、将来指揮する部下が一気に増えても任務を遂行できるようにしておいたのです。
そうすることで、将来戦争が始まって一気に兵士を補充した時でも、その兵士達を指揮する指揮官が確保でき、軍の急速な拡大に耐えられるようにしました

他にも様々な策を巡らせましたが、主なものは上記の通りです。
実際このおかげで、ドイツはヒトラーの再軍備宣言後に急速に軍を急速に拡大させることができました。
ゼークト閣下の将来への種蒔きが実った結果です。

■偽りの組織論

歴史や軍事に興味がある方なら、この言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?

「利口で勤勉な者は、参謀に適している。
 利口で怠慢な者は、指揮官に適している。
 愚鈍で怠慢な者は、命令を忠実に実行するのみの役職に適している。
 愚鈍で勤勉な者は、軍隊において重要してはならない」

中には「愚鈍で勤勉な者は殺してしまえ」と言うパターンもあるようですが、多少文言は違っても同じ意味のことを述べている文章です。
上記のものはゼークト閣下が述べた組織論であると言われています。

っが、これは真っ赤な嘘で誤った情報です。

ゼークト閣下は一言もこのようなことは言っていませんので、この機会に覚えて頂ければ幸いです。

上記のような趣旨の発言をしたのは、明確に別の者であると分かっています
世の中にはこの時代の小説や漫画などの創作物を描くときに、事実とは違ったことを付け足す人がいるので、誤った認識が広まったのはそのせいであり、許しがたいことだと思っています。
しかしながら、ある言葉をその時代の有名人や有力者の発言とすることで箔を付けたり、また長い歴史の中では悪意無く間違った情報が伝わることも多々あります。
皆さまもそう言う誤った情報に触れた時は、こっそりと自分の中の情報を正しいものに置き換えて下さい。

■まとめ

ゼークト閣下はドイツ軍を未来へ繋いだ反面、連合国側から見ればヴェルサイユ条約に反した極悪人とも言えるでしょう。
しかしながら国家の安全を保障するのは唯一その国の軍だけであり、その真髄を未来に引き継ごうした行為を咎めることは出来ないはずです。
ゼークト閣下は将来のドイツ軍の為に、種を撒きその成長を見守った偉大な人物と言えます。


ゼークト閣下は、私が心の師匠としている方です。
今日や明日ではなく、未来に向けて今から準備をする先見の明。
私もこの未来に目を向ける生き方を見習っていきたいと思っています。

非常に簡単ではありますが、ゼークト閣下のご紹介とさせて頂きます。
もし興味があれば、皆さまもゼークト閣下について調べてみてください。
それでは皆さま、お疲れさまでした。

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※記事中の「ドイツ軍」について
 厳密には時代によりプロイセン軍だったり共和国軍だったりしますが、分かりやすさを優先してドイツ軍で統一して標記しています。

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