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追い込まれた時の話

前職時代の話。色々なことが同時に重なって、いよいよキャッシュがないぞ、やばいぞ、という事態に陥った。もちろん、それまでもずっと自転車操業で、毎月、入金日と支払い日と残高を表にして、この入金でこれを支払って、この支払はなんとかここまで待ってもらって、なんてパズルを解くようなことを数年続けてたと思う。

そこにトラブルや予期せぬ問題なども押し寄せて、さらに事態は悪化。これはかなり厳しいな、このままじゃ詰んでしまうな、そんな状況に陥ってしまったわけだ。

当時、社長は京都にいて、僕ともう2名の取締役が東京にいた。ビジネスの主戦場は東京にはなっていたが、京都は創業の地ということもあったり、受託ではないビジネスで十数人ぐらいのスタッフを抱えてたり、システム開発メンバーの大半も京都にいたりしたので、社長は京都から指揮を執っていた。

資金繰りが相当厳しいことは伝わってきていて、僕もかなり不安を抱えたまま、東京で目先の仕事をこなしてたのだけど、そんな折に、京都にいる社長から「今週末、皆で京都に集まろう」という提案があがった。

僕は正直、「おいおい、こんな状況で社長は何を呑気なことを言ってるんだ」と呆れた。会社の状況はいつになく厳しい。キャッシュ状況もかなりマズい。とにかく仕事を取って、少しでも早くお金を得ないといけない。僕も含めて東京の役員3名が京都に行くだけでも交通費もかかる。ましてや、東京京都を往復してたら、どう考えても丸1日は仕事が出来なくなる。この状況でそんなことやってる余裕なんてあるのか。今は何よりも目先の仕事に集中したほうがいいいんじゃないか、できる限りお金を使わないことを徹底した方が良いに決まってる。そんなことを思った。

どのようなやり取りがあったのか忘れてしまったけど、僕も他の2人の取締役も、ブーブー文句を口にしながらも、結局その週末に京都に行くことに決まった。久々に京都に、東京京都で散り散りになってる経営メンバーが集まることになった。(ちなみに、当時の経営メンバーは、1人を除いて、全員関西出身で、創業の地の京都には皆、それなりの思い入れがある)

事務所がある京都リサーチパークのオープンスペースに皆で集まった。なぜ、社内にある会議室ではなく、室外にあるスペースだったのかは覚えてないけど、開放的な場所で、久々に顔を突き合わせた。

皆、事態が深刻なことはよくわかっていたけど、集まると、なぜか自然に笑みが漏れたし、笑い話で盛り上がった。とても深刻な話をしたはずなのだけど、深刻に議論を交わしたシーンは記憶にはない。ただ、皆が笑ってた姿がすごく印象に残っている。

話してるうちに、なんか大丈夫じゃないか、という気がしてきたのだと思う。根拠は全くないけど、皆の顔見て笑ったことで、随分と冷静になれたし前向きになれた。だいたい社長はいつもニコニコしてるんで、社長の笑顔を見るとこっちも自然に笑みがこぼれてくる。

そこで結束みたいなものが生まれたのだろう。とにかく、これからの一、二週間、やれるだけのことをやろうと。社長や僕は親族に頭下げてお金借りにいこうとか、進行中の案件で前倒しでの請求をお願いしてみようとか、出たアイディアを皆で協力して対応しようじゃないか。それで駄目なら仕方ないよねという覚悟が決まった。でも「覚悟を決めた」というような深刻な感じでもなかったなと思う。少しワクワクドキドキ、何か冒険が始まる時みたいな、よしやってやろうじゃないか、みたいなね、そんな前向きな覚悟の持ち方だったと記憶してる。

その後、一二週間、色々なことに同時に取り組んで、実際、会社はなんとか持ちこたえた。運にも恵まれたりもして最悪の状況を乗り切ることができた。

あの時、社長がなぜ、京都に皆で集まろうと声を掛けたのかは正直よくわからない。なんとなく集まったほうが良い、顔突き合せたほうが良いと思ったんだと思う。今思っても、すごい決断だなと思う。当時会社の個人保証は、すべて社長が負ってた。一番苦しかったのは社長だったはずだが、その社長が、コストをかけて、時間をかけてでも、皆で京都に集まるという選択肢を取ったのだ。相当な覚悟と胆力だ。

でも、実際、あの時、あの集まりがなかったら、あのピンチを乗り越えられてたのかどうかは怪しい。僕も不安や心配が先立つと、つい手や足が止まりがちだし、すぐ動揺して「やばいやばい」と口にする。ただただ周りを不安にさせてしまうタイプだ。あのまま東京にいて対応してるだけだと、周りのメンバーにも動揺を広げてしまっていたかもしれない。皆の顔を見て笑って、とにかくやれることすべてやろう、と覚悟を決められたから、きちんと地に足つけて動くことができたんだと思う。

こんな経験から何か教訓みたいなものを抽出することができるとすれば、それはピンチになったり、追い込まれたりした時には、あまりジタバタせずに、まず落ち着け、ということかもしれない。そして、そのピンチにチームで対処するなら、チームでその事態をきちんと認識して、その状況を愉しむぐらいの気持ちで話をする、ということかもしれない。さらに言えば、ピンチの時でも、前向きにその状況を愉しめるぐらいの関係をメンバーで築けるかどうか。そういうメンバーと仕事ができるかどうか。こんなことも大事なことかもしれないなと思った。

ちなみにその後、その会社はピンチを乗り越え、業態を変えたりしながらも、順調に成長を続けている。売上規模も●十億規模の会社で、グローバルで社員も200人以上にまで成長した。その会社を離れて僕はもう9年になる。社長ともしばらく会ってないけど、多分、今でもピンチの時もニコニコしながら対処してるんだろうと思う。

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