【君もまた、青春】第二十一話「私は、青春を間違えていたかもしれない」
第二十一話「私は、青春を間違えていたかもしれない」
午後も私はずっーともやもやしていた。
読者には伝わりにくいかな~こういう複雑だけど察してください的な気持ち。つか「読者」とか意識してる時点でこの物語が余計にややこしいことになっちゃうからメタ設定持ち出すのは今回限りにしないとね! てへぇ! なんちゃって!
その日ももちろん文化祭の時間はやってきた。私はなんとなく建前上、生徒会室へ急いで向かうふりをしながら一旦教室を離れる。そして当然のごとく「今日はクラスの方へ行きなさい、命令よ」って普通に会長に言われて渋々戻ってきた。
わざわざ教室後方の閉まっている方の扉からちらっと中を覗いてみた。そこにはなにやら「青春!」の二文字が似合いそうな超楽しそうなみんなの姿があった。ほんとに超楽しそう! 超楽しそう。超楽しそう…。超楽しそう……。
私は思わず軽い溜息をもらしてしまった。それで私は扉を開くわけでもなく教室を通り過ぎて、周りの目が届かない屋上に近い階段のところに腰を下ろした。
そう、私は今まさに現実逃避をしてしまったの。私は両手で両目を隠して考え始めた。漏れてくる生徒たちのしゃべり声を耳から覗く。体の暖かさの流れに集中する。呼吸に集中する。
……わかった、この感情。これいろいろ複雑なやつだ。みんなが私を相手にしてくれないことに寂しさを感じている。しかも私はみんなが働きを認めてくれないことにやけになってる。やるせないプライドってやつなのかも。でもプライドを貫くことだって大事だよね、かっこいいことだよね。このまま帰っちゃおうかな~。
でも実際私もみんなに混ざってわちゃわちゃしたい! というか本来の私ってそっちのタイプじゃん。でもみんなが今の私を普通に受け入れてくれるのかな?
不安だな~。みんなも大人だから私を平然に迎えてくれたとしても、心のうちでは何か思うところがあるんだろうな~。それがすごく怖いな。「場に対するいずらさ」ってやつをまさに今の私は感じているみたいだ。なんか悔しいな……。情けないな……。
みんなにとっての私って何なんだろう……。やっぱり、どうでもいいのかな……。
「おい、そこでさぼっている奴、聞こえるか!」
突然、周りの雑音とは違って明らかに近い距離から聞こえた。
私は場所がばれたことや怒鳴られていることに恥ずかしさが強くって返事ができなかった。
「まあいい、他の生徒からの目撃情報で実行委員長のお前が屋上に上っていくが目撃された。顔は割れてるぞ!」
その声でわかった、この人、向井地だ。
あいつが大きい声を出すとこんな感じになるのね。ってそんなこと気にしている場面じゃないよ私。どう返答すれば言いわけ?
「あ、あんたには関係ないでしょ!」
「は? 何言ってんだお前? 勝手に一人でさぼってんじゃね!」
「私はね、みんなよりもたーくさん働いてるもん! そんな風に私を責めないでよ!」
私は駄々をこねた小学生くらいの自我をされけだした発言をしていた。しかもあんなムカつく野郎に……。
向井地のの声色はさっきよりも小さくなった。ただ声はさっきよりも重くなった。
「橋向、おまえ本当に愚かで低能だよな」
「だ、だから私の悪口を言わないでよ! もうわかったから……」
「そういう考え方が屑なんだよ。おまえみたいに自分のことを偽って周りに合わせようとして、そのくせに自分で自分を殺してるくせに、自分が認められないことに反感を抱く奴が、真の屑だと俺は思ってるくらいだ」
「調子に乗って私をいじめるのやめてよ! だから性格悪いのよあんた! なによ、周りに合わせてる人間なんてほとんどじゃない! みんなのことを否定するわけ? あんたこそ屑よ! 屑中の屑よ!」
顔を合わせていない私だったけど、小さく向井地が笑っているのがわかった。
「そうだ、俺は屑中の屑だ。俺の周りほとんどの人間は屑野郎だ、だけど俺はそんな屑どもを超える『新しい屑』だ。だから俺はお前が言う『みんな』とやらを否定する、「常識」を否定する。何が悪い」
私は声を出して笑ったね、ほんと。なに、向井地、こいつ。
でも私はとにかく楽しかった、悪口言われてこんなに楽しかったことはないよ~。
「あんたって本当に変わったやつだよね、というかもはや中二病じゃん! ほんとにあんたは屑だよ。そして私も負けないくらい屑だもん!」
「うるせー、屑女!」
「女子に悪口言ってただで済むと思ってんの!」
「お前の性別なんて関係ねーんだよ、屑は屑だ」
「あんたほんとに何言ってんの? 屑ばっか言ってんじぇねえよ! 普通にひくレベルで狂ってるって!」
「うるさい、屑雑魚野郎が!」
「もう~ほんと死―――ね―――――――!」
私たちの言い争い? それとも水掛け論? はやっと終わった、終わったのかな?
突然向井地の罵声がやんだ? というかもう止まっちゃった?
「ごめん、言い過ぎたかな…」
「やっと黙ったか、さぼり女が。いいか、お前も含めて全員屑だ。屑が屑の考えていることなんて気にしてるんじゃねえよ。そういうところが低能なんだよ。わかった屑」
……私はわざと束の間の沈黙を作った。即答したらかっこ悪いもん。最後のプライドかな?
「あんたってさ、もしかしていい奴? それともツンデレってやつ?」
「どっちでもねえよ、ふざけんなあばずれが!」
「あんた『あばずれ』って言葉、意味わかって使ってる? なめんじゃないわよ」
「とにかく、とにかくだ! 俺がここを去ったら五分以内に戻ってこい、屑女。これ以上くだらない理由でさぼってんじゃねえ」
「わかったよ、屑は屑らしく労働にいそしみますよ! あ、ありがとね…」
まさか私があんな奴に感謝してしまうときが来るなんて…。
まあ、今回はノーカンよね。
向井地は返事をすることなく、でも聞こえるくらいの足音を立てながら遠く長く歩いて行った(完)
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