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空散歩 : #「街クジラ」


街クジラは、ブワーと大きく潮を吹くように蒸気を吐いた。

上空の冷たい空気に触れた蒸気は、霧雨みたいに地上に降っていく。
太陽の光がそこに当たると、大きな大きな虹を作り出した。


街クジラの窓にへばり付き、
「虹を越える!」
と、知らずに声はマックスになっていた。
でもそれは、わたしだけじゃない。
あちらでも、こちらでも、
「わー、虹!」
とか、
「虹の橋を通り過ぎる!」
とか、
みんな、感動で声が大きくなっていたから、わたしの声なんか小さい方だ。

ミニチュアになったひしめきあう街を、街クジラは、
これでもかと言うくらいゆっくりゆっくり、音もなく通り過ぎて行く。

ミニチュアになった街は、どこまでもどこまでも続いていて、
街クジラはどこまでもどこまでも行くのだなぁと、嬉しくなった。

街クジラが森に差し掛かった頃、
「さあ、お弁当の時間ですよ。」
と、エプロンを付けた女の人が言った。

そう言えば、お腹がぺこぺこだぁ。

みんなテーブルに着くと、エプロンを付けた女の人がお弁当を配り出した。

みんなから、
「わぁ〜。」
とため息が漏れた。
青いクジラのお弁当。
「お弁当箱を持ち帰りたい方は、お持ち帰り下さい。」
「やったー。」
と、あちこたから聞こえる。

お弁当を食べながら、窓の方を見ると、青い青い空だけ見えた。
そして時々、海クジラが、ブハーっと蒸気を吐いて、虹の中を通り過ぎる。

「よそ見しないで食べなさい。」

そんなこと言われても、とっても困る。
厚焼き卵も、里芋の煮っ転がしも、みんな美味しいけれど、それでもムリ。

街クジラは今度、山の頂上の上を飛んでいる。
山の頂上には雲が溜まっていて、街クジラは雲の中を通り過ぎた。
もちろん、ゆっくりゆっくり。

窓の外に手を伸ばして、手で雲を掴んだら、本当は綿菓子だと思うんだ。

お弁当を食べるのをやめて、窓に駆け出しへばり着く。
そしたらどうも、綿菓子ではなさそうで、細かな細かな白い粒の集まりだった。

「ちゃんと、ご飯食べなさい。」

「はーい。」

今度はお弁当に集中出来そうだ。だって雲は綿菓子じゃないんだよ。

窓の外は雲が切れて青空になった。

食べ終わって、クジラのお弁当箱は大事だからすぐにリュックに入れて、
「わたしの宝物だよ。」
と、クジラのお弁当箱にこっそり言った。

また、窓にへばり付くと、街クジラは雲の上にいた。
もくもくで、ふわふわで、ジャンプして飛び降りたら気持ち良さそうだ。
でも、それはダメ。
だって雲の正体は、小さな小さな白い粒だから、飛び降りた途端地面まで落っこちちゃう。

だから、帰ったらまーくんに教えてあげなくちゃ。
「雲に飛び降りたらダメだよ。」
って。
まーくんはまだ、わたしの言葉は分からないだろうけど…。



「海クジラの空散歩をお楽しみ頂き、
 ありがとうございます。
 お忘れ物のないようご注意下さい。」




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締切は7/2(日)21:00。ハッシュタグ「#シロクマ文芸部」@komaki_kousuke #note

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