「容疑者Xの献身」読後感想。小説ご無沙汰してたけど久しぶりに一冊読んだ

ここ最近は二次創作か漫画や映画の小説版を読んでばかりでしたが、縁があって今回「容疑者Xの献身」を完全初見で読みました。

かなり、というかほんとうに素晴らしい作品だったので感動のあまり感想文を書いてみた。

ちなみに私はガリレオ作品について「なんか主人公が教授か先生だったはず」程度の知識しかありません。
なので最初、石神さんが数学教師として出てきたので「この人がガリレオかな?」と思って読んでしました。がっつり犯罪にかかわってきたので「あ、もしかしてこの人じゃない!?」となりました。

ミステリー部分について

個人的に謎解きはあまりするタイプではなく、「もしかして犯人コイツじゃね?」を読みながら考えるくらいなので、今回は犯人も分かってたのでミステリー部分は重要じゃなくてそこにたどり着くまでの人物描写がメインなのかなと思ってました。

そしたら映画の話が出てきた辺りで「あれ?これは読者に与えられてない描写に重要なものがあるな?」と思い始めてきたのです。

そこまで来てようやく、「そういえばそもそも殺人が起きた日が何日かはどこにも書いてなかったな…?」と思い、『何故前日のことばかり聞くのだろう』の所で「そ、そういうことか~~~!」とたまげました。完璧な叙述トリックですわこれは。

トリック部分について

わかるか!!!!!!!こんなん!!!!!!!わかるか!!!!!!!!

いやでも二つの事件が重なるとかよくある話で…いやわかるか?わかりませんでした。
初見でわかった人、よかったらコメントください。どこで推察したかも合わせて知りたい。

正直死亡推定時刻をずらすようななんか…調整?をしたぐらいだと思ってました。まさか冒頭のホームレス紹介から仕込まれていたとは…。

文字書きの端くれとしては、こういう長編小説の話の組み立ては見習って行きたい…本当にすさまじい、人物の性格を表すのに使うであろう冒頭に、重要部分が仕込まれるとは…

登場人物の関係について

人を信じたいという気持ち、守りたいという気持ち、裏切りたくないという気持ち、逃げ出したくなる気持ち。
なんというか「人が人に対して思う感情」を様々な角度、形、種類で表現されてるなと思いました。

石神さんから靖子さんへは一貫して「幸せでいて欲しい」だった一方で、靖子さんから石神さんへは「よくわからない」→「頼りにしている」→「怖い」→「罪悪感」→「この献身に応えなければならない」へと常々変化していったのが対照的だなと思いました。

最初はあんなにも工藤さんに対し敵対心を露わにして、それに伴い靖子さんにも脅しをかけようとしていたのに、「信用に足る人物、貴方を幸せにできる」と書いたのはあまりにも”献身”過ぎるなあと思います。
人はここまで他人のために献身的になれるのか、でもそれが自分の人生に意味を見出してくれた存在だと思えば当然なのか、今の私には何ともわからないものです。

それと、「真実を伝えるには残酷すぎる」「しかし伝えなければあまりにも彼が報われない」という、人情と友情の間で揺れる湯川さんのこのやるせなさがすごくもどかしく伝わってきました。

前述しましたがガリレオシリーズはほぼミリしら状態なので、湯川さんと草薙さんの友情も詳しくは知らないのですが、今回読んだだけで二人の間の友情がしっかりと描写されていたため、「最近友人になった草薙」と「それよりも前に友人になった石神」との対比が初見でも理解しやすく、その辺りはストレスなく読めたかなと思います。
2人に対する形の違う友情を持つ湯川さんの苦悩っぷりも色濃く描写されていてとても良かったと感じました。

読後の総合的な感想

どこまでも淡々と、冬らしく寒々と進んでいく文章が、残りの数ページ、真相が明かされていった瞬間、まるで強風が過ぎるように激しく感じられました。

石神さんも湯川さんもあまり感情むき出しの描写されることはなく、草薙さんや靖子さんも苦々しい雰囲気が続いた中で、最後数ページで一気に感情を露わにしていったため、それに中てられるように自然と涙があふれて止まりませんでした。

文章の密度や濃淡、そういうところまで緻密に計算された作品でした。

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