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スタートアップ採用におけるSOの効果が弱体化した気がする件


皆さん、こんにちは。LAPRASの共同創業者の二井です。
私は今もLAPRASの中にいる古参社員の1人でして、
LAPRAS Advent Calendar 2023 14日目の記事として、お届けいたします。

Nstockの宮田さんのツイートに刺激を受けて下記引用ツイートをしたのですが、こちらの内容をテーマに1本書かせていただきます。


自己紹介


最初に私の立場を明示させて頂くと、2016年にscouty(現LAPRAS)を共同創業し、途中役員を務め、現在正社員の身分で在籍年数8年目です。
創業から数年分の自社SOの設計に携わっており、自身もSOを保持しています。
また、スタートアップ採用、特にエンジニア採用の領域にどっぷりと浸かっており、経営者の皆さんと給与やストックオプションの設計についても数多くの議論をしてきました。

本テーマについては、定量的な検証のコストが高く、それ故仮説に留まり、あまり表で話さなかった内容です。
そのため前提となる「本当にSOの効果は弱体化しているのか?」についての定量分析は出来ていないという点を先に触れておければと思います。


ストックオプションを取り巻く前提の整理

https://www.slideshare.net/MikiAmemiya/130117-16233083?qid=76b8846f-fd00-4274-9991-ea07d4c6808f&v=&b=&from_search=1

ここでの説明は大幅に割愛しますが、なぜ大企業ではなく、スタートアップに挑戦するかの経済的要因として、SOによる一攫千金があります。

創業期からシリーズAまで、 組織フェーズごとに考える エンジニア採用の教科書

CxO待遇以外の創業メンバー・10人目以降のメンバー以外のSOは概ね総発行株数に対して0.1%以下が相場。

  • EXIT時に時価総額500億として4000万円(0.1%保有・税引後)

  • 時価総額100億とすると最低500万円(0.05%保有・税引後)

  • 時価総額1000億を超えると、億超えが見えてくる

従来、スタートアップでの経済的成功を目指して、10人目以降に飛び込んでくる人達が期待していた数字は概ねこのあたりだと思います。

2016年時点では間違いなくスタートアップの給与相場は低く、上記の給与相場よりも50-200万円程度低いスタートアップがたくさん存在していました。

2023年年末時点では、こういった前提が少しずつ変化しているにも関わらず、税制や会社側のSO設計が変わっていないことで、SOの効果が下がっているのではないか、というのが本記事の要旨です。

SOの効果弱体化の要因サマリ

  • EXITまでの期間が長くなった

  • EXIT時の時価総額の低下

  • スタートアップ全体の給与相場の上昇

  • その他

上記が本日お話する内容のサマリとなります。
下記それぞれ見てきます。

EXITまでの期間が長くなった

2016年頃、2-3年でFirst EXITをするというスコープで創業したベンチャーも多くあったと思います。LAPRAS社(旧scouty社)も漏れなくその1社です。

当時はメディアのM&A全盛期で実際にEXITにたどり着いた企業も多くありましたが、その一方で事業を2-3年で上場水準まで持ち込むことの難易度は高く、5-10年という単位で期間を定め直して、再度上場を目指す企業が多いのではないでしょうか。

これ自体は決して悪い傾向ではなく、社会的に価値がある事業をしっかりと育て、より正しく価値(時価総額)が高まること自体は歓迎されるべきです。

しかしながらSOの価値という観点では、行使までの期間が伸びることで

  • SO取得時の金額的な現在価値が下がる

  • 途中退職によって行使できないリスクが高まる

ネガティブな影響が与えられています。

元々、スタートアップでは0→1の立ち上げに特化した人材が2-3年スパンで会社を渡り歩くスタイルが当然という価値観です。昨今、EXITまでの期間が伸びたことで、経営者・従業員側のどちらもより長期的な付き合いを意識し始めている傾向は見えますが、基本的には2-3年で1つのミッションを果たす、という傾向自体は変わりません。

一部の企業でSOの持ち出し可能という態度が始まっていますが、まだまだ業界全体ではマイノリティの仕組みです。

実質的に、初期メンバーにはSOの行使までに5年以上の在籍を求める必要がある現在の制度・トレンドでは、SOの放棄リスクを意識せざるを得ません。

EXIT時の時価総額の低下

2022年初頭まではスタートアップバブル、SaaSバブル、その前はAIバブルが存在し、高い時価総額での上場を行う企業がたくさんありました。2023年はスタートアップ冬の時代と言われており、グロース市場に上場している企業、未上場の企業を含めたスタートアップの時価総額が軒並みさがっています。

現在の市況で、SOにどの程度価値を感じられるでしょうか。
一定以上、マイナスの効果は受けていると見て間違いないでしょう。

スタートアップ全体の給与相場の上昇

2023年現在、シリーズA(2回目・1億円以上)の調達後、ミドルクラスのエンジニアを採用する企業において年収600万円未満のオファーを出す企業の比率は大きく下がっています。
また、テックリード・EMに対して、1000万円を超えるオファーを出す企業も数多く存在しており、大企業や外資企業の出す金額と遜色ないオファーが散見されています。

以前はミドルクラスのエンジニアに400万円代のオファーを出すことが実際にあり、採用成功していたスタートアップも多く見られましたが、2023年現在ではそういった企業はほとんど見られません。

これはひとえに調達環境が段階的に好転していることが影響していると理解をしており、業界前提としては歓迎されるべき状況と思っております。

給与相場が上昇した結果、給与の補填としてのSOの効果は現在ではほとんど消滅しており、現在は相場の給与水準 + ボーナスとしてのSOという立ち位置になっています。

その他

こちらは個人的な意見として載せますが、スタートアップ2週目人材の増加と制度の成熟化を挙げます。
業界全体の盛り上げのためにはとても大事な観点ですが、知らなかったが故にSOにより大きな期待を持っていた若い人材は多いのではないでしょうか。

とにかくSOをくれるどこかのスタートアップに入ることが、経済的にプラスだという期待があった。そんな空気が出ていたように思います。

ここからのトレンド

2023年年末現在、SOの価値を取り巻く環境は以前とはフェーズが変わった状態であると言えます。

中長期的にはグロース市場の時価総額回復、セカンダリー取引の仕組み拡大等SOの価値の見直しが入ると確信・期待しておりますが
今しばらくはSOに頼らない採用が必要であり、大きな金額を調達・黒字経営によって、給与金額を上げていく必要があると言うのが、個人的な見解です。


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