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東京大学 大学院 農学生命科学研究科 水圏生物科学専攻入試を受験した話【合格体験記2023夏院試】


はじめに

この記事は、2023年の夏に私が
"東京大学大学院 農学生命科学研究科 水圏生物科学専攻"
(以降、「水圏」と略したり略さなかったりします)
を受験して合格した際に執筆したものです。

入学した後にも院試の実態がわかったらちょくちょく追記をする予定です。

農学の体験記は私が2022年の年末にネットで探した限り、3件ほどしか見つからず情報が限りなく不足していると感じました。
内部生はラボの先輩や同期からナマの情報を仕入れることができますが、外部生はそうはいきません。ネットの海に転がっている誰かも知らない奴によって綴られた正しいのかすら怪しい情報を信じるしかないのです。

私自身もnoteやブログの合格体験記の情報に幾度も助けられました。

これから農学の大学院を目指す外部受験生のためと言えば大袈裟ですが私も先人たちが残した文章に助けられたので。その恩返しも兼ねる、といったところです。参考になれば幸いです。

受験前の状況

各所の合格体験記を読んでいて、一番に思うことは、最初はどの程度の学力を持っていた人間なのかというところです。
少なくとも体験記を読み漁っていた時代の私はそう感じていました。

極論を言ってしまえば、「学年主席の超人東大生が満点近い成績を取って余裕で合格、第一希望の研究室に配属されました!」みたいな体験記は読み物としては興味深いところがありますが、全く参考になりません。

欲しいのは普通の大学生による合格体験記です。
ハルヒの逆バージョンですね。普通の人間にしか興味ありません。
え?もしかしてイマドキの若者は涼宮ハルヒの憂鬱を知らない?そんな…

さて、この文章を書いている筆者の情報を明示しておきましょう。

所属   :国立大学の理学部生物学科
英語スキル:学部3年時に受験したTOEICのスコアが 540点
生物スキル:レポートはそれなりに書けるが試験で問題は解けない

こんな感じです。普通かどうかはあなたの判断に任せます。

試験の倍率

例年の倍率は1.3-1.4倍。低いやんけ余裕だなとはなりません。なにせ内部生は全員受かる(断言)ので、不合格になるのは外部生です。
(追記:内部生は20人だそうです。つまり院試の枠が30人なので・・・?)

外部生の倍率は2倍くらいといったところでしょうか。なんだか落ちそうな気がしてきませんか?「院試は簡単」などと言われますがアレは嘘です。

定員よりも少ない人数しか取っていない年も多くあります。
この点数未満の受験生は取らないと決めているラインがあるのでしょう。
出願時点で定員割れしていても全員が合格するわけではないので注意しましょう。水圏ではあまり定員割れは起こりませんが。

水圏生物科学専攻の受験科目と配点、難易度感

私が受験した水圏生物科学専攻の配点から整理しつつ、実際に受験しての難易度感について書いていけたらと思います。

英語 (配点400)

2024年度入試(つまり2023年夏の入試)における、水圏生物科学専攻の英語はTOEFL ITPという試験を院試当日に受験するという形式でした。水圏では英語の配点が1000点満点中の400点を占める重要な科目です。それに最も差が付く科目でもあるでしょう。

TOEFL ITPとはなんぞやと言う人のために一言で説明するならば、
「アカデミックな文章からなるTOEICよりちょっと難しいペーパーテスト」
といったところでしょうか。文章の難易度はTOEICよりも難しい印象です。

TOEICと同じようなリーディングセクションとリスニングセクションがあるだけでなく、文法セクションもある点が特徴です。
3つのセクションからスコアが算出され、院試の英語の点数になります。

TOEFL ITPのスコアは最低が310点、最高が677点になります。
全ての問題にBをマークしても310点は貰える親切(?)設計。

スコアをどうやって400点満点に換算されるのかは公表されていません。
単純に400/677をかけてしまうのかもしれませんし、310点が0点になるように補正したあとに400点満点に換算しているのかもしれません。

気になる合格ラインですが、合格者最低点などのデータが開示されていないので明確な数字を挙げることができませんが、わからないで終わらせてしまうのでは記事の意味が薄れてしまいます。
それに恐らく読者の方々の最も知りたい情報でしょうから感覚に基づいた憶測になってしまいますが私の考えを記しておきます。

まず、東大生の平均TOEICスコア情報は調べれば入手することができます。
どうやら700-730点くらいのようです。

これはTOEFL ITPのスコアに換算すると540-550点程度になるようです。
内部生は院試にほとんど落ちませんから550点があれば安泰なのだろうとううことが推測できます。

ここからは私の感覚の話になりますが、
最低でも500点が欲しいところだと思います。
これ未満だと足切り(他の点数がどんなに高くても不合格になること)に遭っても文句は言えないかなという感じがします。
520-530程度あれば十分でしょう。
550あれば他の外部生と差がついてくるくらいの感覚で良いと思います。

対策はいろんな人が記事を書いているので、説明はそちらに譲ります。
私も概ねそのような記事で触れられている方法で勉強しています。

1つだけ言っておくと文法はコレがいいです。というかコレ以外の参考書の大半の文法問題は"なんか本番と違う感"があり、調子が狂うのでやらないほうがいいまであるのではないかと本番を終えて思いました。

専門科目 (配点400)

水圏生物科学専攻の専門科目は以下の8科目の中から2科目選択して解きます。科目は出願時に登録したもので、当日問題を見てから選択することはできません。

  • 漁業資源学

  • 水産増養殖学

  • 水圏生物利用化学

  • 水生動物学

  • 水産動物生理学

  • 水圏生物環境学

  • 水圏生命化学

  • 水圏生態学

どれを選ぶべきか?どれが受かりやすいか?というのは難しい質問です。
専門分野やこれまでに履修してきた授業によって解きやすい科目は異なってくるからです。過去問を入手(本郷キャンパスで買えます)して、実際に問題を見てみて解きやすいのはどれか吟味してみることを推奨します。

私の場合は学部4年が系統分類学のラボだったので分類学についてはそれなりの知識を持っていました。そのため「水生動物学」との相性が良く、志望先の研究室に則した「水圏生態学」と合わせて選択しました。

気になる合格ラインですが、ここは6割5分は欲しいところです。
専門科目は多くの受験生が対策してくるので差がつきにくいですが、逆に多くの失点は致命的になり得ます。

「分子とかやだ!」みたいな人には水圏生物環境学と水圏生態学のセットを勧めておきます。点が取りやすいかはあなた次第ですがどちらもマクロな分野なので、とっつきやすさはピカイチなペアだと思います。

専門科目の勉強法の合言葉は過去問第一主義。まずは過去問から手を付けましょう。10年分やれば上出来でしょう。
参考書籍から目を通して無駄な知識を詰め込まないように。というか全部覚えなきゃっていうマインドでする読書はこの上なく辛いものです。

ただ、過去問だけを解いてきた奴が痛い目を見るように実際の試験は作られているので書籍にも必ず目を通すようにしましょう。

忘れてましたが水圏のホームページには出題範囲のページがひっそりと置かれています。

「参考になる図書」の項目に挙げられている書籍の内容から多くの問題が出題されます。全ての問題がそうってわけじゃないけれど。これらの書籍を参照しながら過去問を解いていきましょう。

中には目玉が飛び出るほど高価な書籍もあります。そのような書籍があったら大学や地域の図書館を利用しましょう。

まとめます。
まずは過去問を参考書籍を手元に置いて解いてみること。過去問を解きおわったころには書籍の内容の中から出題されそうな部分が自ずと判別できるようになります。あとは知識の穴を丁寧に埋めること。

え?お前が作った過去問の解答が欲しいって?
余裕があったら再構成した解答例を公開するかもしれませんがあまり期待しないでください。

一般教育科目 (配点200)

東大生が前期課程(教養を学ぶ学部1年と2年のこと)で学んだ内容が基になっている、基礎に位置付けられた科目です。

水圏では、

  • 生物学

  • 化学

  • 数学

  • 物理学

の中から1科目を選択して解答します。
何を選ぶかは好きにしてください。

基礎に位置付けられていると言いましたが、どれも大学で学ぶ内容が含まれているので高校までの知識だと半分も得点できないでしょう。

私は生物学を選択しました。恐らく過半数の受験生がそうなのでしょう。
ただ、あまりにも出題範囲が広すぎるのでコスパはあまり良くないです。

内部生に教えてもらったのですが、
東大生は前期課程でこの教科書を用いて勉強しているようです。

確かに、この教科書から出題される問題も多くありますが出題される問題の一部分しかカバーできません。
相変わらず「どこから球が飛んでくるかわからない」状態はそのままです。

東大側は全体的に勉強して来いと言いたいようです。
ぶっちゃけ英語と専門科目のほうがはるかに大事なので、この科目に多くの時間を割いていられません。

半分取れたら上出来と割り切るのも大いにありだと思います。

一応合格ラインは5割から6割としておきます。

何を使って勉強すればいいのかは最後までわかりませんでしたが、
私が使った書籍を置いておきます。高いので真似はしない方がいいと思います。たまたま持っていただけなので。

面接 (配点なし)

水圏に限らず、農学の院試では面接試験(口頭試問)があります。
時間は5分~7分でと短く配点はありません。
合格か不合格かが決まるだけ。

言ってしまえば教員とのマッチングを最終確認する場なので、マトモな受け答えができれば問題ないでしょう。
服装はお好みで。私服の人もいましたよ。

質問はよくあるタイプです。

  • 当専攻を志望した理由

  • 現在行っている卒業研究について

  • 外部院進する理由

わからない時は黙り込まず、わからないと伝えましょう。

全体を通して

全体としては6割あれば合格するんじゃないかなという難易度感です。
ウワサでは5割5分でも受かったなんで話も聞きますが…
合格するだけなら極端な高ボーダーではなさそうです。

筆者の経験と感触

試験当日まで

2年生の3月からTOEFL ITPの対策を少しずつ始める。
3年生の12月から専門科目も含めて本格的に勉強を始める。

試験当日までに、

  • TOEFL ITP は 530↑を安定させる

  • 専門科目は過去問全てを解き参考書籍を熟読、8割を狙う

  • 一般教育科目は過去問の内容と内部生の教科書を中心に学習、6割~7割を狙う

というような勉強を行いました。

一日目 (英語→専門科目)

午前中はTOEFL ITPの試験。
今までこのテストの本番を受けたことが無かったので、受験経験のある弟にいくつか情報を聞いておきました。

本番の問題冊子はA5くらいのサイズで小さいとか、リスニングと文法の間には移行時間があるけれど文法からリーディングはシームレスに移行するだとか。

そのおかげで落ち着いて本番に臨めました。
リーディングセクションが上振れた気がします。感触としては550~570点といったところです。


午後は専門科目の試験。3時間の長丁場です。
まあ工学系には4時間の試験があるのでそれよりはマシ。

午前中で多少消耗しているので集中力が切れそうになりながらも、一通り解きました。あれだけ勉強してもわからない部分はあります。
捕らぬ狸の皮算用で9割~10割取れると見積もるのはやめましょう。

感触としては二科目トータルで7割といったところでしょうか。
ちょっと悔しい。

二日目 (一般教育科目)

二日目は一般教育科目の試験。1時間20分の速攻勝負。まあそこまでキツキツの試験ではないので落ち着いて解きます。

一般教育の生物には

  • 分子生物学に関連した問題

  • 植物に関連した問題(植物生理学が多い、たまに分類学や遺伝学)

  • 動物に関連した問題(動物生理学が多い)

  • 生態学に関連した問題

4個の大問があります。

植物と生態学は全て解けましたが、
分子生物は5割くらいにとどまり、
動物は3割出来ていたらマシな酷い出来でした。わからないものはわからないので仕方がないのですが。

トータルで見ると6割から7割弱といった感触でしょう。動物のところはしょうがないのですがトータルなら、ぼちぼちな出来といったところでしょうか。

三日目 (面接)

三日目になるとだいぶ疲れが出てきます。
フル装備のスーツを着て面接を受けました。
8月の炎天下はしんどい。

15人くらいの教授陣に囲まれて面接が行われました。見た目は完全に圧迫面接ですが内容は圧迫ではありませんでした。聞かれたことは上に書いた通りです。

感触としては「それなりの受け答えができたし、これが原因で落ちることはないだろうな」といったところです。

結果

結果発表は試験初日から3週間後でした。
私は第三希望の教員を「なし」で出願しているので、第二希望までに引っ掛からなければ不合格です。
やりたい研究ができるラボはその2つしかなかったので。

それなりに点は取れているつもりではいましたが、発表直前は緊張で手足に力が入らなくなりました。

自大学の院は受験しておらず落ちたら無職ルートであったためです。

すぐに自分の受験番号があるのを確認しました。嬉しいというよりほっとした感情が強かったです。

すぐに第一希望の教員にメールで連絡し、
「私の研究室所属です」と返信をいただけました。

これ以上ない結果で、非常に満足しています。

点数の開示(2024年3月29日追記)

忘れていなければ点数の開示請求を行います。
点数が判明次第、具体的な数字の追記を行う予定です。感触と大きく差があったら恥ずかしいけど。

学部の卒業のゴタゴタを終えて追記する気になったので、
点数の開示結果を以下に記します。

外国語(英語) 264.9 / 400 (66.2%)
一般教育科目 108.0 / 200 (54.0%)
専門科目 242.0 / 400 (60.5%)

総合 614.9 / 1000 (61.5%)

全然取れてねーじゃねーか!
採点も厳し目っぽいですね。(すぐ人のせいにする)
一般教育科目がグロいです。お目汚し失礼しました。

トータルで6割ちょいあれば多分受かるよ!ってことは言えると思います。
ボーダーラインは知らないです。

ウワサ話(2024年3月29日追記)

水圏の色々な人と話したウワサ話です。ほんとがどうかは知らない。

・英語がダメだと他の科目がどれだけ良くても不合格(多くの外部生が英語で切られるそうです)
・専門科目はみんな熱心に勉強してくるから差がつきにくい(やっぱり)
・一般教育科目の物理や数学の問題はのガチ勢じゃなくても解ける(筆者は無理)から狙い目になりうる
・内部生は本郷の研究室に残るのがほとんどなので、枠を勝ち取るならば相応の覚悟が必要

おわりに

このnoteは忘備録も兼ねているので参考になったかはわかりませんが、ぜひ有用な情報を抜きとって院試勉強に役立ててください。

少なくない不合格者が出る試験です。「努力すれば全員合格できる!」みたいな綺麗事は言えませんが、この長い記事を読んでくれた貴方が合格を勝ち取ることを祈っています。


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