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夏の雨雲 : short story


一昨日、
「もう、消えてしまいたい。」
と言うくらい、
どーしようもない出来事があった。

聞こえちゃったんだよね。
心の声…。

「あら、来たの。」
と、冷たいトーンで…。

聞こえてしまったものは、
仕方ない。
聞こえちゃったんだから…。

もう、話す勇気なんかないから、
車に戻り、
「このままじゃいけない。」
と思い、
スーパーに併設された本屋に行った。

本屋は魔法の宝庫だ。

あっという間に、
どこかに連れてってくれる。
…いつもなら。

活字が全く目に入らない…と言うより、
脳みそが何かをインプットされるのを拒否してる。

「もう、情報はたくさんだ‼︎
言葉で何かを誤魔化すなんてたくさんだ。」

魔法の宝庫の本屋は脳みそに拒否された。
脳みその拒否具合は強烈で、吐き気がしたかと思ったらクラクラ立ってるのがやっと。

仕方ないから車に戻った。

飽和状態の雲が雨を降らせたいのに、降ることが出来なくて、地上まで飽和状態の湿度が覆い被さる。

「泣きたいのはこっちだよ。」

そう言いながら、いつもの癖でジブンを責め始める。

見るともなく空を見つめ続けるしかなかった。

ポツン ポツン ポツン
  ポツン  ポツン
ポツン ポツン ポツン

ちょっとだけ気が済んだ…気がした。


家に帰って、友達に蛍を見に行こうと、LINEしたら、全員に断られた。

世界の人全て、
ジブンのこと忘れちゃったんだろうか?
そうかもねぇ。
なら、仕方ないや。


そして次の日。
つまり、昨日。
全て投げやりで、何にもしたくなくて、
朝から途方に暮れていた。
雲はどんより重たくて、
部屋もどんより湿度が充満している。

「いったい、何をしたら正解なんだろうか…。」

何もする気になれずソファに寝転ぶしかない。

「いったい、何やってんだろう…ジブン。」


ピン
LINEの通知音がなった。

「絵、来月末までね。」

は?
絵なんてもう描いてない。
もう、止めることにしたんだ。

「描けないと思う。」

と、断る勇気がなく返信すると、

「は〜?
 また〜。
 そう言って、
 いつも仕上げて来てるくせに。
 とにかく、来月末まで。」

「1カ月じゃ、ムリ。」

「何言ってんの。
 1週間あれば描けるの知ってるし。」

このまま行くと、電話が来そうだから、

「分かった。」

と、スタンプなしで返した。


世界の人全て、
ジブンのことを忘れてたわけじゃなさそうだ。
…けど、もう、絵なんて描いてない。

もう、絵なんか描いてないんだよ。
どうしろって言うの。


スケッチブックを広げ、1ページずつめくって行った。

胸がドッキン ドッキンする。

心にあった涙が、
どんどん蒸発して、
ついでに部屋の湿度も蒸発して、
やばいくらい、
絵が降りて来る。

「や、それはいいけど、そんな超絶技巧はムリ。ましてや1カ月じゃ。」

頭の中の絵を、思うままに描けたらどんなにいいか。

そう思ったら次の絵が現れた。
「イヤー、それもムリ。」
また、次の絵が降りてくる。
「そんなビミョーなバランス取れないって。」
また、次。
「なんか、地味じゃない?」
次。
「もっと硬くないのがいいなぁ。」
次。
「あ、それそれ。」
面白そうなのが3パターン。
その中の、一つの絵を選んで、カレンダーの裏に忘れないように描きなぐったら、心が笑ってる。
子供の頃から、ずっとこうして描きなぐっていた。
ずっと、絵を描きたかったんじゃないか?…もしかして。
それ以外、どうでもよかったんじゃないか?…もしかして。


知らんけど、
神様はいるのかも知れない。

昨日までの事なんて、
どーでもいいじゃないか…。
それは、
誰の声だろう。

描いたら必ず誰かが足を止める。
それは一瞬のようで永遠でもある。
ジブンがシャガールの「誕生日」をずっと忘れないように…。




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