『明るい部屋』雑感

こんにちは。あるいはこんばんは。

弓束(ゆづか)と申します。アイドルマスターシャイニーカラーズの投稿はこれで2回目です。前回のnoteは予想をはるかに超えて読んでいただき、シャニマスというジャンルの大きさを実感しました。読んでくださった皆様、シェアしてくださった皆様、誠にありがとうございました。

今回は『明るい部屋』を読んでのnoteです。

新参者なので至らぬ点も多々あるかもしれませんが、お手柔らかにお願い致します。

『明るい部屋』は前回投稿した『きよしこの夜、プレゼン・フォー・ユー!』に続きクリスマスものですが、コミュを読み始めてすぐの段階で「本当にアイドルゲームのクリスマスイベントに合わせて配信されたストーリーなのだろうか?」と疑ってしまうような……もちろんクリスマスがテーマにはなっているのですが、これをアイドルゲームでやるのがすごいなと、そう思わざるを得ないお話でした。

(当時未登場のシーズ以外)283プロの所属アイドルは全員登場するものの『プレゼン・フォー・ユー!』のように全員で同じ企画をするのではなく、グループごとにラジオ収録、イベント出演、キャロル隊、ケーキ売りバイトと別々の仕事をしていました。これだけの数のキャラクターが別々の場所にいて、並行して話が進んでいくのに加えて回想シーンも挟むのに、混乱することなく読み進めることができ、構成の上手さに惚れ惚れしました。

今回はクリスマス当日の仕事だけではなく、クリスマス前の数日間のプライベートの様子(主に寮組)も描かれていました。それにより、クリスマスの浮き足立った雰囲気というよりは、地に足の着いた彼女たちの生活、営みを見ることができました。去年よりも「クリスマス感」が少ないなと感じたのはこうした日常のクローズアップと、サンタ服を着ているのはケーキ売りバイト組だけ、テキストの枠がそのままということでしょうか。(『プレゼン・フォー・ユー!』のクリスマス仕様の飾り枠は可愛かったです。)

もうひとつ去年との違いは、新たにノクチルが加わったこと。新人アイドルのノクチルは、他ユニットには仕事があるのに自分たちはバイトに応募(たまたまはづきさんの働くスーパーだったため、アイドルの仕事に繋がりましたが)という状況。しかも、透ちゃん・円香ちゃん・雛菜ちゃんがアイドルとして「ケーキ1個購入で、握手か写真の特典つき」でケーキ売りをしているのに、たまたまその場に居合わせた智代子ちゃんと樹里ちゃんが「アイドルと写真撮れるって聞いたんですけど……」と勘違いしたお客さんに声をかけられ、知名度の差をはっきり突きつけられる結果になりました。新人でまだまだこれからとはいえ、クリスマスに全員登場するイベントで、こんな形でユニット格差を提示してくるとは……。

このようにきつい描写もありましたが、『明るい部屋』も『プレゼン・フォー・ユー!』と同じく、283プロのアイドルはみんな優しくて、それでいて優しさの種類はみんな違うのがわかる、良いコミュでした。

シャニPのデート姿(実際はデートではなく、お仕事の一環ではづきさんと物件探しをしていただけ)を目撃して結婚疑惑にショックを受けた凛世ちゃんを迎えに商店街まで駆けつける樹里ちゃん。幽霊探しに駆け回るあさひちゃんの好奇心を決して踏みにじらず、それでいて「でも、危ないことになっちゃうかもしれないし――ふたりには、そういう怖い思いをしてほしくなくて……!」と心配する智代子ちゃん。開かずの部屋の片付けを手伝ってくれる真乃ちゃん甜花ちゃんに申し訳ないと言いかけるも、「申し訳……ない、と言ったら否定されてしまいそうだ」とただ謝るのではなく相手の反応を見ながら会話をし、着替えも貸してあげる咲耶さん。キャロル隊に自分がストレイライト代表で参加するなんて、と遠慮してしまう愛依ちゃんに「だったら本番、あんたがセンターとるくらいの勢いで歌ってきなさい」とエールを送る冬優子ちゃん

ほんの一部のエピソードを抜き出しただけでも、彼女たちのあたたかさが伝わってきます。

さて、ここまでアイドルの話をしてきましたが、この『明るい部屋』の主人公は、なんと283プロの敏腕事務員はづきさんでした。

いくつものストーリーが並行して進むので、ずっとはづきさんが中心というわけでもないのですが(たとえばキャロル隊では愛依ちゃん&小糸ちゃんが中心で、はづきさんはいつも通り見守るポジションなど)、全体を通して見た時に、はづきさんが主人公と言っても差し支えないはずです。

はづきさんはアイドルではないのでゲームでプロデュースすることはできませんし、基本的にコミュはアイドルが主体なので、はづきさんの心の声を聞けるのは貴重な機会だと思われます。(私がまだコミュをあまり読めていないので、曖昧な言い方で失礼します。)

アイドルゲームのクリスマスイベントで、裏方組にスポットライトが当たるのがシャニマスなのだなと思いました。今年のクリスマスは一体どうなってしまうのでしょうか。

話をはづきさんに戻します。はづきさんは283プロの事務員の仕事だけでなく、スーパーのアルバイトもかけ持ちしていました。スーパーの仕事の合間を縫って結華ちゃんに事務連絡のメッセを送るシーンもあり、「これっていわゆる時間外労働では? はづきさんはきちんと休めているのだろうか」と心配になるくらい、バリバリ働いていました。

そんなはづきさんは、「クリスマスが……なんだっていうの……」とクリスマスを疎ましく感じている様子。それは、はづきさんの幼少期の思い出―今は亡きお父さんに起因していました。

「夢を持ってる人を応援する弁護士」だったというお父さんはいつも忙しく、クリスマスも例外ではありませんでした。そんなお父さんが買ってきてくれたプレゼントをわくわくして開けたら――お姫様のようなドレスを着たお人形ではなく、消防服を着たお人形で、がっかりしたのでしょう。

はづきさんのお父さんは考えなしに選んだわけではありませんでした。「このミシェルちゃん、消防士になるのは大変だったと思うんだ」「消防士さんは、力のある男の人たちが多い職場だし危険なことも多いお仕事だろ?」「だから、きっとこのミシェルちゃんは消防士さんの仕事に強い夢を持ってたんだろうなって」「そう思ったらさ、応援したくなって」

けれどもはづきさんは「ミシェルちゃんじゃなくて私のことを考えてよ」と言いました。幼い女の子だったはづきさんは、ドレスを着たお人形がほしかったのです。

娘の反論に、お父さんはこう続けます。「……! あっ、ごめんな……! その、だから、はづきにも――――」

時が経ち大人の女性になり、夢に向かって突き進むアイドルたちをサポートする仕事に就いたはづきさんは、「やっぱりドレスじゃなくて こっちのほうがいいみたい」「そういうことがやりたいみたい」と、言いました。

はづきさんはアイドルの子たちでさえ見惚れてしまうほどの美貌の持ち主なのに、アイドルではなく裏方を選びました。ドレスではなく消防服を着たお人形のように。

それを知ってしまうと、これまでのように「はづきさんもアイドルやればいいのに」なんて、軽々しく言えなくなってしまいました。

これはアイドルの仕事を軽視しての発言ではなく、容姿のみならずさまざまな能力に恵まれたはづきさんなら、アイドルでもうまくやっていけるのではと考えていたからです。

適正と、やりたいことと、実際にやっていることは必ずしも一致しないし、ひとつに絞りきれるものでもないのかもしれませんね。

それにしても、はづきさんのお父さんがシャニPにそっくりで驚きました。

はづきさんのお父さんとシャニPはビジュアルが出ていないので、見た目が似ているかどうかはわかりません。ただ、「ははっ」という笑い方や喋り方、柔らかい雰囲気、どこかお人好しなところ、買ってきたプレゼントがちょっと残念なところまでそっくりなのです。(はづきさんはドレスのお人形を期待していたのに消防服のお人形を買ってしまうお父さん/樹里ちゃんが既にケーキを買ってきているのに放クラにケーキをプレゼントし被ってしまうシャニP)

はづきさんはシャニPと会話してお父さんのことを思い出しますし、気のせいではなくやはり娘のはづきさんから見ても似ているのでしょう。

私はまだにちかちゃんについて詳しくないのですが、にちかちゃんがシャニPに対してどこか生意気なのも、お父さんに似ているからでしょうか?

最後はタイトルにもなった"明るい部屋"、寮の開かずの部屋にまつわる感想を書いていきます。

天井社長に物件探しを頼まれたはづきさんが最終的に選定したのが、寮内でもう何年も使われていない部屋でした。他の部屋はすべてリフォームしてあるのに、その部屋だけはリフォームもせず手つかずのまま、たくさんの本やモノが詰まった状態で放置されていました。その部屋はなんと、天井社長の旧友でもある、はづきさんのお父さんも使っていた部屋でした。

それをはづきさんは知らず、部屋の片付けをしている時に蔵書印で気づいた様子でした。

要するに天井社長は、遺族にも知らせないまま、亡くなった友人の形見を空間ごと……いや、時間さえもまるごと保管していたのです。

「ここは何か時間が止まっているような気がするもの」と夏葉さんは言いました。

建物のほとんどをリフォームし、新しい居住者が増え、女の子たちが生活して時間が流れている間も、あの部屋だけはその時の流れから隔絶されていたのです。

なんということでしょう。

第5話『ブリアル』の最後に天井社長は旧友のお墓に赴き、「……久しぶりだな」「――ブラックで、よかったよな」「……――――」「線香代わりだ お前もこっちのほうがいいだろう――?」「それから報告もひとつ」「……いいよなぁ、もう」「空けちまうぞ あの部屋」と語りかけます。

重ね重ねになりますが、これは本当にアイドルゲームのクリスマスイベントに合わせて配信されたストーリーなのでしょうか?

『明るい部屋』で天井社長の出番は少ないのですが、とてつもなく大きな爪痕を残していきました。

あまりの出来事に、平日の真昼間から大きな声を出すほどに。どれくらい大きいかと言えば、『HUNTER×HUNTER』の天空闘技場でのキルアVSズシのウイング先生くらい大きい声が出ました。

もしはづきさんが他の物件を選定したら、あの部屋はこれからもずっとあのままだったのでしょうか。それとも、はづきさんならあの開かずの部屋に気づくかもしれないと、わかった上で頼んだのでしょうか。私には何もわかりません。

ひとつ確かなことは、天井社長にとって「彼」がひときわ特別な存在であるということだけです。

ところで、第5話のタイトル『ブリアル』という単語に聞き覚えがなく、検索してみました。

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検索して、この画面が表示された時、またしても大きな声を出してしまいました。今度は陰獣を倒した時のウボォーギンくらい大きい声が出ました。

埋葬。だとするならば、あの部屋は、形見ですらなかったのかもしれません。なぜならあの部屋は時間が止まっているから。死者の残した物ではなく、生者が「生前の彼の時間と空間」を閉じ込めたものだから。その部屋を、現在そして未来のために明け渡すことこそが、肉体はなくとも「埋葬」にあたるのではないでしょうか。

横に部屋が広がることも、縦に時間が広がることもなく、ずっと同じ状態を保っていたあの部屋が、やっと外界と繋がったのです。天井社長にとっての「埋葬」は、あの部屋にとっては「生まれ変わり」だったという解釈もできます。部屋というのは誰かが使うために作られた空間であり、あの部屋は本来の目的を果たされていない状態でした。また使われるようになることで再び「誕生」したのです。

そんな部屋を、シャニPは「ここがいちばんだ」と言います。「何年もずっと旧友の思い出を閉じ込めてきた部屋を、旧友の娘の決定でまた新たに生まれ変わらせ、その部屋を旧友にそっくりな部下が肯定する」そんな巡り合わせに、天井社長は一体何を思うのでしょう。

『明るい部屋』は283プロのアイドルたちの愛情と、はづきさんの祝福と、天井社長の重たい感情で出来上がっているのだなと、そう感じました。

最後にひとつ疑問が残るのですが、度々話題に上がったシナモンはなにかの暗示でしょうか? 花言葉を調べても「清純」としか出てきませんでした。それとも、別のコミュに登場するアイテムなのでしょうか。

またしても、つらつらとまとまりのない文章を書いてしまいました。読んでくださった方には最大限の感謝をこめて。ありがとうございました。

やっぱりシャニマスのコミュは丁寧に紡がれていて、本当に心を揺さぶられますね。純粋に読み物として面白いです。真乃ちゃんの「うん、仲良くなった、の……」など、他のコミュも読んでいたらもっと深く味わえただろうセリフもありますし、履修すればするほどさらに楽しめそうです。

次は一体どのコミュの感想を書こうか、迷っています。何かおすすめがあれば、お聞きしたいです。

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