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逆噴射小説大賞2022に応募したもの

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冒頭800文字で続きを読ませたい創作小説大賞「逆噴射小説大賞2022」に応募した作品です。 読んでくださりありがとうございます。 おかげさまで『虚空に祈る黒女』が二次選考を通過し… もっと読む
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虚空に祈る黒女

虚空に祈る黒女

暑い。真夏の凶暴な日光がカフェのガラス越しに僕の背中を刺していた。
向かいに座る芳野さんが微笑むと目元が華やいだ。
「大槻君。バイトのシフト代わってくれてありがとう」
「いえお礼なんて」
「大槻君、暑そうだね。涼しくなる話をしよっか。バイト長の木田さんから聞いた怪談“祈りの黒女”」

ある日急に、真横を向いて何かに祈り続ける喪服の黒女の幻覚が見えてしまうらしいよ。その祈る黒女は一度見えると視界から

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七星は駆けて霜月を斬る

七星は駆けて霜月を斬る

冷たく青白い月光が冬の新都平安京を静かに覆う。その下の内裏の一室を燈火が照らしていた。

炎が揺らいだ。少年は剣の柄を握り角髪を揺らし踏み込んだ。相手の青年が剣を振り下ろす。少年は避け懐に飛び込む。木刀の切先が青年の喉元へ迫り、停止した。

「そこまで」
威厳のある声が制止した。少年と青年は声の主に向かって跪いた。少年の白い息が板間へ落ちていく。
「顔を上げよ、我が子よ」
少年は顔を上げた。父、桓

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