一般人ハットリくん

小さい頃から、映画が好きで親と一緒に良く映画館に足を運んでいた。
親が連れてってくれるのは、有名で大きな映画館ではなく、
小さな味のある映画館だった。今でもあるのかは分からないが、そこの劇場が好きで
見たい映画があると、忙しい合間を縫ってよく連れてってくれた。
親に限らず、忙しい時は、親の行きつけの居酒屋のマスターの娘さんがよく可愛がってくれて、連れていってくれた。
優しくて、面倒見の良いお姉さんで、よく喋る人だった。
そのお姉さんと、確か、ドラえもんのび太の創成日記を見に行った時の話で、
当時は、同時上映でドラえもんズやら、21エモンやら、短編の映画も併せて、
見れてお得感満載だった。
その時の同時上映が、僕はずっと忍者ハットリくんのお話だと思っていたのだが、
調べるとドラえもん誕生という、ドラえもんが誕生した時の話であり、
どうやら、忍者ハットリくんではないのだ。
というのも、当時の記憶を遡ると、これだけは鮮明に覚えているのだが、
本編が終わり、同時上映はなんだろうと、胸を躍らせていると、
僕の目の前には、完全にハットリくんが、鮮明に映っていたのだ。
内容は全く覚えていないが、忍者ハットリくんがそこにはいた。
そこから更に、不思議な事は続き、気が付くと周りには誰もおらず、僕一人だけ劇場に残され、そして目の前にはハットリくんがいる。画面内ではなく、実物として。
僕は怖くなり、とりあえず上の方に逃げた。ここからは記憶が曖昧だが、
気が付くと、通ってはいけない暗くて怖い道を通り、屋上みたいなところに出ていた。
後ろを振り向くと、ハットリくんはついてくる。小さな頃の僕は怖すぎて、その場に
膝をつき泣き崩れた。大人になってもこんな現象怖すぎるが。
そこから先の記憶は無く、どうやって帰ったのか、お姉さんは何をしていたのか
一体全体、なんだったのか、全くの謎だが、ハットリくんがトラウマになり、ハットリくんを避けて生きてきた。今思えば、こういった説明しがたい不思議な事が往々にしてあった。
そんな事も忘れ、僕は中学生になった。
座席表を見ると、名前が載っている。僕の横には、大人しそうな女性。
後ろの席には服部君という男の子がいた。当時は、なんて読むのか分からなかった。
それがハットリと読むという事に気付くには時間はかからなかった。
急に後ろから肩を叩かれ、振り向くと、「俺、ハットリ、よろしく」と言われ
なんて積極的な奴なんだと思った。なんだこいつ、初対面なのに慣れ慣れしいな
とも思う。僕も続けて自己紹介をする。悪い奴ではなさそうだが、妙に怪しい気配を漂わせていた。でも何故だろうか。初対面のはずなのに、初めて会った気がしなかった。
服部くん、ハットリくん、、、僕はあの忌まわしき出来事を思い出す。
何を思ったのか、僕の口は勝手に動いていた。
「服部君ってもしかして忍者?」
あまりの不躾な質問にすっとんきょうな顔をしていたが、少し間が空き服部君は答えた。
「俺、ハットリ、よろしく」

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