見出し画像

【君もまた、青春】第二十五話「私は、アドリブが得意とは言えない」

第二十五話「私は、アドリブが得意とは言えない」

 私は足をぐらつかせながらステージの中央へたどり着いた。あれ、マイク持ってきたっけ? 一瞬パニックになるも、その左手にはちゃんと握られていた。完全にあがってる…。
私の思ったことをただ言葉で表現する…、表現する…。私は呼吸を整えて大きくお辞儀をした。会場はすっと静まる。
「み、みなさんおはようございます。文化祭実行委員長の橋向桃香です。えっと、あ~なんというか私には思うところがあります。学校行事って何のためにあるのかな、なんて。集団行動の訓練の一環、学生生活の思い出づくり? 何が目的なのか私の頭では全然わかりません。もしかしたらすでにただの慣習、ひいては文化なのかもですね。だけど一つだけ確かなことは、『喜びを他の誰かと分かり合う、それだけがこの世の中を熱くする』ってことなんだと考えています。今ここにある奇跡のような暮らしを、宇宙を存分にお祝いしませんか?というかしましょう! よし、これをもって第七十回桜下文化祭の開会を宣言します!」
私が電源を切りマイクから目を離すと、全校生徒、先生の拍手の音が飛び込んできた。それとほぼ同時に私の後ろからは、「ようこそ青春高校へ!」のスローガンが書かれた段幕が下りてきた。あれ、私どんなこと話したんだっけ? 大丈夫だったのかな…。ちょっとした不安の気持ちを抱きながら、舞台袖にそっと戻っていった。そこでも私はみんなから拍手で迎えられた。会長の姿もある。
「あ、あの堂園先輩、私へんなこと言ってませんでしたか?」
「まあ、一般的なスピーチとは一線を隠していたわね。私の予想通りだったけれど。でも多くの学生がボディーブロウを入れられた気持ちになったんじゃないかしら」
「なんでボディーブロウ?」
「瞬間のダメージは弱いけど徐々に効いてくる例え話よ、察しなさい」
「はいはい」
「とにかく反省会は後よ、今は今日のプログラムのことに集中しなさい」
「はい!」
その後、私は手あたり次第他のメンバーの手伝いに奮闘した。パフォーマンスを除くこともしばしばあったけれど。吹奏楽部の由菜ちゃんは、まさかのハープ演奏で会場を沸かせていたいしたよ、白いワイシャツとも相まって本当に天使様みたいだった。あと、司会の久保君の場慣れ感が半端じゃなかった。いつもの愚直に真面目な彼とは大きなギャップよ。

「それでは本日の文化祭ここまでとなります。進行へのご協力もありがとうございました! それでは担任の先生の指示に従って解散してください」
そうして会場全体の拍手とともにステージの暗幕は閉じて行った。一日目の文化祭は無事終了したのだった。ほとんどの生徒が体育館を出ると、生徒会のメンバーたちは集合した。
「みなさん、今日はお疲れ様。とても素晴らしい進行だったわ久保君。私がヘッドハンティングした甲斐があったわね。それとほかの舞台裏のみんなも適所適材の働きだったわ。そうそう桃香さんの可笑しなスピーチも面白かったわ」
 会長、私だけ褒めてるのか貶しているのか、よくわかんないんですけど。まあいいや。
「明日の準備はどうしたい? 文化祭実行委員長さん」
「そうですね、この後一旦各クラスに戻って出し物の準備に参加して、四時ごろに生徒会室に集合して明日の打ち合わせをするのはどうですか?」
すると堂園会長はまた意地悪な顔をして私を見ていた。
「あら、それは残念だわ、私たちこれから生徒会室で出前のピザとかジュースとか飲みながら打ち上げする予定だったのですのよ…」
「それを早くいってくださいよ! てかなんで私にそんな無意味なこと聞いてきたんですか~~~。私もパーティーしたいです~~~~」
もちろん他のみんなもわくわくもりもりなのが伝わってきた。
そうして私たちは生徒会室でピ●―ラのピザやら、ケン●ッキーのチキンやらドクターぺッパーやらを楽しんだ。もちろんお弁当は残さず食べたよ。ああ、特別な青春って気分。
それにしても、いったいこの食事のお金ってどこから出ているんだろう…。めちゃめちゃ気になったけど、まあ今日は気にしなくてもいいよね!(完)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?