誰にでも始まりがあるように、私の起業はあの日から始まった
2015年、10月31日。
ハロウィンの仮装に身を包み、浮足立っている多くの人に囲まれて、わたしは、日比谷野外音楽堂の観客席にいた。
そこから、わたしの起業の物語が始まる。
当時、引き寄せの大ムーブメントが起きていた。
ムーブメントの火付け役で合ったHappyちゃんがプロデュースした、さとうみつろうさんのハロウィンイベントが開催された。
「みんなで、夢を叶えよう」
会場のどこでも、自分のサービスを提供していいことになっていた。
ステージで、歌やダンス、パフォーマンスを披露する人、スタンド席で、手作り雑貨やお菓子を販売する人、作品を販売したり、筆文字アートを提供する人たちがいた。
夢を叶えよう、好きなことを仕事にしよう。
会場は、たくさんの人のわくわくとした熱気に包まれていた。
そんな場所に、ひとりで乗り込んだ。
ちょうどそのひと月前の9月30日。
わたしは、人生で一番悲しい出来事を経験した。
お腹に宿った3番目の子が、ちょうど私の片手に乗るほどの小さなからだで、お空に還っていった。
秋晴れの、澄んだ青空がまぶしい日だった。
何かをせずには、いられなかったのだろう。
ただ、ぼーっと過ごしていると、いつの間にか悲しみが心に染まっていく。
習ったばかりのカードリーディングを、人に提供してみようと思った。
ハロウィンイベントの当日の朝まで、参加するかどうか悩んでいた。
それでも何かに心が突き動かされ、ありったけの勇気をふり絞って、ひとり会場に向かった。
会場に着くと、何をどうしたらいいのかわからなかった。
「どうやって、カードリーディングを提供したらいいのだろう」
ステージから遠い、周りにひとがあまりいない席に座り、会場の様子をうかがった。
ステージで行われるパフォーマンスを眺めながら、カードリーディングを始めるタイミングをはかっていた。
なかなか、勇気がでない。
会場を一周し、お店を出している人たちがどんな風に商品を売っているのか偵察に行った。
まだ、勇気が出ない。
「せっかく、ここまで来たのに、何もしないまま帰るのか?」
自分を奮い立たせた。
家で用意してきた、画用紙に書いた看板を鞄から出し、隣の椅子に置いてみた。
そして、また、何事もなかったように、ステージに視線を戻す。
「誰も、声をかけてくれなかったらどうしよう」
失敗することの恥ずかしさや、不安が心にいっぱいになった。
しかし、その不安はすぐに消えていった。
まもなく、一人の女性に声をかけられた。
わたしの、初めてのお客様。
初めていただく、仕事への対価。
カードリーディング、1回100円。
その日は5人の方にサービスを提供した。
「100円じゃ申し訳ないから。お礼の気持ちですから」
一人のお客様は、500円を置いていってくれた。
売上は全部で900円だった。
イベントが終わり、いてもたってもいられず、その900円を握りしめ、ステージ上にいるみつろうさんにあいさつに向かった。
こんな貴重な機会を提供してくれたみつろうさんに、どうしてもお礼を言いたかった。
はじめて、カードリーディングをお金をいただいて提供したこと。
とても嬉しかったこと。
そして、今日の売り上げの900円をみつろうさんにお礼として差し出した。
すでに著書を何冊も出版しているみつろうさんにとっては、900円なんてはした金だということはわかっていたけれど、でも、きっと、みつろうさんならこの900円の意味を分かってくれる、そんな風に思ったからだ。
しかし、みつろうさんは、900円を受け取ってくれなかった。
「いい!いい!自分のために使った方がいいから!
帰りにモンブランでも買って帰って!」
そして、ハグをしてくれた。
今なら、みつろうさんが私にかけた言葉の意味がわかる。
はじめての売り上げを、自分を喜ばすために使うことの意味が。
その後、みつろうさんはますますご活躍で、きっともうお会いする機会はないだろう。
それでも今でも、誰かがみつろうさんの話をしたり、みつろうさんの本を話題にしていたりすると、勝手な親近感を覚え、あの日のみつろうさんの優しさを思い出す。
ハロウィンイベントの最後、会場に集まったみんなで赤や青や黄色の彩どりの風船を飛ばした。
私の手元から飛び立っていった風船は、たくさんの風船にまざって、夜空を彩った。
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