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61: 歴は夏至,高波の頂点の色


深い森の中
あなたが知っている、
あるいは知らない場所にある色屋のお話。

色屋は,
溢れるランタン祭りの熱気が収まるころ,
店に戻ってきていた。

「コレでよし。
採取した色はこれで全部ですね。
沢山の瓶が並びましたね…」

満足そうに棚を見渡した色屋は,
ニッコリと笑いながら頷いた。

旅に出るのは楽しい。
見たこともないような色が見つかるし,
忘れがたい出会いもある。
カバンを開けるたび,色が増えているのも
嬉しさを,楽しさを膨らます。

しかし,古巣というのか,
自分の城に戻ってきた時の嬉しさもまた,
肩の力が抜け,嬉しさが溢れるのだった。

カランコロン

「いらっしゃいませ」
「色屋さん帰ってこられたんですね〜。
よかった〜。安心した〜」

「おや,ご心配とご迷惑をおかけしたようですね。
申し訳なかったです」

「大丈夫。 あのね,私ね,夏至の日にね,
大きな飾りを頼まれてるの。」

「と言うと?」

「私,とあるお屋敷のパーティ装飾を
請け負ったんだけれども,
大広間の飾りの色が決まらなくて。
一年で一番昼が長いでしょ?
開放感あふれるような,それでいて…ううぅ〜ん
まだ言葉にできない〜!困った〜!」

「では,棚をご覧になって,
ゆっくりと歩かれてはいかがですか?
気になった色をいくつか取り出して,
それをメインにして決めて行ってもいいかと」

「なるほど!じゃぁ,早速回らしてもらうわ!」

ワタワタと焦りがちだった女性は,
一つ深呼吸をすると,
ゆったりと店内を歩き出した。

一つ一つ,瓶が中央の机に並べられていく。

若々しい緑色,赤,オレンジ,
そしてさまざまな青,そして青。

「ああ,あの青は…一番熱い夏の空の下で
高くうねり,砕け散る直前の,
空と雲だけが知る波の頂点の色ですね…」

色屋は,苦心して取った波の色を思い出していた。
なにせ,落ちていくのは一瞬。
波に乗りながらすくうことの大変さを
二、三日体験していたからだった。

「色屋さん,私,不思議とこの青色を
大広間とテラスや,次の間を隔てる
カーテンのようにしてさぁーっと広げたいわ。
暗すぎず,かと言って全ての
光を遮るわけでもなさそうだもの。」

「それはいい色を見つけ出されましたね」

「そうね。…この青から下に降りてくると,
深い海の色の部屋,もしくは,
明るい下草が生えているような部屋,と、
気分によって使い分ける部屋ができそう」

「夜通し行われたり,お子様も来られるのならば
部屋ごとのテーマは喜ばれるかもしれませんね」

「ありがとう色屋さん!そうね!
イメージが湧いて固まってきたわ!
この色をいただいて,早速に取り掛かるわ
先が見えたんですもの。あとは早いわよ!」

カランコロン カランコロン

入ってきた勢いと同じように,しかし
しっかりとした足取りで帰って行った女性は,
きっと大成功を収めることでしょう。

色屋は,苦労した甲斐がありました。
と小さく呟いて,店の中を振り返り、
ニッコリと笑ったのでした。


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