空前の大ヒット作品「鬼滅の刃」その魅力の真相に迫る!
1,はじめに
まず僕自身のことについて話すと、高校2年生の時(2017年頃)からアニメが大好きで、いままでに素晴らしい作品に出会ってきました。個人としては、ライトノベル出身の異世界系や恋愛系、学園系、またジャンプやマガジン出身のバトル系、スポーツ系など結構幅広いジャンルの作品に興味があって、2021年現在までに100本以上の作品ははっきりと感想が言えるほどにはみてきたと思います。
その中で、2020年に入ったころから「鬼滅の刃」が僕の周りでも話題になり始め、私もそのタイミングで初めて今作を視聴しました。
アニメを見終えた上での当時の感想としては、確かにストーリーは普通に面白いのですが、正直作品として特に斬新なアイデアや要素はなく、なぜここまで人々を熱狂させ、爆発的なヒットを飛ばしているのか、理解に苦しみました。
そこで、「鬼滅の刃」大ヒットの背景には何らかのカラクリが、いや法則があるのではないか、と考えたわけです。
こうして「鬼滅の刃」という作品について調査していく中で、重大なことがわかりました。
そして結論から言うと、前述では秀でて目立つ要素はないと言っていましたが、実際「鬼滅の刃」はその素直さ(シンプルさ)に最大の魅力があるという答えを導きました。つまり「鬼滅の刃」は様々な漫画やアニメのテンプレートを組み合わせた、まさに王道中の王道作品といえるのです。
とはいえ、『鬼滅の刃』の爆発的な成功は、社会的要因と作品的要因の相互作用による奇跡的な産物であるともいえるでしょう。
そのため、先に社会的な要因に関する考察を述べた上で、作品的要因「シンプルさ」について論じてきたいと思います。
2,「鬼滅の刃」大ヒットの社会的背景
そもそも、「鬼滅の刃」は2019年4月のアニメ開始前から大成功を収めた人気作品だったと言えます。そうしてアニメ放送時からSNSで話題が沸騰し、主題歌「紅蓮華」はその年の紅白歌合戦で歌われるまでに。こうしてアニメ化から一定の大人気をキープしていきます。
そして最重要ともいえる社会的要因は、やはりcovid-19の拡大による社会的な自粛でしょう。covid-19の影響で個人の家にいる時間が長くなってきたことで、「有料の視聴サービス」が大々的に普及してきています。こうして自ずと普段自宅でアニメを見る機会の少ない人々がアニメに触れる機会が増えていきます。 こうして当然アニメ「鬼滅の刃」は放送終了後も人気を博していたこともあり、初心者にとっても敷居の低い作品として最初に視聴される対象となったのでしょう。
そして「鬼滅の刃」のシンプルさ、わかりやすさがそうした視聴者のニーズを捉え、SNSを通じてブームが爆発的に広がり、社会情勢やトレンド、漫画やアニメを見ない現代人のニーズと結びつき、途方もないヒット作となったと考察しています。
また、アニメ「鬼滅の刃」第1期が尾を引くような終わり方をしたことが、視聴者たちの「先が気になる」という好奇心を掴み、映画や単行本が爆発的なヒットを飛ばしたという見方もあります。
さらに単行本に関しては、当時書店側がこのような爆発的ヒットを予見していなかったこともあり、単行本は次々と完売。こうした完売の情報がSNSで話題となり、いっそう人々の購買意欲が高め、現在の書籍史上最大のヒット作につながったともいわれています。
「鬼滅の刃」大ヒットの具体的な軌跡は知りたい方は以下のサイトに、とても分かりやすくまとめられています。
3,「鬼滅の刃」におけるシンプルさとは?
僕が最も断言したいことは、「鬼滅の刃」という作品最大の魅力がそのシンプルさ(素直さ)にあるということです。
といっても「シンプルさ」という言葉が聞きなれないと思います。(自分自身も使い慣れません)
そこで、ここからは「鬼滅の刃」を「シンプルさ」という観点から項目ごとにひも解いていきたいと思います。
⑴世界観・設定
「鬼滅の刃」における物語の時代設定としては大正時代と言われていますが、イメージとしては人気作品「ゴールデンカムイ」や「るろうに剣心」と近いと思われます。一見、洋と和が混在する複雑な時代とも思えるのですが、ある意味で現代日本の和洋折衷に類似していて、それゆえにかえって受け入れやすい、わかりやすい時代設定と言えます。
さらに「鬼滅の刃」におけるカギともいえる「鬼」の存在。「鬼」や「妖怪」といった日本独自の異類は、古来から現代まで忌むべき存在として私たち日本人にとって実感はなくともかなり身近で、ある意味受け入れやすい存在です。それを裏付けるように「ゲゲゲの鬼太郎」や「妖怪人間ベム」、「妖怪ウォッチ」などのような「妖怪」をテーマにした作品は一時代を築くほどの大ヒットを記録していますね。また「鬼」が登場する作品は意外にも少ないのですが「約束のネバーランド」や「炎炎ノ消防隊」でも同様ですね。
そして触れておかなくてはいけないのは「ジョジョの奇妙の冒険」と類似した世界観。まず「鬼滅の刃」におけるラスボス鬼舞辻無惨という人物は、まさに「ジョジョの奇妙の冒険第三部」におけるDIOと酷似しています。両者はまず人間出身の吸血鬼であり、物語における全ての災害の根源として位置します。また自らは圧倒的な能力を持ちながらも敵の存在を常に警戒し、基本的に姿を隠して行動しています。そして物語の筋道としてどちらもこのラスボスの討伐を最終目標としています。
類似点だけに着目するなら、太陽の力を基にしたジョジョにおける「波紋」は「鬼滅の刃」における「日輪刀」「呼吸」の要素に非常に近いです。
⑵戦闘
「鬼」を討伐するには、基本的に「日輪刀で鬼の首を切断する」または「鬼を日光にさらす」という二つの方法しかありません。つまり鬼は日光に弱いという弱点のみしか持っていないと言えます。討伐方法が限られているからこそ、戦略がはっきりとしていて、わかりやすい。「首を切断する」という目的に向かって戦闘を描けばいいわけですから。
⑶対立構造・ヒエラルキー
「鬼滅の刃」における対立構造は基本的に「鬼」VS「鬼殺隊」という二項対立のみでかなりシンプルです。つまり基本的にはこの両者の間にそのほかの利害関係者は登場しません。またお互いにボスが存在しており、それぞれがある程度組織化されています。(この二項対立に第三者が少し登場するだけでも物語のバリエーションをかなり広げることができて、万能ともいえます。)
鬼サイドは、ラスボスである鬼舞辻無惨を筆頭に、「十二鬼月」という鬼の中でも上位のカテゴリーが存在し、それぞれに数字が小さいほどに実力・序列が高いというはっきりとしたヒエラルキーが存在します。
一方の鬼殺隊サイドは、鬼殺隊の中でも最上位9名の剣士が「柱」という称号を持っており、主人公集団以外に上位6体の鬼(上弦の月)と対等に戦うことは困難です。「柱」には実力による序列は存在していませんが、それぞれが異なる特性や長所を有しており、対峙する相手によって貢献度は変わり、二人以上の組み合わせによって攻撃のバリエーションやスタイルが変化します。
さらに、物語では、戦闘においては基本的に鬼の方が圧倒的に有利な立場にあり、力関係としても単体で戦った場合、鬼殺隊と「上弦の月」の方が実力が上です。
つまり、終盤になってくると、戦闘のパターンは単体の「上弦の月」VS「柱」1名以上+「柱」or主人公集団の誰かと定まってくるわけです。
⑷キャラクター
「『鬼滅の刃』は、なぜ流行ったのか?アンケート結果発表! 」を参考にするとわかる通り、鬼滅の刃最大の魅力として取り上げられるのは、その「キャラクター」にあると言われています。
この多様で個性豊かなキャラクターこそ、極めてシンプルである根拠です。個性の豊かさこそ、これまでの作品たちが作り上げてきたキャラクターであり、鬼滅の刃はそんなキャラクターを組み合わせたまさにテンプレートです。
例えば、水柱の冨岡義勇というキャラクター。彼は主人公を重大な局面でリードする重要な役目を果たす人物ですが「不器用で寡黙な剣士」という、いかにも僕たちが描く武士像を体現した要素を含んでいます。
炎柱の煉獄杏寿郎というキャラクター。彼は「鬼滅の刃」において「柱」という人間サイドの諸刃の剣が初めて戦死し「上弦の月」との力関係を明確に提示した重要人物ですが、「炎」のイメージを踏襲して「正義感が強く誠実な好青年」という、いうなれば球児でよく描かれるテンプレートが使われています。映画においては、そのキャラクター性ゆえに「有終の美」の演出が際立ち高い評価を得ました。
そして「鬼滅の刃」の主人公竈門炭治郎。このキャラクターはその能力や剣術以上に内面やセルフトークが印象的に表現されてます。内面としては禰豆子との絆、兄弟愛、また仲間への友愛や鬼に対する隣人愛といった、日本人が無意識に敬遠しがちな潜在意識をくすぐります。そしてセルフトークを駆使して自分との葛藤の中で着実に成長していく人物上は、まさに少年漫画の主人公らしい一面といえるでしょう。
そしてこれらキャラクターの多様性に、さらにアクセントをつけるのが過去編の存在でしょう。作中に「過去編」を挿入して読者、視聴者から共感を引く出す手法はテンプレートですが、「過去編」の代名詞ともいえる「ワンピース」と同等以上に敵味方を含めて過去の演出を多用している点は少しとがったポイントともいえます。
4,「鬼滅の刃」大ヒットから見えてくること
ここまで「鬼滅の刃」の大ヒットの背景とその魅力を考察してきましたが、そこから見えてきたことは、現代の日本人は、やはり「テンプレート」「王道」が何より好きであるということでした。一見社会が複雑化して王道から外れた路線に流行が向かった時代もありましたが、現在においては少なくとも漫画・アニメ界においては「テンプレート」「王道」に回帰する動きが進んでいる傾向があることがわかります。つまりは、僕たち現代人は複雑なことを理解する一方で、視聴物に対してはある程度単純でわかりやすいものを望んでいるという傾向が見えてきました。
5,おわりに
誤解のないように繰り返しますが「鬼滅の刃」は非常に素晴らしい作品であることに間違いありません。他作品の要素を真似することは常套手段であり、様々な王道を組み合わせることは立派な技術です。設定の飛躍やグロテスクさなどの弱点を抱えながらも、このある意味、単純明快なスタイルを貫き通すことで見事にカバーされています。
「鬼滅の刃」大ヒットの背景にはcovid-19拡大という極めて特殊な社会的要因と、その状況に順応した作品的個性が深く関わっていることがわかってきました。
「鬼滅の刃」という作品自体は完結しましたが、必ずアニメ第二期、もしくは続編映画は3年以内に放送されることでしょう。
「鬼滅の刃」の今後に期待しています。
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