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わたしの堕落論ーにごり

私がけっこう昔から好きなお話に「銀河鉄道999」の「ざんげの国」というものがある。

999の車掌さんが清らかで有名な「ざんげの国」で休暇をとっていたら、強盗に襲われてしまう。
清いイメージのざんげの国でそんなことが起きたなんて言語道断。
事実が悪評となって広まるのを防ぐために、なんと車掌さんとそれを知った鉄郎の記憶を抹消しようとする。
という話。

このラストのモノローグが秀逸。

もし聖人ばかりの世界があるとしたら、そこはたぶん「地獄」という名で呼ばれるであろう。善人もいれば極悪人もいる、汚いことをしてる嫌な人間もいる。
でもそれが人の住むところの常識。当たり前のこと。
それだから、生きがいも面白さもあるのに。

聖人君子でいようとしてしまう、というのは言い過ぎか…
「良い子」「優等生」の枠に収まりたくて仕方なかった高校時代の私にはこのモノローグが激震のように響いた。

正直、本当の私は「良い子」でも「優等生」でもなかった。
そう「見える」ように「計算」していただけだった。
だから本当の私が「良い子」でも「優等生」でもないことへ、【劣等感】を抱いていたり自分で責めていたりした。

だからこそこのモノローグがやたら響いたのだと思う。
時を同じくして坂口安吾「堕落論」を読んでいたりもする。

「良い子」からさっさと降りたかったのです。
そしてその理由がほしかった…

でも「聖人ばかりでなくていい」という言葉が「私が聖人でなくて良い」に変わるのは相当大変だった。
聖人ばかりでなくて良いのは自分以外の話で「自分は聖人(良い子)であるべきだ」という刷り込みが全然消えなかった。

ほんの最近だと思う。
それこそコロナ禍の影響かもしれない。「堕落していても良い」と思えるようになったのは。
だって、足掻いたってどうにもならないのだから。

でもふと自分以外を見てみると「聖人ばかりの世界」が良いと思っているんだなと感じることが多くなった。
有料記事でぜんぜん読めてないけど…こんな記事もあった。

「同調圧力」って「清くあれ」ということなのじゃないかと思っている。
著名人バッシングなんかもそういう気概を感じてしまう。
それは犯罪行為も不貞も同列に扱って「清くない」ことの排除に躍起になっているように見える。

「水清ければ魚棲まず」という言葉があるように
清廉潔白ではかえって人に親しまれない…と2500年も昔から言われている。
「清濁併せ吞む」という言葉は逆に「器の大きいこと」を示す。
「泥水を啜って」という言葉すらあって、
生きることが目前にあるのならば清らかさだけではダメだという覚悟が必要なのだろう。

泥水で思い出したけれど、現地の人がその水を平気で飲んでいるからと、旅行者が飲むと腹痛に見舞われる…というのは実際にある話だと思う。
それはその水に「耐性」があるということなのだという。
確かに安全に安心に誰もが利用していくためには、その水自体を浄化して「清らか」にしていくことも大事だとは思う。

でもそれだけが回答じゃないと思う。
自分自身がその泥水の耐性を持つという覚悟を忘れちゃいけないのだと思う。
水が合わなければ他に移動すれば良いだけなのだ。
泥水を啜る覚悟もなくその場にずっといられるなんてこと「行く川の流れはたえずして」なのだから、あり得ないことなんだろう。
その場で立ち止まること自体「淀み」なのだから。

清らかさだけを求めるというのは「幼さ」だなと思った。

そういうことを考えて人が責められるのを見れば見るほど
清いだけの世界を作りたいという大きな動きがあるような気がして、すごく居心地が悪い。
しかもそれが有名人だったりして、その人を応援していた人が掌を返す。

応援するというのは、本来なら「清濁併せ吞む」なのだ。

善人もいれば極悪人もいる、汚いことをしてる嫌な人間もいる。
でもそれが人の住むところの常識。当たり前のこと。

あえて極悪人になれと言っているわけではない。
けれど、悪いことをしたからと言って、なにか間違いをしてしまったからと言って
それが全てじゃないはずなんだ。
泥水を啜る覚悟でそっちに進んだのかもしれない。その道しかなかったのかもしれない。そしていつか自分もその道を辿るかもしれない。

汚いことはいつでも誰にでも存在するんだっていうのをちゃんと理解したい。

「泥水を啜った」人を許せ、ということは耐性がないと難しいのかもしれない。
けれど、清らかさを穢されたと言って責める必要はないのだと思う。
受け入れられないならその水から離れれば良い。
汚れる耐性がない自分を省みることでその水に住み続けられるかもしれない。

清濁にしたってどこまで行っても「自分」がどういたいのか、しかない。

言えるのは「水清ければ魚棲まず」それが人の住むところの常識。
「清濁併せ吞む」大きい人になりたいのであれば「泥水を啜る」覚悟が必要なんだ。

清らかなものばかり求めてしまうより、濁りを呑むように「堕落」しよう。


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最初に紹介した「銀河鉄道999」は有料動画でしか見ることできませんが、東映アニメーションでは1話だけなら110円。

https://taod.jp/p/100003-0019


読んでくれてありがとう!心に何か残ったら、こいつにコーヒー奢ってやろう…!的な感じで、よろしくお願いしま〜す。