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親なき後の生活に向けての準備

 先日、就労移行支援・自立訓練の事業所の保護者会でお話する機会を頂きました。最初のお題は「ショートステイとグループホーム」ついて保護者からの問い合わせが増えてきたので詳しく説明してほしいとの内容。担当者との打ち合わせにて、保護者さんから具体的にどんな相談があるのか詳しく伺うと、「親が病気をしたり何かあった時にどうしたらいいのか?」「親も高齢になってきて将来のことが心配になってきた」「ショートステイやグループホームってよく聞くけど、どのように使ったらいいのか分からない」「家族と少し距離をおいて過ごした方が良さそう。」「相談支援専門員さんになかなか相談できていない。」などの相談があるとのこと。

 それって、ただ単にグループホームやショートの説明をするだけでいいのか?いやいやそれではだめな気がする。。制度の説明だけなんて誰でもできる、相談支援専門員として基幹相談支援センターの立場として何を伝えられるのか?を考えた上で、

「親なき後の生活に向けての準備~地域生活支援拠点の『相談』『体験の機会・場』の活用~」というタイトルをつけ、以下のような内容にしました。お話したことで整理できたことが沢山あるので、記録に残しておきます。

我が市の相談支援体制は3層構造

 まず最初に「相談支援」とは、生活する上で色々な不安や悩みを抱える相談者の相談に応じ、まずは本人・家族の想いを真摯に受け止め、本人・家族が何を望んでいるのか、望みを叶えるためには何が必要かを一緒に考えていく。経済的に困っていないか、健康管理はできているか、権利は守られているか、意思決定の機会はあるか、社会参加できているか、支援する上でのキーパーソンはいるか、などの専門的な視点で関わっていく。支援が必要であれば、その人に合う地域の社会資源(フォーマル・インフォーマル)を検討・情報提供し、繋いでいく。その人を支える支援チームをつくり、、継続的・包括的に支援していくもの。私たちは伴走型支援と呼んでいます。

次に相談支援体制について。私が住む市は、相談支援事業所(特定相談・一般相談・障がい児相談)、区基幹相談支援センター(市内14か所)、市基幹相談支援センター(市内1ヶ所)の3層構造になっています。私は区基幹相談支援センターに所属していますが、①困りごとなんでも相談、②地域のネットワークづくり、の2つの役割があります。

福祉サービスについて(ショートステイ・グループホ―ム)

 お題を頂いていた「ショートステイ・グループホーム」は、障がい者総合支援法の中に定められている障がい福祉サービスのひとつです。訪問系、日中活動系、施設系、居住支援、就労系など目的に合わせて定められている中、ショートステイ(短期入所)とは、在宅で障がい児者を介護している人が疾病、事故、出産などで一時的に介護ができない場合に宿泊を伴った生活支援を行うもの。グループホーム(共同生活援助)とは、地域社会の中にある住宅(アパート・マンション・戸建て)にて、必要な生活支援を受けながら共同で生活する住居のこと。両者とも地域生活をする上で活用できる貴重な社会資源です。

親なき後の生活を見据えて準備しておくこと

  次に実際の利用に向けた事務的な手続きについて。ショートステイを利用する上で障がい支援区分1以上というのが条件になります。グループホームは障がい支援区分は必須ではないですが事業所から求められる場合があるので、事前に申請しておくことをおすすめします。あとは相談支援専門員に相談→役所へのサービス申請→計画案の作成をお願いして、受給者証を発行してもらいます。

 では、実際にどんな風に使っていけばいいの?具体的な利用の手順について整理しました。ここからが一番伝えたいところ。

①緊急時ってどんなことが予測されるか話し合う(相談)

 まず、「緊急時」といっても親の体調不良や入院、祖父母の介護、兄弟の出産、冠婚葬祭、家族間のトラブルなど(少し距離を置いた方が良さそう等…)予想される状況は家族によってさまざまです。今後、どんなことが起こりそうか?ということをまず家族で考えておき、相談支援専門員に相談しておくことをお勧めします。家族が高齢になり体調が悪くなってから「このままだと共倒れしてしまいそう…」と周りの支援者が心配してつながってくるケースも多いので、早めに話し合っておくことが大切だと感じています。

②本人の気持ちを確認する(意思確認)


 次に緊急時が起きた時に本人がどうしたいのかという本人の意思を確認することが大事になってきます。

例えば、親が入院することになった場合に、どこで過ごしたいのか?
・家にひとりは不安なのでどこかに泊まりたい
・仕事に行きやすい場所がよい
・学校や部活もあるし、生活リズムを変えたくない
・知らないところに行くのは抵抗があるので家で過ごしたい
・でも知らないヘルパーさんに家にきてもらうのは抵抗がある 

親がいなくなった後はどのように暮らしたい?
・人と関わるのが苦手なので一人で暮らしたい、でも家事ができるか心配
・ひとつ屋根の下で何人かで一緒に暮らしたい。賑やかな方が安心だな
・今の家で静かに暮らし続けたい。でも病気した時が心配、金銭管理に自信がない
…等
 当然のことですが、人によって希望する生活や感じている不安はさまざま。まずはここをしっかりと本人と確認すること。本人が「一人暮らしをしたい」と思っていても、家族としては「一人暮らしなんて心配、施設で暮らしてほしい。」と思っている場合もあるので、その場合はなぜ家族が不安に思っているのか、どのあたりが心配なのかを相談支援専門員が聞き取り、本人・家族が納得いく形でのすり合わせが必要になります。

③地域の社会資源情報を集める(情報集め)


 そして、上記の希望を叶えるためには地域にどんな社会資源があるのかを情報収集します。最近は社会資源がとても増えました。例えば、ショートステイでは、大きな福祉施設の一角でしているところが多かったですが、マンションの一部屋でしているところ、放課後デイサービスの一角でこども達とわいわい賑やかに過ごせるところ、など色々なタイプの事業所ができました。グループホームについては、一軒家のシェアハウスタイプ、マンションのひとり暮らしタイプ、集合型の施設タイプ等があります。食にこだわったり、24時間夜間対応もされていたり、街中にあったり、田舎にあったり。社会資源が増えると、相談支援専門員からも提供できる情報が増え、本人に合った生活スタイルを選ぶことができます。

④見学・体験して、イメージを膨らます(体験)


 そして、情報を知った上で「ここ良さそう!」と思った事業所に見学に行きます。自分の目で見て、耳で聞く、雰囲気を肌で感じることができます。事業所内の雰囲気、費用面、送迎の有無、食事内容、夜間のサポート体制、支援者との相性など見学することでイメージが湧くことができます。本人・家族だけで行く場合もありますが、やりとりなどに不安がある方は相談支援専門員が一緒に見学に行き、利用する上での気になるポイントなどを一緒に確認できます。実際に見る中で、「こんなにおしゃれな部屋に泊まれるんですね」「にぎやかで楽しそう」などの感想を頂くこともありました。見学の後は実際の体験利用です。ショートステイであれば1泊から、グループホームでは2泊3日、1週間、1ヶ月など希望に合わせて利用できます。

⑤振り返りの時間をつくる(意思確認)

 体験した後は、実際に利用してみてどうだったのかを振り返る時間を作ります。相談時は「新たな場所に行くのは抵抗があるので家で過ごしたい…」と言われていた方が、実際に体験をすると「とても賑やかで楽しかった。また行きたい。」などと気持ちが変化していることもあります。「個室で静かに過ごせてよかった」「初めての場所で緊張して眠れなかった」など感想はさまざま。当たり前かもしれませんが、①相談→②意思確認→③情報提供→④体験→⑤振り返り、というこのプロセスを丁寧に積み重ねていくことがとても重要だと思います。本人の意思が置いていかれたまま、家族の希望だけで話が進んでしまうと、いくらサービス利用の準備ができても、うまくいかないことが多いです。不安な点については解決策を一緒に考えながらひとつずつつぶしていくこと、何か手出てはないかを考え、情報提供し、実際に体験する、このプロセスの繰り返しで、ある日突然緊急事態が起こった時に本人・家族が安心して利用できるのです。

「親亡き後の準備」って本当に壮大なテーマですし、今日書いたことはほんの一部のお話になりますが、本人の意思確認、そして意思決定するための経験を積むこと(体験・振り返り)、ここをサポートするのは相談支援専門員の大きな役割だと思います。

まずできることから少しずつ。

お話する機会をもらって、本当に感謝です。

久しぶりの記事でとーーっても長くなってしまいましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。


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