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ヘビ : 「食べる夜」



食べる夜。

あの夏の日、岩の間から現れたヘビを殺してから、毎夜毎夜、夜を食べている。

ヘビを殺すと、ヘビは殺した者の顔を眼に焼き付ける。
そして、夜になると、ヘビは蘇り、殺した者の弱き肌に牙をたて、猛毒を体に入れるのだ。

だから、あの蒸し暑い汗が肌を伝う夕暮れにヘビを殺した日から、夜を食べ続けているのだ。

もう、どれくらい夜を食べたろう?

腹は張り裂けそうに膨らんで、腹の皮は薄く薄く伸び、地上に夜がやって来る事はないけれど、私の腹にはいつも夜があり、黒いモヤの中に無数の星々がキラキラ浮かんでいる。
月さえも、自分の腹の中で、満ち足り欠けたりしているのだ。

今夜、夜を飲み込めば、自分の腹は裂けるかもしれない。

腹は巨大に膨らんで身動きさえ出来ない。


「どのみち、私は死んでしまう。」
そう思っても、夜を飲み込む事を、やめる事が出来なかった。
ヘビが蘇り、たてた牙から毒が体に回る事を考えると恐ろしくて仕方ない。


今夜、夜を飲み込んで、逃げ出していく夜と一緒に自分も星になる。
自分も星に溶けていくなら、それでいい気がした。
自分は星のかけらなのだし…。


大きく息を吸い込むのと一緒に夜を飲み込むと、とうとう、腹は張り裂けた。
小さな裂け目から、シュルシュルと夜は抜け出して、裂け目はどんどん大きくなり、星々が、次から次と宇宙へ帰って行った。
最後に宇宙に帰って行ったのは月だった。
自分の体は一度、つるっんとなると、粉々に散っていき…。

もうそこからは、どうなったのやら…。





8分オーバーしました😅


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