社会的ルーチンの喪失と仕事時間の増大

ずっと前から疑問だったのは、僕たちの時間は何に奪われていってるのか、ということだ。

例えば、僕らの業界でいくと、家事全般の「時短」が一つの大きなブームだったりもして、時短商品はすごく人気だ。洗濯も濯ぎ一回で済むとか、食器洗って早く乾くとか、とにかく手間や時間を省略できる、短縮できるグッズやサービスが山のように登場して人気を博している。

でも、相変わらず、大部分の人は忙しいままだ。時短商品のおかがで、余暇ができた、という人を聞いたことがない。

時短商品を使う人は、そもそも元々忙しすぎる人で、時短商品のお陰でそれが、多少マシになっている、というのはあるかもしれない。でも、結局、空いた時間は、また別の何かのタスクに追われて、奪われていってしまってるように思えるのだけど、違うだろうか。

世の中はどんどん便利になっている。便利になるというのは、時間の束縛とか制約からの解放という側面が大きい。

今まで自分がやらないといけなかったことから解放されるとか、何時間もかかってたことが数分で出来るようになるとか、何段階にも分けてやってたことが何か1つの手順で済むようになるとか。

洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、冷凍食品、コンビニ、インターネット。新しい製品やサービスが登場すると、僕らの生活は「便利」になる。

新しい製品やサービス、あるいはテクノロジーの登場で、ある特定のタイミングで特定の時間への拘束から解放されたり、すごく時間が掛かってたものが、短時間で済むようになったり、特定のタイミングに依存しなくて済むようになったり。

これだけ時間を省けてきたのだから、本当なら僕らにはどんどん余暇ができるはずだ。でも、僕らは相変わらず忙しく、いつも時間がないと嘆いてる。

仕事はどんどん忙しくなっていくし、プライベートや生活の時間も増えてるように思えない。自分が自由にできる時間はむしろ減ってるように思ってる人の方が多いのではないか。

なぜなんだろう。

例えば、家風呂がなくて、多くの人が、銭湯を利用するのが当たり前だった頃は、当然、銭湯が開店している時間までには仕事を終えないといけなかった。

電子レンジや冷蔵庫が広がってない時代は、一度に作った料理を同じタイミングで皆で食べないと勿体ないわけで、家族揃っての晩御飯は、効率上も都合が良かった。

便利なものが登場する以前は、こういった不便さがもたらす様々な制約が、皆で共有されていた。これがある種の社会的ルーチンみたいなものとして機能してて、それが生活と仕事の線引きの口実や理由にもなりえていた。

今、銭湯入るので早く仕事切り上げます、はなかなか言えないだろうし、家族一緒にご飯を食べるので、仕事は何時までしかできません、も言いにくいものがありそうだ。

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仕事だって、ほんの十数年前に較べてたら、各段に効率よくなってるはずだ。インターネットが当たり前になり、メールやチャットツールなどでのやり取りも普通になり、コミュニケーション効率は各段に上がったと思う。

でも、こういった圧縮で得られた時間は、また別の仕事で埋められてしまうのか、相変わらず、仕事は忙しいままだ。何なら以前よりもっと忙しくなってる。

物理的な制約があったが故に、守らざるを得なかったルーチンがあったのが、テクノロジーの進化でその制約が取っ払われてしまい、ルーチンを維持できなくなった。ルーチンがなくなれば、それを理由に線引きしてた「仕事」と「プライベート」とか、「仕事」と「生活」みたいな垣根や線引きが曖昧になってしまい、余程、強い意思を持って、自分でルールを守らないことには、それを維持できなくなってる。そんなところではないか。

スマホ持っちゃうと、いつでも業務メールも確認できてしまう。プライベート時間には業務のメールを確認しない、とするためには、やはりそこには確固たる意思が必要になる。もちろん、そこには「競争」みたいなものもあるので、「自分（自社）」だけの思いを押し通すことなんてのも難しいのは理解できるのだけど。

そんなことを考えてると、このコロナ禍で、リモートワークが一気に広がり、ビデオ会議システムなども普通に使われるようになってきた、この状況というのは、ますます生活の時間を奪う方向に機能していくような気がしないでもない。

通勤電車から解放される、移動から解放されるというのは、一見、自由度があがり、使える時間が増えるように思えるけど、一方で、いつでも会議や打ち合わせもできるようになるわけで、これは、今までの発展の流れでいくと、ほぼ確実に、僕らの生活時間を搾取する方向により強く流れていくんじゃないかなと懸念してる。

今まで、自由の時間が増えるとか、面倒な作業が省かれるとか、楽になるとか、進化や発展への期待ってそういうものがあったと思うけど、単に便利な商品とかテクノロジーが、僕らの生活を豊かにするわけではない、ということは、そろそろしっかり理解したほうがいいなと思ってる。