小惑星帯を疾駆せよオールドレディ
木星小惑星群の横を小型の宇宙客船、星間連絡船ヒラフが「回送中」を示すランプを点灯させ航行している。マットブルーの優美な流線形の船体、船尾には一輪のガーベラと花弁のエンブレム。
ヒラフはかつて宇宙一早く機敏な船としてこの宙域で名を馳せていた。まだ宇宙海賊という犯罪集団がいた頃だ。それももう随分昔だ。
そのヒラフが大型の小惑星の手前に差し掛かったその時、カート・ムラカミ船長はヒラフの後方を進む黒い物体が急加速したのを察知した!
「きたな!急速!ハードアポート!」
「ハードアポート!サー!」
船長の号令を受けて操舵手が舵を左にきる!
ZOOM!ヒラフのエンジンが加速し急旋回した。数十秒後ヒラフがいた場所をヒラフの倍はある黒色の宇宙船が小惑星を削りながら通る!
あの船はずっとヒラフをつけ回していた。漆黒のシャープな船体、体当たり用の衝角にしか見えない鋭い船首。その海賊船もどきが船首を再びヒラフに向けている。
さすがに見逃はしないか。
ムラカミ船長は苦笑した。その膝の上で丸くなっていた船乗り黒猫のリョウスケさんが耳を立て顔を上げた。
ファレル航宙士の緊迫した声がブリッジに響く。
「ドローンより報告!所属不明船が急加速!このままでは数分で追いつかれます!」
「まずいな、本気で逃げるとするか」
ムラカミ船長が手を振ると船長椅子を囲むように無数のホログラムモニタが球状に展開した。直後に赤文字の「緊急」ホログラムモニタが船内中に出現し船長の号令が響く。
「総員配置に付け!我々は所属不明船に追われている!所属不明船を一時的にクロネブカと仮称する。これよりヒラフは予定の航路を離れ、小惑星帯に入る!」
ムラカミ船長は不敵に笑う。
「回送中でよかったよ。オールドレディ・ヒラフがこの小惑星帯で久しぶりに遠慮なくお転婆できそうだ。…フルアヘッド!」
船長の号令を受け、ヒラフは全速前進で白い炎の線を引きながら小惑星帯に突入した!
【続く】