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第2回逆噴射小説大賞セルフライナーノーツ

今年も逆噴射小説大賞お疲れさまでした。セルフライナーノーツこと振り返り記事です。ひとまず5発撃ち出すことはできたのでホッとしていますが、なかなか苦労しました。ジャムった。

この続きを読みたいと思わせる、最もエキサイティングなパルプ小説の冒頭800文字」でCORONAを奪い合う逆噴射小説大賞の概要はこちら。

エントリー作品は上記。投稿記事についてのデータ的なあれこれは桃乃字さんがまとめてくださってます。

参加者やらがピックアップしたおすすめ記事はたくさんありますが、お望月さんがピックアップ記事のピックアップをしているような気がします。

シーユーレイター・アリゲーター

1発目。これ以外はオマケかもしれない。

他の方の作品にも登場しているようにパルプと大統領は相性が良い。逆噴射小説大賞とメキシコはいうまでもなくソ連もナチスも分かりやすくて良い。

冒頭からしておかしい、との感想を頂いたけれど残念ながら俺の頭は正常で、もしおかしいとするならそれは大統領の方だった。

大統領はたびたび、国境の壁強化について内々に話していた。水を張った溝にヘビかワニを放せばいいと言って、側近に費用の見積もりを出すよう促していた。……」との証言に爆笑したところから始まったこの作品はドストエフスキーや安部公房、村上春樹に連なるなんかだ。

この大統領は本当に面白い人物で、たとえばバック・トゥー・ザ・フューチャーに登場するビフのモデルにもなっている。かの映画のタイトルと大統領の口癖とが重なり合い、過去の壁と抑圧に対する地下潜入戦が幻視された。

抑圧の象徴にナチスが絡んでくるなら主役は杉原千畝しかない。大戦時にユダヤ人へビザを発行した杉原千畝氏はベルリンの壁崩壊の当時にはご逝去されていたことになっているが、それは表の歴史の話だ。何かのあれでムキムキマッチョ不老不死超存在や仮面ライダーやニンジャスレイヤーになった杉原氏は歴史の闇を闇のまま屠り、それが今のメキシコに繋がる分かったか。

パルプスリンガーには好きな方も多いだろう古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』『ミライミライ』あたりにリスペクトがある。『小泉ハーン』も。

すべてのゲーマーには名前がある

2発目。ゲーミングヤクザバイオレンス。

最近は配信者が配信プラットフォームを移るのが大きな話題になった。多額の移籍金が~とかそんなやつだ。興味があるやつは俺のまとめているマガジンを追うように。

そんな一大ビジネスとなったゲーム実況を生業とするストリーマーたちだが、もしボタンを掛け違えて妙な方向に転がっていったら?というお話。

なんかゲームを題材に書くと逼迫感が出ないので取り敢えず死んでもらってマフィアかギャングかヒップホップかゲームかみたいにしたかった。北米大陸に話が収まり世界中を混迷に陥れられなかったのが心残り。追加で死者を出したあと、ハッピーな雰囲気で終わると思う。

虚偽の通報で配信中に警察が乗り込んできた事例は過去に存在する。怪しげな賭博サイト絡みの話は面白い。興味がある方は以下より。

https://automaton-media.com/articles/newsjp/20180912-76048/

https://automaton-media.com/articles/newsjp/how-csgo-gambling-sites-and-streamers-were-brought-to-all-the-controversy/

ウィル・オ・ウィスプの襲撃についての簡潔な報告

サマーバケーション、ソー・ロング

3,4発目。環境問題の周辺を話に取り入れたかったけれど、上手くいったとは言い難い。

天気の子』を観て(決して手放しで面白いと思ったわけではないのだけど)まぁ自分なりにホニャララと感想も書いた。その上で千葉や東京での豪雨や環境活動家どうこうの話題もあったので何か書いておかないとな、というのがあった。

特に3発目は千葉の豪雨の1週間後に小旅行で行った友人の住んでいる田舎がモチーフなのだけど「地震でも地盤沈下でも海面上昇でもここは駄目だけど、ひとまず地震の復興はしたくないからつっかえ棒のしてない本棚の下で寝ている」との笑えないジョークが印象にある。

大統領や北米のゲーマー連中は題材にできる一方、書記長や総理や即位式に環境問題なんかは格好のネタのはずなのに、真面目に(つまり自分の納得できる形で読んでも面白くなるように)茶化すのが難しく驚いた。そのへん、しゅげんじゃさんは上手く自分のスタイルに落とし込んでいてお見事。

韓国文学や中国SFの盛り上がりは追っていかないとな、というのがオチ。

未来の亡霊

5発目。時をかける少女。

かなり軽い方の手癖。1,2発目は自分ではかなり気に入っているけれど、セリフで駆動したらもっと良かっただろうなとの反省から。

「ほのぼのしてるけど、画面外で大量の人死が出ているであろう作品」との感想をいただきましたが、まぁ世界の終わりみたいなもんですしね。世界の終わりをオバケだけが突き抜けてやってくる。いやその前に恐慌くらいあっても良いし、その動乱のなかで亡霊ではない孫とエピローグ。

これはテーマではなくタイトルだけ先に来ました。亡霊は過去の出来事に縛られているものだよな、では未来とは。んでホラーじゃなくてSFだなと。だからまぁ、到達点という確定した未来に縛られた亡霊と寄り添ってコメディ展開ですね。

円城塔『ガベージコレクション』リスペクト。

まとめ

というわけで無事に5発撃つことができました。1発で良いかな、と思ったんですが最終日になるとやっぱ惜しい感じがしたんですよね。なので不出来なものも含めまとめ撃ちという感じです。

振り返ってみれば1,2発目は自分のスタイルで、3,4発目は苦戦し5発目は新しいものを出せたと言えます。1,2発目の地の文に乗せて5発目のような会話文で駆動できると自分の理想とするパルプかな。ただ、地の文も去年より良いものが書けた自負があります。3,4発目の問題意識をどうするか、うーん。

1パルプスリンガーを外れたところでは今年も友人を巻き込むことができたところに満足があります。読者としてはまだまだ読めていないのですが、最終日の滑り込みは、自分も含め埋もれている作品が多そうなのでdigする甲斐がありそうですね。

では今年もお疲れさまでした。GUNは錆びないよう手入れと定期的な射撃をお忘れなく!

Photo by William Isted on Unsplash

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