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貪婪の王はかつえる

 貪婪の王の話をしようか。

 俺がいきなりこんなこと言い出して、腫瘍で脳までイカれたと思うだろう、倅や?
 だがこいつはお前だけ、お前だから話すんだ。俺が女共に産ませた子供の中で、お前がいっとう俺に似てるからな。母親が良かったのかも知れねえ、名前は何だったっけ?
 そんな顔するな。自分がひとでなしだってことは嫌って程解ってる。お前が俺を嫌ってるのも知ってる。その上、酷い嵐なのにわざわざ俺の話を聞きに来たのは遺産が気がかりだからだろう?安心しろ、全部お前にくれてやるさ。
 だからもう少し寝台の傍に来て、俺の話を聞いてくれ。瀕死の老いぼれの最期の願いだ。時間はかけないさ、特別な客との約束もあるしな。

 1944年の事だ、俺は連合軍のフランス西海岸への上陸作戦に参加した。俺がいたのは被害が甚大だった第1歩兵師団でな、砲弾が直撃して数m隣の奴がバラバラに吹き飛んだのを見て、22の餓鬼だった俺は漏らす小便も尽きちまうくらいブルってた。死ぬのが怖くて仕方なかったよ。地面に這いつくばってここは地獄だと思ったさ。それ以上の地獄があることをすぐ知ることになったがね。
 凄まじい轟音と衝撃で地面が揺れたんだ。俺は転げながら味方の艦砲射撃の誤爆だと思った。でも違ったよ。それは俺の十数m前方で戦車よりもでかい蹄が地面を踏み鳴らした衝撃だった。
 そいつはあまりに巨大で、女の上半身に馬の様な四つ足の下半身をしていた。頭には沼色の長い髪と、ヘラジカの様な角が生えていた。顔は…、信じられないくらい美しかったよ。人間が如何に歪で不完全な生き物か思い知らされる程な。ただ、目は禍々しかったよ。眼球の白目があるべき部分は真っ黒で、金色の瞳が光っていた。
 それは手を伸ばし戦車を掴み上げると、玩具のように見えるそれに指を突っ込んで兵士をつまんで引きずり出し、うっとりした顔で虫みたいに暴れるそいつを巨大な舌で嬲り、噛み砕いたんだ。

【続く】

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